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水浴びの園

エレナはタクトに一礼し、シャワールームの方へと向かっていった。彼女の足取りは軽快で、少し楽しみにしている様子がうかがえる。

シャワールームの扉が閉まり、しばらくすると水の流れる音が聞こえてきた。タクトはその音を聞きながら、リビングのソファに腰を下ろす。

タクト: (エレナさんって意外と無防備なところあるよな)

タクト: (普通なら、こんな状況になったらもう少し警戒心を抱くはずなのに、まるで気にしている素振りがないんだよな……)

タクト: (俺を信頼している証拠なのか? それとも鈍感なのか? それとも俺に好意を抱いているのか?)

タクト: (いやいや、それは無いだろ。俺に好意を抱いているなんて)

タクト: (まだ俺たちは出会って数時間しかたっていない。急に惚れられるようなイベントは無かったぞ)

タクト: (いや、待て。エレナさんは元居た世界の俺に似た人間に恋をしていた、という仮定を立てたらどうなるだろう……?)

タクト: (だとしたら辻褄が合うのではないだろうか)

タクト: (つまり、エレナさんは、俺をその恋人と重ねている可能性があるわけだ)

タクト: (そして、エレナさんは今、俺の為に清めの儀を行っているという事か……)

タクト: (………。)

タクト: (いや、待て待て、なんだその考え方。清めの儀って……俺、何を考えてるんだ)

タクトは自分の突飛な妄想に少し照れ笑いを浮かべ、頭を振った。


タクト: (確かにエレナさんは俺に対して警戒心が薄いように見えるけど、それはただ単に彼女が強い戦士だからかもしれない。彼女は自分の身を守る力があるっていう自信から、他人に対してそこまで警戒する必要がないんだろう)

タクト: (冷静になった方が良い。また同じ失敗を繰り返すつもりなのか?)

タクト: (もう失いたくはない……何もかも……)

タクトはシャワールームから聞こえる水音を意識しながらも、静かに立ち上がり、隣の部屋へと移動した。

そこは彼自身の作業スペースで、趣味と仕事が交錯する場所だった。床にはスクラップされた機械や部品が無造作に転がっており、デスクの上には未完成の装置が所狭しと並んでいる。部屋の隅に置かれた古びたモニターが唯一の明かりで、ほかの機械たちは長い間使われることなく静かに佇んでいた。

タクトは椅子に腰掛け、散らばる部品を見つめながら思考を巡らせた。

タクト: (さて、どれから手を付けるか……)


彼は散らばる部品の中から一つの小さなモジュールを手に取り、慎重にデスクの中央に置いた。古びた部品の表面には薄く埃が積もっていたが、タクトは慣れた手つきでそれを払い、ドライバーを取り出すと静かに作業を始めた。

ネジを外し、内部の回路を確認する。手元の光源が不十分だったため、彼はヘッドランプを取り出して装着した。柔らかな白光が回路全体を照らし、精密な作業が始まる。

タクト: 「まだ使えるかどうか、試してみるか……」

彼はハンダゴテを取り、古い回路と新しい部品を繋ぎ合わせていった。手の動きは滑らかで、まるで時間を忘れたかのように集中していた。シャワーの音が微かに聞こえる中、彼の作業の音だけが部屋に響く。

タクトは回路の接続が完了したことを確認すると、作業スペースの横に置いてあったパソコンに目を移した。彼は軽く指を動かしてパソコンを起動させると、スクラップから再生した機械の状態をチェックするために、データを入力し始めた。

タクト: 「まずは、基礎データを入力して……この部品の型番と電力消費量を確認して……」

パソコンのキーボードを叩く音が小気味よく響く。彼は正確な指使いで入力作業を進め、データをプログラムに組み込んでいく。画面には入力した部品の情報と現在の状態が次々と表示され、動作条件が整っていく様子が映し出された。

タクト: 「よし、これで初期化は完了だな……次は動作確認だ」

彼は手元のコードを取り、パソコンと機械を繋ぐために端子を慎重に接続した。パソコン側のポートにケーブルを差し込み、機械の方にも対応するコネクタを接続。タクトは一息つくと、ディスプレイの電源ボタンを押した。

パソコンの画面に、新たに接続されたデバイスが認識されたことを知らせるメッセージが表示され、動作テストの準備が整った。

タクト: 「頼むぞ、ちゃんと動いてくれよ……」

彼は緊張しながらも期待を込めて、パソコンのマウスをクリックし、テストプログラムを起動。瞬時に機械の内部で微かな音が響き始め、青いランプが再び点灯した。

タクト: 「よし、これで動いたな……問題ない」

パソコンの画面には動作確認の結果が表示され、回路や部品の動作が正常であることを示していた。

タクトは画面を見つめながら安心して椅子にもたれかかり、一息ついた。しかし、その瞬間、パソコンの画面に突然エラーメッセージが赤く点滅した。

「エラー:消費電力過多」

タクト: 「えっ……!?」

彼は慌てて画面を確認し、手元の機械に目をやった。青いランプが点滅し始め、異常な熱が発生していることを感じ取った。

タクト: 「まずい、電力が……!」

焦りが顔に広がる中、彼はすぐにパソコンの操作に戻り、機械の電源を切ろうと試みた。しかし、次の瞬間――

バチッ!

