運命の分岐点
~前回のあらすじ~
『見定め』で父から不合格を言い渡されたアマノは重音、レイン、ジロウの励ましを受ける。
が……、日常は一変する!!
突如として現れた灰色の魔族は重音を圧倒し、場を支配したのだった。
舞台は一度、コウヤ達に移る。
――sideコウヤ・コバヤシ
遠征が始まって8日目の夜だ。
ブン……!
俺 は メイ に見られながら【聖剣】を振るっていた。
「……素振りは もういいかもね…」
「…分かった。 木切ってみるわ…」
外でキャンプのような経験はしたことがなかったが、不安を感じることはなかった。ご飯は美味しいし、寝床もフカフカで、皆が優しくしてくれて不便がない。
『勇者』という貴重な存在だから……、そして、この中で一番弱いからだって分かっている……
いや、落ち込んでばかりじゃいけないと、少しは実力もついた、と自分を鼓舞する。実感していることでもあった。マサキリ先生 のおかげでスキル【聖剣】の暴発はなくなったし、アマノ君 のお父さんのおかげで剣術はだいぶ様になったと思う。
「水鏡流! 一波紋!!」
バコンッ!!
「…名前呼ぶの止めたら……? 変に力入ってるよ」
「……くっそ… 当たる直前まではイイ感じだと思ったんだけどなぁ…」
「…そうだね。 あと少しで形になると思う」
秘技〖一波紋〗の訓練と言ったら自然と2人きりにしてくれる。ありがたい限りだ。たぶん、〖一波紋〗がなくても2人にはなれるが、その時間が多いとなると…それはそれでハズいし、変な誤解を生みたくない。
「アマノ君 のお父さん… すごかったよな……」
「うん。流派を作っちゃうくらいには実力者だしね」
「……俺、全然見てないから知らないけど、重音さん の、あの…こころちゃん! …大丈夫なのか?」
「…最低限のサバイバル技術は叩き込んでるよ。 この辺だったら生きれると… うん、思う」
「戦えないんだろ……?」
「まぁ、戦う必要は基本ないからね。 サバイバルに必要な目を鍛えてるから大丈夫。まぁ、食欲とかで油断はまだあるみたいだけど…」
「……いつでも助けられるのか…?」
「ある程度の場所は把握してるよ、もちろん。 あと、隊員の一人は 重音さん と契約してるんだよね」
「え、初耳だけど……」
「私が表立った指導はしてるけど、その人が親衛隊みたいなことはしてくれてる」
「…根回しちゃんとしてるよな… 本当に…敵に回したくない人だな… ははは…」
「…あと… 重音さん の保険もあったみたいだし、大丈夫でしょ……」
「…保険……?」
「即死対策だよ、うん、それだけ…」
「…そうなんだな……」
つくづく、同じ日本人だったとは思えない。平穏なあの日本から来たにしては 覚悟 が決まりすぎているというか、日本人らしくない。…日本人を全て知っている訳じゃないが、どう考えても 重音さん みたいな性格はそういない。
「……前は アマノ君 に迷惑かけたけど… 一緒に稽古したりできないかな……?」
初めて【聖剣】を暴走させた時は、踏んだり蹴ったり…してしまった。
「…どうだろね…… 条件によっては…いい距離感を保てそうだよね」
「あー… やっぱり、目立ちたくないが強いのかな?」
「……まぁ、アマノ君 には アマノ君 の人生があるからね…」
「…き、嫌われてる可能性ってあるのか?」
「…私の経験上は、嫌ってるわけじゃないと思う。 大事なことが他にあるんじゃないのかな…」
「……大事なこと…か……」
《どうしようもない無力感に、すべきことを黒く塗りつぶされてるだけなんだ…》
アマノ君 には夢があるって言っていた……
アマノ君 には本心をぶちまけてるからこそ 友情 を感じているが、それは俺目線の話。アマノ君 自身の話はあまり聞けていないと、あの時、ショックを受けた。
だから…最大限気遣うようにって……思ってたのに……!
