第10話 精神崩壊
毎週木曜日に連載(?)していきます。
フィクションな部分もありますが、ノンフィクションな部分もあります。
正義とは何なのか。
一緒に考えてくれると嬉しいです。
火曜日の朝にそれは起こった。
運動といって、朝、髭を剃ったり爪を切ったりする時間があるのだが、
その時に隣の部屋の人が
「早く出して。」と言っていた。
順番だから・・・。と看守は言っている。
注意しなければいけない人ということで、最後にするのだろう。
ちなみに、髭剃りは電動のものである。
爪切りは所謂普通のものなので、凶器になる可能性はゼロではない。
警戒するのは当然である。
自分らは終わり、他の人がやっている間、様子を聞いていたが、
(直接見ることはできないので、声を聞いていた)
どんどん言動は危うくなっている。
「早く出して!!早く出して!!」
とか、
「トイレに行くから出して!!」
なども言っていた。
トイレは部屋にあるから・・と言われた後は、
「助けて助けて助けて助けて!!」と言ったり、
「連れてって!!」と大声で言ったり、
「いざなって!!!」とも言ったりしていた。
そんな言葉を知っているのか・・・。などと思っていたら、
「今から開けるからね」と看守がその人の部屋のドアをあけた。
すると!
その人は走って出ていった!!
「そっちへは行くな!!!走るな!!!」
という看守の声が飛ぶが止まる様子はない。
そのうちにサイレンがなり、パトランプのようなものが回り、
警報音が鳴り響いた。
どんどん人がやってくる。
その人を追い詰めていく。
そして、「確保~~~!!!!」という声が聞こえてきた。
捕まったみたいだが、叫び声が聞こえてくる。
「出して!!!出して!!!」
「放して!!!」
など意味のある言葉もあるが、大半は、
「わあぁああぁぁ!!!」などのとにかく叫び声という感じである。
一緒の部屋の人が言うには、丸暴つまり、
暴力団担当の人たちも大勢来ていて、
「静かにしろ!!!!」と叫びに負けない大声で怒鳴っていた。
そのまま保護室と呼ばれる部屋に連れていかれたようだ。
その中でも壁をどんどん叩く音や、
叫び声をずっと出していた。
すごいエネルギーだなと思った。
そんなことをしても絶対に出れるわけがない。
しかし、冷静に考えることができないのだろう。
なんと1時間以上も暴れていた。
彼はこの留置所にいるよりも、精神病院などに入院した方が良いのではないかと思った。
ここにいて落ち着くことはないように思えた。
適切な治療が必要だろう。
彼はここに入る前からあんな感じだったのだろうか。
だからここに来ることになってしまったのか。
それともここに入って心が壊れてしまったのか。
今後彼は外に出たら普通の生活を送れるようになるのだろうか。
一般人に危害を加えてしまう恐れもあるから、
なかなか難しい気がする。
本当に非常に難しい問題だ。
何が正しいかわからないことなんて世の中にたくさんあるのだと感じた。
彼が暴れるたびに、同じ部屋の人と話をした。
暴れている人にかかりきりになり、
ほとんどこちらを見ることがなくなるので、
話していても注意などされることはない。
あんな風になりたくないな・・・。
いざなって!が聞こえてきたときには、笑っちゃったな!
などと話すのは正直楽しかった。
刺激の少ない留置所だからこそ、いいネタとなったのだ。
しかし、彼をネタにして笑っている自分が、
少し情けなく思えた。
自分と比べて人を下に見て自分は違うと言って満足するような感じが、
人としてあまりよくない気がしたからだ。