突然、部屋全体が真っ暗になった。全ての電源が落ち、完全な静寂に包まれた。

タクト: 「くそっ! 電源が飛んだ……!」

タクト: 「早く復旧させないと、折角記録したデータが消えてしまう!!」


焦りを感じながら、タクトは急いで作業スペースを飛び出し、ブレーカーのある部屋に向かった。廊下に出ると、ほのかにシャワールームから漂う石鹸の香りが鼻をくすぐるが、彼は気にかける余裕もなく足早に進んだ。

ブレーカーのある小さな部屋に到着すると、タクトはすぐにブレーカーを確認した。暗闇の中で手探りでスイッチを探し、ついに触れた。

タクト: (ここだ……)

ブレーカーを慎重に起動させる。スイッチがカチリと音を立てて戻り、しばらくすると微かな機械音が鳴り始め、部屋全体が再び電気の力を取り戻した。

タクト: (よし……これで復旧したはずだ)


タクトが安堵した、まさにその瞬間だった。

エレナ: 「おりゃあああぁ!!!」

エレナの発声と共にタクトの腹部に強烈な蹴りが入り、そのまま壁に叩きつけられた。

タクト: 「ぐはあっ!!!」

タクトは苦痛に顔を歪める。そして、目の前に仁王立ちするエレナの姿を目にした。

彼女は身体にバスタオルを巻きつけた状態で、驚いた表情を浮かべていた。

エレナ: 「えっ!? タクトさん!? ご、ごめんなさい!! 大丈夫ですか!?」

タクト: 「げほっ、エレナさん、何をしているんですか……?」

エレナ: 「あの、実はシャワーを浴びてたら、急に部屋の明かりが消えたからびっくりしちゃって……」

エレナ: 「もしかしたら、敵襲かと思って、反射的に攻撃しちゃったの……本当にごめんなさい!」

タクト: (まぁ確かに、いきなり部屋の明かりが消えれば驚くだろうけど……それにしても、まさか膝蹴りが飛んでくるとは……)

タクト: 「いえ、こちらこそ驚かせてしまってすみません」

タクト: 「痛っ!」

タクトは立ち上がろうとするが、痛みで上手く動けなかった。

エレナ: 「無理やり動いたら、きっと痛いわ。ここは私に任せて」

エレナはタクトに近づくと、肩を貸すように彼の腕を自分の腰に回した。彼女の柔らかい感触と温もりが伝わってくる。

タクト: 「ま、待ってください! 自分一人で歩けますから……」

エレナ: 「駄目よ。これは私の落ち度なのだから、きちんと責任を取らないと……」

エレナはタクトを逃がすまいとがっしりと強く抱きしめる。

タクト: 「うわっ、ちょ、ちょっと……」

シャワー後の火照った彼女の体温がバスタオル越しに伝わってくる。

濡れた髪からはシャンプーの良い匂いが漂い、密着した身体から伝わる柔らかさと弾力がタクトを包み込む。

タクト: 「あ、当たっているから……もう少し離れて……」

エレナ: 「ん? 何が当たっているの?」

タクト: 「その……胸が……」

エレナ: 「あら、邪推ね。私はそんなつもりじゃなかったんだけど……」

タクト: 「そ、そうですよね。す、すいません」

タクトは返す言葉に戸惑いつつ、彼女の好意に従うことにした。

タクト: (確かに邪推だったかもしれない。俺は妙な期待をしてしまっていたようだ)

タクトは心の中で自分に言い聞かせながら冷静さを取り作っていた。


エレナはリビングのソファにタクトを寝かせると、そのまま上から覆いかぶさった。

タクト: 「えっ!?」

エレナ: 「タクトさんの手当てをするんだもの」

エレナは優しく微笑むと、タクトの顔をじっと見つめた。

タクト: 「な、なんでしょう……」

エレナ: 「目を閉じて……」

タクト: 「は、はい……」

タクトは言われるままに目を閉じる。視界が閉ざされると、聴覚と嗅覚が研ぎ澄まされ、意識が鮮明になる。微かに聞こえるエレナの吐息と、頬に触れる肌の感触が妙に心地よい。

だが、状況は一転した。

次の瞬間、タクトの首筋に衝撃が走ったのだ。彼が目を開くと信じられない光景が広がっていた。

エレナの両手がタクトの首にかかり、締め上げ始めたのである。

タクトは驚きの声を上げようとするが、既に遅かった。彼女は力を込めて一気にタクトの首を締め上げる。

タクト: 「ぐはあっ!!」

タクトは苦しさに声を上げながら、必死に抵抗する。しかし、彼女の拘束から逃れることはできない。

エレナの顔はさっきまでの優しい笑顔ではなく、冷酷な殺人鬼のような表情を浮かべていた。

エレナ: 「いいかしら? タクトさん」

タクト: 「くっ……! やめて……離して……!!」

タクトは抵抗を試みるが、次第に酸素が脳に行き渡らず、思考能力が低下していく。

エレナ: 「タクトさんが悪い子だから、お仕置きをしているだけよ」

タクト: 「言っている……意味が……分からない……」

エレナ: 「あら、まだ白を切るつもり?」

タクト: 「………。」

エレナ: 「この世界に私を転送したのは貴方なんでしょ?」

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