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10 黒幕は美声のイケメンって相場は決まっている

しんと静かに緊張した中庭に、強い風がふく。


足元の草花が大きく揺れ、アウローラの髪先を乱した。


その風は王の後ろに流していた長髪をも乱し、ラバ襟をなびかせ、俯いた王の顔を一瞬すべて隠した。


凪が訪れ、王はゆっくりと両手で髪をかきあげながら顔をあげる。

眉間のしわも変わりなく、いつもどおりの無表情にはなんの感情も浮かんでいない。


「…円卓の正常化が急務だ。絶対正義を体現する彼らが落ち着かねば、この国は亡びるだろう」

王は諭すようにゆっくりと語りはじめた。

「旧王家の血を継ぐ王太女アウローラよ。人を消す力をもつ危険な遺物であれば、全てを知るそなたが本来、管理すべきであった。何も知らぬ我ら円卓を惑わした罪を償っていただきたい」


中庭に響いた重低音は心地よく、説得力をともなっていた。

王の声は美しい。

声量はさほどでもないのに、四方の棟の窓際にいた人間にもはっきりと内容が聞き取れた。

すると、とたんに人々は直感的に思い込んだ。


王は、()()()()()()()()()()()()()()のだ、と。


王の言葉は正しい。なぜなら「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」。


 そこから、がらりと流れが変わった。まるで魔法のように。


公爵家当主の告発は、人々の頭の中で内容がぼやけて、取るに足らない話だったように受け止められた。


なにやら言っていたが、ようは嘆願だ。

しかし円卓が決定したからには娘は償わなければ。

なぜなら円卓は絶対正義であり、たとえ公爵家の姫でも忖度なく正しい量刑を下しているはずだからだ。

世が世なら王太女という高貴な存在なのだから、見苦しく抗わずその責任を粛々と受け取るべきだ。


 その場の誰もがそう思い、フューセルへ冷たい目を向ける。

もはや彼は娘かわいさに人前で醜態をさらす道化として存在していた。


フューセルは悟った。

切り札が無効化されたことを。流れももう取り戻せない。この告発は誰からもなかったことにされるだろう。


 歯を食いしばり、抱いた娘を隠すように身を丸めながらこちらを睨みつけるフューセルを、王はしばらく黙って眺めていた。

そして、おもむろに首をかしげてから軽くふって、アウローラたちに背を向ける。


「今度こそわたしに遅れないように。円卓はお前の口をふさぎはしない。そこで存分に話せ」そう告げると、そのまま歩き去って行った。




 「…人間を、もの考えぬ獣に変える魔物が。よくほざく」

フューセルがうめくように低くつぶやいた。聞き取れなかったアウローラが顔をあげようともがくと、一呼吸おいてから父親は腕をほどいた。


 抱擁から解放されたアウローラが息継ぎがてら見上げるも、父親の表情はいつもどおりに穏やかだった。

「負けちゃった。行かなきゃね、アウローラ。…ごめんね」

守り切れなくて、という声なき声が聞こえた気がした。


アウローラはにこりと貴婦人のほほえみをうかべ、エスコートの腕を差し出す父親に掴まって歩き出す。


その周囲を囲った城兵たちもそろって歩き出す。静かに距離を保ち、しかし存在感を発することで父娘の歩く速度を緩めさせずに、つき従っている。



 中庭は終わり、城内に足を踏みいれても、その囲いはとけない。

王の命令どおり、アウローラが逃げ出さぬための人質たるフューセルごと、円卓の場に連行しきるまでは。


「…さっきの話だけど、女の子たちに流行っている本は物語が多そうだね? 僕は、物語はあんまり知らないけど、歴史書ならたらふく読んでいるから昔本当にあった面白いエピソードならどこまでもしゃべるよ。別宅で披露すれば毎回大好評だ。女の子たちにも今度話してあげようかな。アウローラは何でも読むけど、特に挿絵つきの本が好きだろ。僕も好き。だからもし自分だけの紙が手に入るなら料理や菓子に関わる広告絵がいいね!」


エスコートするアウローラの手の上に逆の手を添え、フューセルは軽快にしゃべり続ける。

なにもなかったかのように。

いつもどおりを意識して演じているのだ、とアウローラにもわかった。


アウローラも笑ってみせる。

恐らくこれが最後の会話になると気付いたから。

ここにいるのは罪人と人質じゃない。冤罪の王太子妃と公爵家の当主であり、気の合うおしゃべりな父娘だ。


円卓の場以降、もう会えなくなるというのなら笑顔で楽しい思い出を作る。


フューセルのおしゃべりに頷きかえしながら、アウローラもまたたわいない話をふった。

少しでも長く続けばいいと願いながら。


(どこに行ったとしても、わたくしは大丈夫。

公爵家も、このお父様がいれば大丈夫。この国も…レルムだけじゃない、お母様もいる、アルフレッドだってやればできる子だもの。

環境さえ整っていればきっと実力を発揮できるわ。


大好きな人々に、どうか幸運が訪れますように)


そう祈りをささげると、アウローラの胸の奥で、温かい何かがすっと消えていったような気がした。




魔法という概念はありますが、おとぎ話の中にしか存在しないと誰もが考えています。

細分化も「善い魔法」と「悪い魔法」くらいしかなく、具体的なことを創造する人もいません。


現実にあるわけないじゃんー魔法なんてそんな都合のいいものー(笑)

もし使えたら?

そりゃとりあえず金はどっさり手に入れるよね。それから嫌いなアイツは食事のときに毎回パン掴み損ねろ。などと真顔になるくらいには大人も憧れを持っているようですが。

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