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09 娘のために戦う父ちゃんはカッコいいって相場は決まっている。

急展開はいります。

 数歩離れた位置に立ち止まり父娘を眺めていた王が、無言で片手をあげて城兵を呼んだ。


それぞれ違う帽章を提示した城兵らが、てんでばらばら、しかしすばやく集まってくる。

 淑女への礼儀としての距離間は保たれていても鎧の巨体に囲まれる形になったアウローラが圧迫感に父親へ身を寄せれば、力強い抱擁がそれに応えた。

背の高い父親に頭ごと抱きすくめられ、外の様子が目視できなくなるが、間際に王の手信号が「来い」から「人質」そして「連行」に動いたように見えた。


「平民牢は強固だ。自力脱走が不可能と知っているだろう。待ったとて無駄なことも。別れを惜しむ時間は十分にくれてやった。望み通りこの私が説明にも黙って付き合ったんだ。

もう時間かせぎはおわりにしろ、フューセル。公爵でいたいならば、とっとと覚悟を決めて従え」


「ははははは。僕に護衛ひとり伴うことを許さない代わりに、そちらも兵は使わないはずだろう、フレドリク? 陛下の健やかなる治世を信じ、こんなにも尽くしてきたっていうのに、ひどいなぁ…結局()()()()()()()()()()()!?」


フューセルが嗤った。

「王姉の膨らんだ腹に剣を突き付けてまで望むから、義弟(アレイン王)は王の地位をあなたに譲った。議会制という概念の発案者たるあなたに、円卓は実質的ないいなりだ。

この国は確かにあなたのものですよ、陛下!

だけど約束を軽視すれば失うのは信頼だけじゃない。それはあなたの不利益になるはずだ」


「…王を名乗るは飾りだ。わたしはあくまで円卓の一員にすぎない」


「またまたご謙遜を。

我が国は今も絶対王政ですよ。


円卓が全てを決めているなんて真っ赤な嘘!

御自らの検閲により、彼らに決められる事など陛下にとってどうでもいい議題にとどまっている。

重要な議案はあなたの独断により公布され、あるいは打ち捨てられている!


 調べればわかるのですよ、それくらいのことは」

フューセルの、演説慣れした聞き取りやすい大声があたりに響き渡る。


アウローラは息をのんだ。


え、まって、なにそれ知らない。


見えないが、あたりの兵も同じことを思った気がする。だって空気が動揺しているし。


「あわれなるは自覚なき操り人形、その名も円卓なり!

張りぼての影に潜んでいないで、堂々となさるがいい。

何故ならあなたはすでに唯一にして偉大なる我が国の支配者。


我らが王よ、かつてあなたは前王たる私の義弟(アレイン)の前で口にしたはずだ。


いたいけな民を守り、国を善く導けるのは我だけだ、と。


その言葉が本音ならば体現するは今だ!

冤罪で生贄にされるこのいたいけな娘に、離宮でひたすら幼き夫(フレドリクの息子)に尽くしてきただけのこの王太子妃に慈悲を与えたまえ!」


フューセルの叫び声は朗々と響き渡り、静かな中庭に静寂を呼んだ。


血を吐くような声音のそれに、四方に建つ棟からも人目が集まっているのを肌で感じる。


フューセルが捨て身の勝負に出たことはわかった。

彼らしくなく賭けに出たようだ。

恐らく、秘密裏の交渉は既に決裂していたのだろう。そうアウローラは推測した。


もはや万策は尽き、後はもう広く耳目を集めて言質をとるやり方しか術がなかったのかもしれない。


 アウローラは牢の中で演者のように叫んでみせた父親を思い出した。


道理よ、ひっこめ。無理様のお通りだ。


確かにこの状況ならば、王は量刑を軽くするといった言葉を使うしかなくなる。

そう言わざるを得ないよう、フューセルは状況を作り出した。

しかし、これは。

これでは。

アウローラは背筋を冷やす。

こんな無理なことをしたら、公爵家そのものが処罰されかねない。


アウローラはここにきて初めて己の行き先に恐怖を抱いた。


(お父様がここまでして行かせたくない場所って…予定された流刑地とはどこのことなの。…わたくしは一体どんな蛮地に行かされるというの…?)



アウローラは、父親の胸板に押し付けられるように抱き込まれたまま、考えこんだ。

やたら硬いそこに押し潰されるほおの痛みが少し増した気がした。



フューセル(44)全力投球オジ。

フレドリク(38)黒幕オジ。


<解説>

議会制「みんなで話し合って色々きめようぜ」という概念を発明したのはフレドリク王。

公式では円卓が前王アレインを説得しての政権移譲ということになっているが、実際はフレドリクが単独で王姉(フューセルの妻。妊娠中)を負傷させ人質にとったうえで王位を簒奪した、つまりクーデター。

円卓はそのことを知らない。

自分たちの議題にあがる前にフレドリクが検閲しているのも、優先順位ごとに仕分けしてくれている程度の認識で気づいていない。


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