表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/80

第1章48話【用意周到】-血みどろ晴らす羽根-






 イミヤは、考えていた。今の追い詰められた状況の打開策を。移動するにしても、軽装機械(ドローン)が邪魔し、妨害され続ける。ワーマナに合流する目的を遂行しようにも、居場所が常に晒されるリスクは取る事は出来ない。

 また、次の敵が来ないとも限らないし、用意周到に攻められては、全滅する未来しか残されていない。

 サタブラッドの機械兵も、『ステラ』の防衛システムも、両方邪魔であるのだ。


 であるならだ。まずはどちらか一つの攻略を行わなければ話が進まない。だからこそと、イミヤは瞳を開け、右手を差し出した。



「インディゴさん。手伝って貰いたい事があります。」


「前置かなくても、命令するだけで良い。必要なら使って。」


「ごめんなさい。今の私にはこれっぽっちの言葉を掛けるので精一杯なんです。ーーインディゴさん。少し離した頭上にアーテルを留める事は出来ますか?サイズは問いません。」


「ーーん。」



 言葉はそれ以上交わさない。インディゴは、諫めの言葉を必要とせず、命令を律儀に守る部下であり、兵士、仲間(チーム)であった。

 頭上から少し離れた位置。おおよそ0.3mile程。そう遠く無い位置に蒼白いアーテルを産み続ける。


 そのアーテルは、何かにとっての標の様なもので……。

 火に入る夏の虫。


 分散する敵をどう纏めて屠れば良いのか。その答えは単純であり、難関でもあった。そして、イミヤが出した結論は、ーー再び集中させれば良い。

 恐らく、あれらはアーテルに反応して集まって来ている。そんな機械は見たことも聞いた事も無かったが、恐らくそうだ。

 探知機能なんてまともに動作しないこの世で、何を基準に行動しているのか。それは脅威度では無いだろうか。カメラで捉える視覚的情報を分析・解析し、脅威を見分ける。ただそれだけでは、この広域をカバーするに足りない。何かしらの嗅覚が備わっている筈だ。それが何なのか。

 どの様に脅威を認識しているのかと問われれば、答えは単純だ。私達と同じ様にアーテル。ただそれだけしか解は無いだろう。

 どうしてサタブラッドがそれ程の技術をGHMより先に利用しているか疑問に残るが、今はそんな事を気にしている場合では無かった。


 アーテルに反応する。ならばと、インディゴさんのアーテルを囮にして集めれば良いのではと思い付き、即時実行した。

 成果はご覧の通り。成功だ。


 ただし、問題の母艦の数が減るわけでは無いし、インディゴさんに頼り続ける事はできない。しかし、それでも、ここら一帯の軽装機械は殲滅出来る可能性に賭けるしかない。


 イミヤは再び瞳を閉じ、アーテルを込めて手を振り下ろした。

 ズギャと金属と膨張が重なったような、嫌な音が鼓膜を揺らす。それでも、確かに数を減らす事が出来たのだ。



「インディゴさん!成功です!!もう少し総数を減らし次第移動しまsh……。」



 作戦は完璧だ。そう。抜け目の無い完璧な作戦だ。だからインディゴは、イミヤを責めることはしないし、イミヤもインディゴを責めたりはしない。

 ただ、悪い部分があったとするならば、ーーそれは運命の噛み合わせであろう。



「インディゴさん!!血が……。何処から?サタブラッドの攻撃ですか?…それにしては、外傷が無いですね……。応急処置を今しますからね。」



 水溜り。それは衣服から身体までも染めて行く。

 インディゴは限界であった。何故インディゴは武器を用いて攻撃するのか。それは、精度上げる事ともう一つ。アーテルの節約であった。

 幾らClassが上であろうが、アーテルの総量には限界がある。その限界を上手く調節していたのが、リカーヴボウであり、彼女の武器なのだ。

 それを際限無しに突然アーテルを、しかも空中に維持するなんて事をすれば、間違い無く彼女のルーチンは崩壊する。


(…吐血?)


 詰まるところ限界であった。声すら発せずに脱力する様は生きていると思えない程、冷たいモノであった。



「これ以上のアーテルの行使は難しい。インディゴさんも限界だったんですね。気付けなくて申し訳ないです。ただ、この出血は、何が原因で?」



 前述したが、術者はアーテルを使い過ぎると気絶する仕様がある。それはどの一般術者も同じであり、過度な出血をする様な事は起こり得ない。()してや内臓の出血なんて…。

 だからこそ未知なる恐怖が、更にイミヤを駆け巡る。

 どこで失敗してしまったのか。後悔する暇も無く、時は等しく進む。



「りーだぁ。……大丈夫。死にはしなぃ。リーダーの責任でも無い。」



 とは言いつつも彼女の顔色は良く無い。事実上の八方塞がりである。戦闘不能に陥ったインディゴさんを抱えながらこの戦地を離脱しつつ、ヴァルエさんや、ヘクタとの合流を図らなければならない。それに……。



「貴方達は誰ですか?」



 異質な気配(アーテル)で、直ぐに気が付いた。目の前に現れた黒装束。


 それはかつてヘクタを入国時に襲った者と姿形が似通っていた。いや、全く同じと言っても良いだろう。今回は気配を完全に消し切ることは無かった。

 と言うよりも出来なかったと言う方が正しい。それは、宙に舞う粉塵。アーテルを身に纏う者にとってその粉塵は切っても切り離せない関係となる。水滴が少しでも本流の水に触れると吸い付いて移動する様に、アーテル粒子を持つ先の粉塵は、アーテルの本流へと引き寄せられる。

