拝啓 窓から
君に贈りたい景色がある。
あの階段の踊り場から
君の背より少し高い、あの窓から
街が見えるんだ。
君と僕を育んだ
見慣れた、だけど一番愛おしい
懐かしいあの街が
あの街の端っこには
中心街からほど遠い、あの公園には
ブランコがあるんだ。
子供の頃よく遊び
学生の夜、よく座った。
君が僕の涙を受け止めてくれた
闇がすっかり更けて、風も凪いでいた
ちょっぴり苦い夜の記憶を持つあのブランコが。
あのブランコを高くこいだ視線の先には
周りの住宅より少し背の高い、あの丘には
塾があるんだ。
毎日重い気持ちと参考書を抱えて登っていた
暑苦しくて、生徒思いの先生がいる。
眩しすぎる蛍光灯と緊張感と達成感が潜む、あの塾が。
あの塾を出た先には
少し開けた大通りには
僕らの学校があるんだ。
友達と馬鹿騒ぎした通学路
朝の気だるさが残る靴箱
少し切ない夕陽がさす放課後
毎日通った教室の左端の席、窓際の席から
右隣に座る君を、いつも見ていた。
桜が舞って
太陽が照り付けて
金木犀の香りがして
冬のピンと張り詰めた冷たさが
君の髪を優しく撫でる様を
いつも見ていた。
あの学校には
僕らが毎日上り下りした階段の踊り場には
少し高いところに大きな窓があるんだ。
ふとした瞬間、
青すぎる空に
高く遠く広すぎる空に
雲が浮かんでいるのを見て、いつも見惚れるんだ。
そこから見える。
ささやかな優しさをくれるたんぽぽの花が
あの胸にひりつく公園が
あの煌々とした丘の上が
あの街が見える。
その景色を君に贈りたい。
優しいだけじゃない。ありったけの優しさを込めて。
その先の景色を、
君に。
最後まで読んでくださりありがとうございます。