「……俺最低じゃん… アマノ君 の将来も、悩みも……何も気遣えてないってなるのか……」
こう感情的になったら自主練はもう無理だ。集中力が湧かない。
「……そうとも言えるかもね。 でも、大丈夫だよ。 アマノ君 は強い人だから気にしてないと思う…」
「……そうかな…」
「…そんな気がする。 彼の周りには、いつだって あの子達 もいるんだし……」
俺らよりも 重音さん や ジロウ の方が、アマノ君 と仲良しだ。
だから、大丈夫、俺らが入る余地なんてない…… それは 正しい とは思う
そこまで考えても飲み込めない。
「……それはそうかもだけど…… アマノ君 がしたいことがあったり、困ったりしてるんだったら、助けて当然だろ! それだけのことをしてもらった恩義はあるし、俺は アマノ君 が好きなんだよ!!」
「…誤解を生みそうな言い回しだね」
「……」
段々、冷静になってくると恥ずかしさが込み上げてくる。
「…ま、気持ちは分かるし、想いは一緒だよ…」
「…!! アマノ君 のこと好きなのか?!」
「……人としてね。 兄さん と同じ感情だと思うよ…」
「そっか、そうだよな…… まぁ、アマノ君 なら メイ とも合いそうだけどな…」
「そうかな……? …私じゃないよ」
「…何となくだよ。何となく…」
「……アマノ君 は皆に期待されてる『天邪鬼』だね…」
「! ああ! 本当に…そう思うよ……」
[思い出石] に初めて触れて、『初代勇者』を名乗る人影から言われた言葉。
[…あとは そうだな…面白い『天邪鬼』がいる。会えばすぐ分かると思うが、本人には このこと を内緒にしてくれよ]
『初代勇者』が言っていたのは、絶対に アマノ君 だ。他に考えられない。つい初対面の時に言おうとして メイ から止められたのもいい思い出だ。
「……アマノ君 の迷惑にならない範囲で…… アマノ君 と話がしたいよ…」
思い出したように【聖剣】を収める。
「…兄さん は アマノ君 のこと、なんで気に入ってるの……?」
「……なんつーか、似てるものを感じるからかな…」
前世の 俺 を重ねてしまうところがある…
「……」
「努力が空回りしたり… 斜に構えて物事を見たりするけど… 善性を捨てることができないっていうか…… なんて言ったらいいんだろうな…… ハハ(苦笑)」
そうは言いながらも、アマノ君 とは絶対的に違うと分かっていた。
「まぁ… 分かる気がする……」
「これだけ… 皆に、世界に後押しされてなんとか一人前になれる…かな……? それが俺だ…… アマノ君 の方がよっぽど、カッコイイさ…」
ただのカッコイイじゃない。『勇者』に選ばれた俺なんかよりも、ずっと…博識で、賢くて、大人的な対応ができる……本当にカッコイイのさ。
心の強さって感じで憧れすらする……
もはや、俺が アマノ君 のファンだ。…それでも、俺が アマノ君 の前で、兄貴ポジや対等な存在を振舞っているのも、年上だからカッコイイと思ってもらいたい『カッコつけ欲』がついつい出てしまう、そんな虚勢だ。
「……」
メイ は肯定も否定もしない。聞いてくれてるし、理解してくれてるのが、うっすら浮かべる笑みからも分かる。
が、次の瞬間、俺達 は その存在 に気付く!
俺 と メイ は空を見上げる。
ゴォォォォオ……!
「…なんだアレは…!!」
「…鎖……」
大きな黒い塊が2つ飛んできた。まだ遠くて着弾までは時間がかかりそうだが、俺ら 目掛けて飛んでくる。スキルを使うしかない!!
【剣我同調】…【聖剣】から力を引き出す起動スキルだ。これにより、全身に力が漲る。
「【剣我同調】 >魔剣士スタイル<」
魔法と剣術に特化した戦闘スタイルだ。対応力は現状最強。
何があっても、動じない…!
〘聞こえるか! 2人共!!〙
アマノ君 の声だった。
「ど、どこから……?!」
〘上から声を送ってる! 空に浮かぶ単鎖が見えるか? そこに俺と ジロウ、レイン はいる!!〙
「……!!」
メイ と顔を見合わせる。重音さん がいないことが気掛かりだ。何かあったに違いない。
〘現状を説明するが、その前に…結論を先に言う。 俺は、最速で! サンサン王国 に戻る…!!〙
友人の、恩人の…緊急事態だって分かった。これから状況共有が始まる。
ここで躓いたら、ダメだ……!!
全神経を集中させて現状の理解に努めることにした――
in単鎖(上空)
まだ鎖と空を共にして数分しか経過していないと思うが、現状を理解した。自分視点だとこうだ。
①重音さん が壁に吹き飛ばされる
②まばたきをしたら、リングに乗った状態だった
③〖ウェイブ〗魔法で ジロウ や レイン の安否を確認
④ポケットに、重音さん のメッセージの詰まった [思い出石] が入っていた
リングの上は安定しており、周りを見るとかなりの速度だと分かるが恐怖心はない。
そう、高所や落下なんていう どうでもいいこと に恐怖してる余裕はない…!