 その僅かな澱みをイミヤは見逃す筈は無かった。



()殺者ですね。言葉を発せずとも分かります。貴方達は、人を殺す事に躊躇いを持たないッ!!」



 縮地とも取れる奴等の足取りは、イミヤの油断を誘う。それでも、彼女はアーテルを武器に抗う事を決めた。

 薙ぎ払う様に、左手を振り払い、黒く沈んだアーテルを発散させた。


 そのアーテルは空を歪ませながら、遊殺者の胴体を容赦無く引き裂く。


 回避を許す事は無い。ただ結末を見送る事しか出来ない奴等は、なんて愚かしいのだろうか。戦友を肩にして、私のアーテルが制限されるとでも本気で考えたのだろうか。

 実に馬鹿馬鹿しい。


 ーードシャ。ピチャヂャ。


 先に別れた胴体が、イミヤの横顔を掠めて行く。散らかった臓物は血に触れ、地に穢される。

 頬を拭い……。


 グシャッ。


 何者かに押さえつけられた様な反応を見せる奴等は、そのまま自然と潰れて……。ーートドメを刺す。

 別れた胴体であれど、敵は敵。半身に反撃でもされては、お話にならない。可能性の芽は摘む。それが、私がヘクタから教わった内の一つでもある。


 本心では、これ以上、戦闘を繰り返したく無い。人を殺めたくは無い。その事がずっとグルグル、グルグル回っては、振り払い、回っては振り払っていた。それは彼女の心の優しさからでもあり、戦場での気持ちの持ち様でもあった。だからもうさっさと終わらせたい。その一心で、アーテルを行使し続けた。


 右の足先を擦るように下げ、ザァッ。音を鳴らす。



「ーーもう一度、近付きたければ近付きなさい。その一歩で私のアーテルは、凶器に変わります。」



 イミヤは、アーテルを纏っていた。薄く広く、自身の周りを大きく囲う様に。イミヤがアーテルを用いての最大の防御手段でもある。攻守両刀ではなく、守りに力を入れた事を意味していて……。

 しかし、その防御手段は以前と大きく異なっていた。以前であれば、アーテルを宙に、正確にはイミヤと標的の間に生み出していた。強制的に軌道を変えるか、霧散させる事を目的に放つ。

 しかし、このアーテルは……外と中をイミヤのアーテルによって文字通り分断され、空間の歪みの発生すら叶う程の防御幕だった。

 触れれば捩れ、元に戻る事は無く、巻き込まれ続けるだろう。今も逃げ道を失った空気がゴォと音を立てながらうねり続けていた。



「話す気は無いようですね。でしたら早急に立ち去るべきです。私の気が変わらない内に。」



 正直に言えばイミヤもまた限界であった。眠気まなこを擦りながらも、必死に耐えている状況だ。特段眠いわけでは無いし、睡眠不足の訳でも無い。アーテルの行使による正当な疲労だ。

 ただ、今この結界を晴らして仕舞えば、インディゴさんはおろか、自分自身の身すら危うくなる。


 相打ち覚悟で全てを始末するべきか?


 ーーふぅ。はぁ。はぁ。


 息が上手く続かない。肺が空気を求めているにも関わらず、脳が拒んでいる様にさへ感じてしまう。

 きつい辛いシンドイ。なんて生温い言葉を繰り返し脳内で回しながら、アーテルを維持し続ける。



ーーーーヒュゥオオオッ!バッバッバッバッ


 そこに降りるは第三の気配。



「空から?……またサタブラッド……いえ、アレカサンドゥリア、『ステラ』の増援?」



 また新たな増援かと、次なる対処を導き出そうと、視線を其方に向ける。何とかしなければ、何とかしなければ……何とかしなきゃ。


 遊殺者達の逃亡する気配は無い。仕方……無い。殺すしか道はもう残っていないのだろう。アレカサンドゥリアは、もう既にめちゃくちゃな状況だ。これ以上混乱を増やしても、構わないと言う判断を下した奴がいる。その事を念頭に置きながら、イミヤはアーテルを再び練る。

 この周辺の民間人はミサイルに巻き込まれ、保全していたアレカサンドゥリアも今はこのザマだ。

 今度はイミヤ以外の一帯を消し去るイメージで。悲しい事に、アーテルをセーブする必要は無くなってしまった。


 だからこそ、右手を掲げ、地を平す為に、アーテルを振り下ろさんと………。


 ザッ、ザァー


『ーーイミヤリーダー。応答しろ。イミヤリーダー。聞こえているだろう。』


「艦長!!」



 首元へ手を当て、返答をする。久しぶりの通信で少しばかり舞い上がってしまっていても、誰も文句は言わないだろう。

 雑音以外の音。それはイミヤの首元に着けられた小型通信機器であり、支給品でもあった。

 その声は、よく聞き馴染んだ声で……油断すると気を持っていかれそうで……。艦長と呼ばれた彼女の声は、ワーマナの現最高指導者でもあり、艦長であった。

遊殺者は、逃亡しなかったのでは無くて、イミヤが逃亡する機会を与えていなかったってオチ。当人は気付いていないみたいだけどね〜。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