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12 近いと迷惑、遠いとほほえましい

 妃殿下を求めて離宮を出たレルムはまず城内への入城許可を求めた。


離宮警備隊は、書類上は城内警備を担当する第1隊の分隊にあたるため比較的に待たずに許可がおりる。


そして、即、その場で貴賓牢への面会申請書をだす。

隊長の指示どおりの正攻法だ。


しかし、受け取った城内の受付は、困った顔で不可の印を押し、そのままレルムに返してきた。


「すいません、お受けできず。円卓の指示により、先日から貴賓牢への面会及び差し入れなど一切が禁止されております」


レルムは頷いて、返された申請書を懐にしまう。そして思い出したように「そういえば」とつぶやいた。

「…さきほど、特別司法書記官殿の姿を見たのだが」

「ああ、確かに戻られましたね。早朝にあわただしく出かけて行ったので何事かと思いましたが…」

「女性を連れていた」

「そうです、そうです。驚きました。その女性、随分と洗練された所作で明らかに尊きお方なのに、ベールもなしに出歩いていて」


そこまで聞くと、レルムは受付に頷いてみせて会話を終わらせた。「ありがとう」「どういたしまして、お気をつけてお帰りください」


 受付から離れたレルムは城内の案内図を眺めながら考える。これからどう動くか、ではない。


彼が考えていることは、ベールを身につける暇も許さず、己の主君を離宮の外に連れだし人目にさらしやがった破廉恥なクソどもをどうわからせるか、であった。


すんとした神妙な面持ちでありながら、彼の頭は怒りで煮えたぎっていた。


煮えたぎりすぎて、肝心の主君の救出という目的が頭からすっぽ抜け、手段であるはずの実力行使が目的にすりかわっている。


鳥頭なのだ。

優秀なのは確かだが。


こうなると、彼いわく「破廉恥なクソども」が痛い目を見ないことにはまず落ち着くことはない。

目的を達成しさえすれば、すんとまた品行方正に戻る。そのあたりが彼を狂戦士といわしめる所以である。


公式の彼の称号は「剣豪」。

常に100人しか得られないそれは、旧王朝時代から続く由緒正しい総当たり戦での大会で結果を残した武の達人への褒賞だ。


非公式の彼の称号である「妃殿下狂い」「狂戦士」に関してはもう言うに及ばず。

自業自得の結果である。


彼を知る誰もが彼のアウローラへの崇拝には密かな熱い感情が潜んでいると悟っている。

だからこそ暴走するのも若気の至り、王太子妃への叶わぬ恋に耐えながら健気に仕える姿はまるで「奉仕する騎士」の献身のようだと、勝手に夢を抱き、ノスタルジーに酔い、報われぬ身に同情し、彼への評価を甘くしていく。


 特に、実際の暴走を目にする機会はないが報告で彼を知っている円卓にとって、離宮警備隊の隊長サージェントから不定期に届くレルムについての服務規程違反審査請求書は、とても良い気晴らしとして親しまれていた。


 新たに届けば「新作がきたよ」と喜び「若いっていいね」と無責任に楽しみ、「設備ちょっと壊しちゃったかぁ、仕方ないから特別給付しちゃおうか、ポケットマネーでね。ちょっとだけね」と孫にお小遣い感覚で我も我もと封筒に現金がさしこまれ、隊長の元に「修理代」という名でその封筒だけが届く。


審査請求書の結果は届かない。


何故なら内容だけみれば除隊にせざるおえなくなるから。


いなくなっちゃこまるよ、我らの貴重な気晴らし。


円卓の暗黙の総意により、隊長渾身の審査請求書はそれ専用の箱に溜まっていき、今日も自由な閲覧によって円卓を和ませている。





そんな(直接関わらなければ)マスコットとして可愛がられがちなレルムは、紆余曲折のすえ、平民牢にいた。


全裸で。


窓がないため時間もわからない。

壁も床も天井すらも鉄板が見え、頑強そうな石壁はその名残を四隅にのこすのみ。

床には砕けた石が散乱し、空気も割れたばかりの石の匂いで、どことなくほこりっぽい。


レルムは荒れたその牢の鉄格子のそばで、地面に直接うずくまり、頭を抱えていた。


全裸で。




円卓は、ちょっと夢見がちで正義心が強いだけで、基本的に気のいいおじちゃんたちの集まりです。

公私混同している自覚はありません。

栄えある円卓に名を連ねるにふさわしい公正な人間だと自負しています。


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