「…肝心のメッセージって、どんなだったんすか……?」
「[思い出石] を預かってほしいと…… 鎖は生きてる証だということ…… この単鎖は コウヤ達 に下に飛ばされていること。 そっち が 安全 なんだとよぉ……!」
「……?」
説明を続けるために冷静沈着を努める。
「…たぶん、あの魔族は…伝説の三塔主…だ……」
「あ、あの 三塔主 っすか……!!」
塔主とは、魔王の幹部に近い存在だ。それぞれが多数の魔族を率いる実力を有し他の追随を許さない程、異次元さを持つとされる3体の絶対的強者だ。
「……中でも、最悪とされる『不敗の虚無怪』……」
冷静になればなるほど特徴が合致する。
灰色の巨体、見え隠れする折れた牙や角、小指と薬指を無くした右手
博物館の『初代勇者』の手記で書いてあったことを憶えていた。
「…詳しくは知らないっすけど、会ったのに生きてるってだけでマジの奇跡っすよね……(ガチガチガチ……)」
「……」
この世界の中でも、取り分け 異常な存在 を目の当たりにしたんだ。これまで感じたことのない存在感、殺気。ジロウ が震えるのも無理ない。異常な存在 の度合いとしては、重音さん と同格くらい、とは思う。
「…重音さん は、アイツ には負けない……」
「…あ、アニキ……」
手記の情報だけで、今も変わっていない保証はない。でも、強者を求めているやつが 重音さん を殺すとも、重音さん が簡単に殺されるってのも想像できない。
「…スキルは生きてるし、重音さん は今、死ぬ気じゃない……。 闘いなら、まず負けない…」
「お、怒ってるんすか……?」
「……」
良く分かったなと感心するも、抑えていた感情が爆発する。
《あのさ…報告があってさ。私の探知範囲を検証されてるみたいなんだよね》
「裏にある陰謀にまで一人で背負い込もうとして……! 大丈夫なわけないだろ!! 戦力になるとは言わないし、避難させてくれたことには感謝しかない。 でも、遠すぎんだろ!!!!」
「……!!」
あの場は任せられなくても、他でできることくらいあったはずだ、と思う。
だって…
〈傍にいるために…… 共に戦って死なせないために…… 頑張っていたというのに……!!〉
ガンッ……!!
「これじゃぁ…何もできないんだよ……!!!!」
鎖が俺を話してくれない。握った木刀じゃ、俺のスキルくらいじゃ、どうにもできない。
《それで、ちょっと強引に記憶覗いてみたらさ……》
ぎりぃ……
無力感を強く噛みしめる。
「……だから、次の一手を考える」
「…次の一手……?」
俺達が コウヤ の下まで飛ばされるのは確定している。
だが、コウヤ達 の近くにいることが最善とは一切思わない!!
「最速 最短で サンサン王国 まで戻る……」
「む、無理あるっすよ……!」
あっちに戻るために必要なものは2つ。
「移動手段 と 道しるべ が欲しい……」
移動手段…、これが一番の障害だ。
〈空を飛ぶと障害物が少なくて最短ルートになる……が、空を飛ぶような魔法もアイテムもない〉〈俺の〖ウィンド〗魔法は【ブースト】しても、着地の衝撃を軽減させるくらいだ。魔法やスキルで頼れるものはない……〉〈……[気を張りリング] も [パワードスーツ] も……今じゃない。使用制限の6分じゃ、王国に戻る前にぶっ倒れてしまう〉〈手持ちのアイテムじゃ無理なのか……〉
「……空さえ飛べれば…」
もちろん、語弊はある。空からのルートを可能とする機動力。
〈そんなもの……ない……〉
俺の〖ウィンド〗は突風を超短時間しか保てない。使い物にならない。
「………………」
ニャー……
「……コウヤ に投げ飛ばしてもらうとか……?」
「…そんなの………」
ナシだろ……
否定する前に、以前教えてもらった コウヤ のスキルを思い出しながら、再度考え直す。
〈スキルを使うと超人になれる【聖剣】。【聖剣】を呼び出し身体能力の超強化…できる……〉〈…【ブースト】の上位互換…〉
「………ありかもしれない……!」
俺が思いつかなかった可能性の欠片を最大限実現すべく。その後について考えることにした。
inリング(コウヤ達 の頭上約20m)
リングは減速の終盤、スピードはかなりゆっくりだ。
〘どうだ! できそうか……!?〙
俺を投げ飛ばす、だなんて荒唐無稽に思える移動手段だが、可能なら理にかなっている。
頼む…! できると言ってくれ!!
