「とりあえず自己紹介です」「この小説、続くのか?」「メタ発言やめい。」
私には、先生のことが好きな友達がいる。
ーあ。勘違いしないでほしい。『ファンとして』って意味だから。
「しかも数十人いんだよなーコレが……」
「何の話?」
「コッチの話。」
私は、隣にいる先生に問われて簡潔に答えた。
この先生は、陰で〈初恋ドロボウ〉とか〈生徒を狂わせる男〉とか〈不器用〉とか〈その上カナヅチ〉とか言われている……
「お前陰でそんなこと言ってんの?」
………………………。
河村柚樹先生です。
「おい!進行するな!!」
「じゃあ後退します。10秒前のセリフをどーぞ」
「お前陰で……。…って違う!!何だよこのくだり!!」
「あ。声に出てました?」
「ガン無視で続きのセリフ言ってやがる…」
「省エネです、しょーエネ。たまにはボケないと疲れます」
「超、謎理論。」
「ほら続けますよ。22秒前から」
「数えてんの!?」
「ほーら、ほーら」
「ちょっと待て!ちゃんとツッコませろ!!」
「えー?」
「『えー?』じゃない!大体な!!……」
(※2人の漫才が終わるまで、しばしお待ち下さい。)
「………で?結局作者が省いてくれたトコを要約すると?」
「作者とか言うな。」
「要約苦手ですか?数学の河村先生?」
「そん……」
「えーつまり、『そんなことを陰で言ってるのはお前だけだ。あと先生は、水泳が苦手なだけでちゃんと泳げる』ってことを、私に長々と説明してました。ちなみに、さっき私が邪魔した所で先生は、『そんなことない、教師が要約できないとかあり得ないだろ』と言おうとしてました、多分」
「………………」
黙る=図星だ。あと多分、ツッコむのがめんどくさくなったのが7割。
……とまーこんな感じでグダグダとお送りする、誰得でもない小説です。
「そーいやお前、自己紹介してないよな?読者に」
「さっき『作者とか言うな』ってツッコんでた人が読者とか言っていいんですか」
「今の息つぎしてた?」
「してません。一息で言いました。ちなみにちゃんと生きてます」
「黒田って物静かだよな。気がついたらいる」
「…絶妙にケンカ売ってます?」
「大売り出し。」
「死んでも買いません。」
……さっき名字が出ちゃったので、一応自己紹介しておきます。
黒田梨紗、中3です。柴犬が好きです。
「最後のいる?」
「少なくとも、先生の〈カナヅチ〉って情報よりはいらないですね」
「そーだな!いらないよな!いらな…」
気付いたらしい。
「いやカナヅチこそいらないだろ!?ってか泳げるから!」
「あ、補足しとくと」
「聞けよ!!」
「河村先生は今年新任でやってきた先生で、イケメン・高身長・運動神経抜群な、学年の王子様です」
「……いや……絶対違う、それ……」
テレてるテレてる。
私はこの先生が好きなのだ。
文面だけだと淡々としてるけど、結構要所要所で爆笑してます。
いやホントに。
「全く……黒田にこんな扱い受けるようになったの、いつから……?」
ブツブツとつぶやく先生。それを黙って見つめる私。
…本当にこの先生は、イジリがいがあって、不器用で、恥ずかしがり屋で……。
「ーあれ」
「どうしました?」
「黒田…指、ケガしてる」
「あ…さっき紙で切ったヤツ…。大丈夫ですよ。大したことないです」
「いや、でも、水とかしみるんじゃないの?絆創膏やるから」
「え!?ホントに大丈夫ですって」
「いいから!教師としてほっとくわけにいかないし」
「…あ……ありがとう、ございます…」
ー本当に、優しくてカッコイイ。
「ん。どういたしまして」
絆創膏を渡しながら、先生がニコッと微笑む。
ドキッ
……………。
『ドキッ』?
心臓の音の正体を考えるよりも先に、全身が少し熱くなる。
しばらくの沈黙。
何か…何か話さなきゃ……。
「…あ…の」
「河村せんせー!!」
ビクッ
私の声は、3人の女子生徒の声にかき消された。
「ねーねー髪切ったんだけど、どうですか?」
「他クラスには入るな」
「別にいーじゃん笑」
「ねー先生!彼女いるの!?」
「さーね」
…あ……。先生、取られちゃった……。
自分は邪魔者だと判断した私は、廊下に出た。
……図書室、いこうかな。
河村柚樹先生。
この人は私の……
「ーっ!」
………………。
「…違う……」
私たちの、先生だ。