人生の交叉点
~前回までのあらすじ~
異世界から来た3人と ジロウ に振り回された怒涛の週の明けから時間が経つ。
コウヤ と メイア に初めて会った食事会で約束したことがあった。
in博物館付近
重音さん との出会いからそろそろ1週間が経とうとしている。
そう、週末だ
コウヤ は『勇者』と名乗り、王族からの支援の下 メイアさん と訓練に励んでいる。重音さん は隙あらばチョッカイをかけてくるが、大した進展はなかった。俺はと言えば、王様と契約を交わしたくらいだ。いや、父に怒られ、重音さん や コウヤ達 のこともあって周囲の人間から避けられるようになったが、大したことじゃない。
なにはともあれ、週末だ
約束していた博物館案内も当日を迎えた。そして今、重音さん と一緒に合流場所に向かっていた。
「アマノンは『初代勇者』の何が好きだったの〜?」
「…圧倒的とか、伝説的ってのに…惹かれただけさ……」
『初代勇者』は絶対的な功績を誇りつつ、強さ良し、人格良し、カリスマ良しの三拍子で一国の王にまで上り詰めた。
人間離れした英雄だ
だから、憧れた。子供は最強に目がないんだ。今は違う。『初代勇者』より、おばあちゃん が大事だし、マキ への想いの方が強い。
「…じゃあ、私とは違うね~」
「重音さん はそっち側の人間だけどね」
「私にとっての主人公は、アマノン に決まってるけど~?」
「……ははは、ありがと…」
「……」
「あ、来た来た。久しぶりー」
「お待たせ…。 久しぶりって程じゃないだろ?」
噴水の前で コウヤ は待っていた。集合時間より5分早かったのに、遅刻した気分だ。
「4日ぶりでも久しぶりだって! それはそうと、全員集合だな」
「あれ? メイアさん は?」
「入場のチケット買いに行ったよ。マズかったかな…?」
「全然、助かるよ」
コウヤ達 は容姿まで晒されたわけではないから素顔を曝している。彼らが公の場に出るようになると、こうして会うことすらできなくなるだろう。
「まだ、オレがいるっすよぉお!!」
ジロウが来た。ヨウさん からはあれから毎日トレーニングに励み、基礎作りをきちんとしているとは聞いていたが……。
「…さぼったのか?」
「朝の分はしたっすよ! 帰ってからもやりますし……オレも行くに決まってるじゃないですか…!!」
「ははは…」
こっちからは連絡してないから、コウヤ が教えたのだろう。
〈大して面白いことがあるわけでもないのに、寂しがり屋だな…ジロウ は〉
「今日は一段と派手ね…」
「いや、少しファンションに気を使ってるだけですよ!?」
「………」
ジロウ は指輪に、ネックレス、腕輪、至る所にアクセサリーを身につけていた。今は、ジン である。肌や髪の色が違うため、一目で ジロウ とは分かりにくい。
「魅力に自信がないから、そんなに身につけてるの?」
「今日は仲良くしましょうよ! 喧嘩したくないっすからぁ!」
「2人とも落ち着いて!」
この騒がしも、嫌いじゃない。
だが、それもこれで最後だ
「ああ…そうだな……」
…こうして集まることは、もうない
コウヤ達 は雲の上の存在で、重音さん ほどの熱量や特別なナニカが無ければ、成立しない関係。住む世界が違う。
それだけなんだ……
そんなことを考えているのが、顔に出てるのか 重音さん は困った顔をしている。
「…どうしたの?」
「……アマノン…が……」
〈…言わないでくれよ……?〉
「…体調優れないんだって~」
「そうなの…?」
「まぁな…」
「私がアマノンをサポートするから、みんなは気にしないで〜」
「そ、そうなんだな。 キツかったら言ってくれよ!」
「入り口はこっちだぜ!」
ジロウ が先導して博物館に進んでいく。
〈…まぁギリごまかせたな〉
俺が制止しなかったら、重音さんがなんて言っていただろう。
-<…私は、別に彼らに思い入れなんてないし、会えなくても何ともないよ>-
〈…まぁ、だろうな〉
-<でも、アマノンが今の関係はもう終わりだって、肩を並べられないって、思ってしまう劣等感は絶対に不要だよ>-
〈……〉
-<私や ジロウ君 が言っても、アマノン にとっては日常的な発言に聞こえて、気にも留めないかもだけど、私は言い続けるしかないんだよ…>-
〈…じゃあ、聞かせてくれないか? 俺が、コウヤ達 に肩を並べられる能力なんてあるか…?〉
精神性か?
