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第20話★「魔獣出現」

夕暮れが街を黄金に染める頃。視察を終えた僕たちは、馬車で屋敷へと戻ろうとしていた。


そのときだった。


「魔獣が出たぞーッ!!」


鋭く、切羽詰まった叫びが響く。辺りの空気が、一瞬で張り詰めた。


近くの駐屯地から走ってきた騎士が、息を切らせながら報告する。


「森の東、村の近くです! 巨大な魔獣が出現しました!」


「魔獣……?」


聞きなれない言葉に、僕は思わず問い返す。


騎士が焦りを隠さぬまま続けた。


「魔物と違って、より狂暴で、強大な個体です。しかも知性を持つものも多く……村に向かっています!」


レオナさんの目が鋭く光る。


「全騎士、即座に展開。A隊は東から、B隊は村人の避難誘導。残りは私に続け!」


次々と的確な指示が飛び、騎士たちは迅速に動き始めた。


「僕も行きます!」


思わずそう口に出していた。


レオナさんは振り返らず、きっぱりと答える。


「ダメです。あなたはここにいなさい」


「でも、僕にも……何かできるかもしれません!」


「いいえ。戦場は、遊び場ではないのよ」


言葉は厳しかったけれど、その目には僕を案じる深い想いがあった。


そのとき──


「レオナ様」


アデルさんが馬を駆って現れた。


「ここにカイル様を残しても不安要素は拭えません。であれば、レオナ様のそばが最も安全かと」


レオナさんが一瞬だけ逡巡した。


「……絶対に、私から離れない。それが条件です」


「はい!」



小隊は馬を駆り、森の方角へと急行する。


僕はレオナさんのすぐそばに位置し、緊張で手のひらに汗をにじませながら周囲を見渡していた。


そして、森の縁。土煙と咆哮が空気を震わせた。


そこにいたのは──


体高五メートルはあろうかという、巨大な牛型の魔獣だった。 黒く分厚い皮膚。背にはねじれた角。瞳は紅に染まり、理性の欠片も見当たらない。


「配置につけ! 包囲して追い詰める!」


レオナさんの号令が飛ぶ。騎士たちは剣を抜き、接近戦に移る。


魔法を使おうとするレオナさんだったが、彼女は苦い顔で魔力を収める。


「火属性じゃ、あれを倒した瞬間に近くの家も巻き込む……」


騎士たちは魔法が使える者は身体強化の魔法を施し、武器を構えて突撃した。


魔獣の巨体が暴れ、土煙が舞う。だが訓練された騎士たちは冷静だった。


斬撃が肉を裂き、少しずつ、確実に魔獣は体力を削られていく。


「いいぞ……!」


僕が思ったその瞬間。


魔獣が突如、方向転換し、狂ったように逃げ出したのだ。


「待て、そっちは──!」


レオナさんが叫ぶ

  

その先にいたのは……昼間、僕に花をくれた、あの小さな少女だった。


「逃げて!!」


周囲の誰もが叫んだ。 でも──間に合わない。


少女に向かって、魔獣の巨大な蹄が振り下ろされたその瞬間。


時間が、止まった。


……ように感じた。


空気が震える。 地面が軋む。


僕の中から、何かが溢れ出していた。


止まらない魔力。体の奥底から、制御不能なほどの力が解き放たれる。


なんの属性も無い、純粋な魔力が溢れている。

以前とは違う。意識もある。苦しくない。


 絶対に助ける!


「……っ!」


 一瞬で少女の元に向かい、魔獣へ溢れる魔力を流し込む!



挿絵(By みてみん)



レオナさんが息を呑む。アデルさんも、目を見開いて言葉を失っていた。


膨大な魔力が魔獣を包む。


数秒後。


魔獣は悲鳴をあげることもできず、その場に崩れ落ちた。


……静寂。


僕は魔力が静まったのを感じながら、少女を見た。


彼女は震えながらも無事だった。


「怖かったよね……でも、もう大丈夫だよ」


僕は優しく少女を抱きしめる。


周囲の騎士たちは唖然とし、言葉も出せずに見守っていた。


「……あれだけの魔力放出を、暴走せずに……?」


レオナさんが、呆然とつぶやいた。


その目は、驚愕と安堵、そしてほんの僅かな恐れを宿していた。


 

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