「やったことないから自信はないが……、アマノ君 の役に立ちいんだ! やらせてくれ!!」
〘……っ! ありが〙
「私のスキル使ったら、もっと飛ばしやすいと思う……」
「…あ、確かにな!」
〘……〙
メイアさん のスキルは良く知らなかった。
「…そこからなら、ジャンプできるよね……?」
「あ、ああ!」
そう言われた時には10mないくらいの距離だ。
ダン!
俺は飛び降りるだけじゃない。一仕事ある。
「投げる方角を……切り開く……!!」
【ブースト】 >〖ウォータープロダクト〗<
水を集めて……
【ブースト】 >水鏡流〖飛沫〗<
それを斬撃のように飛ばす。
ザンザン…… ミシミシ…!!
〈…よし……! ありがとう、ヨウさん……!〉
方角が分かるのは、ヨウさん からもらった [呼び鈴々] のおかげだ。心の中で感謝する。
「…兄さん 【聖剣】貸して」
「頼んだ」
〈何やってるんだ……?〉
【ブースト】 >〖スローネット〗<
『ウィンド』魔法による減速を試みる。
目の前に、大きな口が……
ドスン…ゴロン…
「おわっ……!」
謎の口にインして体が停止する。
「安心して、【聖剣】を変形させただけ」
さらっととんでもないこと言ってる。【聖剣】は原型を留めていない。まん丸だ。
「【再構築】……私のスキル。兄さん 回して…」
「あと少し…待ってくれよ…… 【剣我同調】 >パワースタイル< ……よし! 回すぜ!!」
「まじかよ…!!」
変わり果てた【聖剣】ごと回される。
「ねえ! 振動魔法とか使えたよね!? 無駄なエネルギーロス抑えられない!?」
「……!!」
無茶言ってくれる。どこでどう振動してるかなんて分かんないのに……。
《……いいよいいよ、もっと身を委ねていいよ…》
「…………」
全身を委ねる。意識を集中する。
この球体の回転を一番邪魔してるのは……! 俺だ……!!
【ブースト】 >〖アンチウェイブ〗<
「ナイスだ アマノ君!」
「……」
返事ができない。したら最善の今の状態が保てない。
「……王国まで…50kmくらいあるよね…」
「…速度…上げるよ……!」
「……!」
体に圧し掛かるGがすごい……。この状況を王様が見たらどう反応するだろう、とふと思う。
〈…かなり寛容なんだよなぁ…… 普通なら卒倒するぞ、こんなの…〉
そんなことを考えても最善の状態はキープできている。できている。[気を張りリング] のおかげでまだマシな状態だ。これがなきゃ もっとやばかったのだろう。
「そろそろ限界だね…」
「……っ!」
「……これじゃ…そんなに飛ばな」
「私が〖フォース〗魔法で後押しする。 兄さん! タイミングは合図で行くよ」
「…ああ!!」
「……!」
〈頼む!!〉
「3…2…1… 今!!」
「コウヤ! アニキ!! いっけぇえええーーーーー!!!!」
「オオオオオ!!!!」
ガクンッ……!!
首が…体の節々が、悲鳴を上げる。[気を張りリング] の効果にも限界がある。
だが……! なんとか、投射まで持ち堪え…た……っ!?
グ…ルン……グ…ルン!!
そりゃあ、【聖剣】ごと回転しちゃいますよねぇ!!
ふわっ…………!
「〖コンスタントプレッシャー〗…これで しばらくは落ちないよ」
回転していた【聖剣】がピタリと止められ無回転となる。【聖剣】の外はあまり見えないが、恐らく メイアさん によるアフターケアだ。
メイアさん の熱を、声を、すぐ傍で感じる……
いや、この想いは メイアさん だけじゃない。完璧なチームワークをしてもらった。感謝しかn
「…ありが」
「行ってらっしゃい」
「……」
そうだ、ありがとう はまだ言えない…
まだ、これからなんだ。想いを載せて響かせる。
【ブースト】 >〖エコーブースター〗<
〘行ってくる……!! そっちは頼んだ〙
返事は聞こえなくても伝わっていると信じる。気持ちを切り替える。ここからが正念場だ。状況を誰よりも把握しなければならない。
~新情報まとめ~
・コウヤのスキル【聖剣】…固有魔法型スキル。【聖剣】の召喚と身体能力強化が主な特徴。【剣我同調】は【聖剣】と体を同調させることで力を引き出す起動スキルで、様々な戦闘スタイルを持つ。
・メイアのスキル【再構築】…固有魔法型スキル。既知の物質を変形させるスキル。質量やエネルギーの観点でズルするようなことはできない。
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更新は調整中!
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アルファポリスで【解放】を約4年かけて完結!!
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