前に言われた言葉が返ってることを想像する。
-<…人生経験、メンタリティ、思考力を含めた精神性も特別だけど…………>-
〈……ほら… 他にないんだろ?〉
重音さんが眉を顰めているのが、何よりの証拠だ。
そりゃあ、言えないさ ないんだから
-<……人脈や運を含めた総合力は コウヤさん達 を超えるよ>-
〈…………〉
つい立ち止まってしまう。
「アマノン…」
重音さんは俺にだけ聞こえる声で、ごめんなさいを呟く。
当たり前のことを言われただけ
「大丈夫か! アマノ君!」
「…お気になさらず」
それだけなのに、こうも傷つくのは未熟さの証だ。
ほら、褒められた精神性すらこうだ
自虐心が嬉々としてそう言った。
-<…博物館出る頃には、嬉し涙頂戴するから>-
〈…? どういうことだよ…〉
-<…今日は、アマノンのために、褒め言葉封印するね>-
〈…ったく、この重音さんは…〉
よくは分からないが口角が上がる。重音さん がなにかしてくれるらしい。
「…ひゃい」
「…?」
「みんなの入場チケット買ってきたよ」
「ありがとう」
「サンキュー!」
「どうもで-す」
「悪いな」
ジロウ が変な声を出した気もするが、メイアさん の合流でどうでも良くなる。
それはいいとして……
俺らは博物館の入り口のお土産屋を通り抜け、例の空間が近づく。開けた空間に ソレ は鎮座していた。
「…で かいな……」
〈…何度見ても……圧巻だ…〉
神々しい
そう思わせてくれるほど巨大で存在感のある [思い出石] が待ち構えていた。『初代勇者』が持ってきたと言われるせいか空気すら澄んだように感じる。
「こんな大きい石が…」
「すごいだろ!! 世界で一番大きいんだぜ!」
「……[思い出石] としては、な…」
断言できるのも、『初代勇者』がそう言ったからに他ならない。
だから、皆が信じている
「スゴイね~ もう石じゃないでしょ。岩じゃん」
「だね…」
大きいものに心惹かれるのは、男子陣だけじゃなかったようだ。
「見た目だけじゃないぞ!」
そう、『初代勇者』のメッセージが込められている。
[博物館へようこそ。俺は『勇者』として魔王を倒し、サンサン王国 の国王を務めさせてもらっている シュン・ミカド だ。俺には一つ目標がある。
サンサン王国 を誰もが認める良い国にしたい
それには 国民の力も必要だが、国外の人類にも協力してもらいたい。来てもらわないことには、良い国かどうか分からないだろ?
この目標が達成できるかは、キミ次第なんだ。幸せを、皆で、創ろう!!]
みんな一緒の内容だ。だが、極めて稀に、『初代勇者』から『言葉』を送られたと発言するものがいる。[思い出石] にそんな器用なことはできない。
だが、『勇者』ならあり得るということでバカにできない噂になっている
ただ、それを証言する人とすら、会ったことがない。噂の域を超えないのが世の常だ。
「触っていいんだよね?」
「ああ」
「アマノン~ 一緒に触ろ~~」
「分かった分かった」
重音さん の提案に乗り、同時に [思い出石] に触れる。何度も聞いたフレーズが当然流れてくると思っていた。
[アマノ君 初めまして]
は????
[シュン・ミカド だ]
分かってる
興奮が隠し切れない。俺が持ってる [思い出石] とはまるで違う。
[最初で最後のアドバイスだよ]
バクバクバクバク…!!
心臓がうるさくて仕方ない。
[入念な準備は無駄にならないぞ]
……………
うるさかった心臓の音も遠のいて独り暗闇に残された気分だ。
「…………」
「アマノン♪ お帰り~」
重音さん と同時に触ったのに、時間差があったようだ。まだ思考がまとまらない。
「アニキ! なんかアドバイスもらいましたか!?」
「……」
「ジン。その顔ムカつく」
「理不尽過ぎません!?」
重音さん はいい仕事をしてくれる。返事困ってしまった自分がいた。
ありがとぅ 重音さん
「…意外なことに、自分にもあったよ」
「やっぱり、そうっすよね! オレに来て アニキ にナイなんてこと、ないっすよ!」
「…はは…」
『初代勇者』の俺へのメッセージ。一言で言うなら…
準備を怠るな、だ
これには、当然の疑問が浮かび上がる。
〈準備って……なんのだよ〉
「とりあえず…… 案内するよ、館内」
「ああ、よろしく」
「付いて来てくれ。悪いが、目的の場所までは早歩きで行くぞ」
「ああ、分かった」
「お願いします」
重音さん に視線を送る。これだけで伝わるはずだと信じて。
〈重音さん、聞こえる…?〉
-<聞こえるよ~、どしたの~?>-
〈負担なかったらだが、皆に俺の 声 を伝わることできるか?〉
-<できるよ。すぐやる?>-
〈…頼んだ〉
早歩きする俺の後ろを皆が付いてくる。
-〈あー、あー、聞こえるかな?〉-
振り返ると、重音さん 以外、驚いた顔をしている。
-〈大きな声で語ると目立つから 重音さん のスキルで話をする。博物館には『歴史コーナー』と『契約書コーナー』、『手記コーナー』がある。『歴史コーナー』は今回案内しないが、簡単に話をしてもいい〉-
「………」
コウヤ と メイアさん は首肯してくれる。それに応えて、語りを始める。
-〈かの者は50年前にこの地に降り立った。その名は シュン・ミカド。名前は大して重要でない。かつて、サンサン村だったこじんまりとした集落を正し、世界を救った伝説級の偉人だ。絶対的な力と圧倒的なカリスマでこの村に王国を築き、誰もが認める英雄で、絶大な支持を集める統治者となった。ただ、その統治はサンサン王国に限定した。彼であれば、もっと多くの国を導けたはずだ。その時には、もう迫りくる死を予見していたのかもしれない。彼がこの地に足を踏み入れ約5年。彼は息を引き取った。旅の最中、そして晩年に至るまで、多様な発明と法の最適化で人々の生活を豊かにしていった。彼の晩年から数年が経過し、彼と共に魔王を打ち倒した『賢者』が彼のものからアイディアを授かり、生まれたのが契約書である。厳密な正しい歴史なんて結局のところ、分かりはしない。これが意味するのは、これらが間違っていないとされる現状があることだ、以上〉-
最後に持論を付け足してはいるが、『歴史コーナー』で知れるのはこの辺のことだ。あとは『初代勇者』の奇跡の数々を長々と自慢しているだけだ。
〈重音さん ありがとう〉
-<いいよこれくらい~~いつでも頼って>-
「聞きたいこととかあったら、言ってくれて構わない……」
「…『勇者』のパーティーってどんなやつがいたんだ」
「『賢者』と『魔法使い』、『聖女』だな」
「誰か生きてたりとかはしないのか…?」
「残念だけど、いないよ。こっちの人間の寿命は大体60年だからね…」
「そっ…か……」
「他はあるか?」
「いや、ないな。ありがとう、アマノ君」
メイアさん にも視線を送る。
「……ないかな…」
「重音さん もなんかあったら言っていいよ」
「アマノン の語り口調イイね! それ以外はないよ」
「…興味ないの丸出しじゃん……」
「アマノン のお話を聞きに来たんだよ。他は大して興味ないね」
「…なんで異世界に呼ばれたのか分かるってなってもか…?」
「別にいいじゃん。アマノン に会えた今が何より大事で、私の未来に影響しえない話だから」
「ハハ… やっぱり、女の子は強いね。アマノ君」
「この2人は、特に… ですよ」
「まぁ、そうだよね…」
「着いたぞ。『契約書コーナー』だ」
「…額縁がいっぱい…」
「これが見せたかった。『契約の絶対条件』だ」
[~契約の絶対条件~
・反故する前提で契約をしてはならない。
・契約の主目的、利益、不利益を明確にし、隠し事をしてはならない。
・本契約が他の契約内容に抵触するのであれば、可能な限り相手に伝えなければならない。
・原則として契約の1日前には、双方に不利がない状況下での話し合いの機会を設けなければならない。
・契約の成立には、契約者双方の意思を正確に理解し、契約を公平に取り仕切る立会人がいなければならない。
・立会人は契約書を厳重に保管する義務が存在し、立会人以外は契約書に干渉できない。
・契約者並びに立会人の不在であっても契約の拘束力は持続する。
・立会人不在の場合は、契約者同士で連絡を取り立会人を再度検討しければならない。
・契約の破棄には契約者と立会人の三人を可能な限り参集しなければならない。
・本契約に大きな影響を受ける人物からの要望はできるだけ真摯に対応し、契約成立時の理念を尊重しつつ適当な対応をしなければならない]
「はへーー……」
「……すごい…ね…」
コウヤ は口を半開きにし半分くらいしか分かって無さそうだが、メイアさん は真剣に絶対条件を読んでくれているようだ。
「『契約書』のお陰で、国内の法律はあるし、爆弾が世界的に禁止されてるわけだ。『勇者』ブランドの商品にだってルールがある。そういった『契約書』の写しが、ここに集められているんだ」
国外だと『初代勇者』の商品ブランド『byS』が使えないのもそのルールによるものだ。
「…ブランドの名前ってあるの?」
「『byS』だ」
「んんー? 由来でもあるのか?」
「作り手のことを by何たら って言うだろ?」
「あー、by シュンってことか……っ………!!」
「……」
「………ん? どうかしたのか?」
俺は異世界組の反応から、察してしまう。連想したのだろう。ナニカ低俗で恥ずかしい言葉と同音だったとか。
そんなことより…だ
「……なぁ、重音さん。今更だけど、隔離市から外出するためとか言ってた『契約書』ってブラフか?」
契約は契約者が酩酊状態でできるはずがない。
「そういうのは探っちゃダメだよ。まったく、無粋だね~」
「………」
この子にはこういうとこがある。確かに、あの『契約書』で直接的に困ってはなかった。だが、『契約書』なんてそうそう見ないのに、こっちも身構えた節はある。ってか半分放心したのも、あの時の緊張と緩和のせいがデカイ。
ポン……
「え、なに? ご褒美?」
「……」
頭に手を置くと言葉で返してくれた。
パシ……
「……」
「愛の鞭だね! もっと強くても良いよ!!」
「………」
他の三人からも同情の目を向けられる。重音さん との身長差、外見的年齢差のせいで兄妹の微笑ましい日常に見られるのが癪だ。か弱そうな外見を最大限活かすのは卑怯極まる。
~新情報まとめ~
・『勇者』ブランド『byS』は国外じゃ使えない
・『契約の絶対条件』を簡単に言うと、立会人を立てて誠意ある契約をしましょうという内容
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