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第1章47話【限界突破】-揺れる意識の先に-







 乾いた風が肌を焼き、濁る大気が喉を穢す。太陽すら届かない程、厚い雲に覆われたこの大地に仕切りに響き続ける振動。


 バァアァアアアアアンっ!!


 空気が張る炸裂音。確かにそこにあった筈の運送機は、何処へ旅立ったと言うのか。


 イミヤは、自身の無力さに打ちひしがれた。あぁ、まただと。ムードで例えるならば、諦めと言った所であろう。やりたい事、やるべき事を成し遂げられずに、イミヤはこの地に足を着けていた。


 どうしてこうも上手く物事が進まないのだろう。全ては偶然と言う言葉で着飾っても良いのだろうか。


 酩酊する意識の中、ふとそんな事を思ってしまった。これだけ尽力しても目的の一部分すら遂行できない。アーテル結晶回収の失敗から始まり、今の撤退に至るまで何一つ物事が上手く進まず、失ったモノばかり。指折りで数え切れない程にだ。

 反りが合わないのならまだ良い。もっと最悪な想定は、そもそもの型が合っていなかった事だ。マイナスネジをプラスドライバーで回す様に、目の前の事実すら見分けられていないのでは無いのだろうか。

 それでは、やる事なす事全て空回りする事は極自然になってしまう。


 それだけは嫌だ。目の前の事実から目を背けて、逃げ続けるだけの生き方はもうこれ以上したくは無い。

 だからこそ、次なる手を探し出さなければいけないのに……。


 手が動かない。足が竦む。喉が震え、声が出ない。

 暑い暑い大気の中、繰り返し行われる呼吸は、臓器すらも蝕む様で……。

 トクントクンと身体中に響き渡る鼓動が耳に障る。

 現実と霧がごちゃごちゃになった意識の中、何とか気を失わない様に、左腕を強く握りしめた。ーー痛む。傷む。悼む。

 恒久にも思える程の苦しみは、もうこのままなのでは無いかと思わせる絶望が、あった。


 閃光晴れた先。

 イミヤは立ち続けていた。



「…インディゴさん。大丈夫ですか?」



 振り返りたく無い。そんなイミヤの我儘が、残酷な質問として、声として、届けられる。



「……。インディゴさん?いんでぃg…………。」



 ーー声魂(せいこん)が聞こえない。

 ーー(せい)を感じれない。

 ーー(ともしび)は信ぜない。

 ミサイルと言う過去兵器だ。アーテルを持つ者にとって大した影響を与えず、大した事にはならない。そう、ならない。……ならない。

 その名を呼び続けながら、意を決した様に振り返ろうと……



「ゴホッコホ、、ごほっ………。ーー問題無い。」



 その言葉が耳を伝い、脳に直接反響する。


 恐らくだが、先程のミサイルでこの周辺に身を隠していた多くの人々が亡くなっただろう。それでもインディゴさんが生きていて良かった。と、今感じてもバチは当たらないと思いたい。

 それだけ、今のイミヤにとってインディゴの存在は、重要なモノであった。

 そして、任せるべき事、願いたい事、行動の指針は今も尚変わり続ける。変わり続けなければならない。



「インディゴさん。本当に申し訳無いんですが、もう一度、索敵をお願いしても良いですか?範囲は私たちの地点から半径0.8マイル程でお願いします。敵意が無かったとしても、偵察機の可能性があるので、其方も見つけ次第お願いします。


「ーーもうやってる。けれど、空に撒かれた粒子のノイズが酷すぎて、追いきれない。」


「先程のミサイルによる粉塵の所為ですか。目視にも限界が有りますね…。」


「それともう一つ、…武器が修復不能レベルで破損した。」



 彼女の戦闘スタイルは、アーテルを洋弓。つまりリカーヴボウに乗せて放つモノだ。正確には矢に彼女のアーテル乗せて放っているのだが、今は良しとしよう。彼女が、武器無しで直接アーテルをぶつける事は少ない。もし仮にイミヤの様にアーテルを放つのであれば、アーテルが分散し、尚且つ彼女のずば抜けた精度が落ちてしまうだろう。

 距離を考慮しなければ、十全な火力を有しているであろうが、今の彼女に俊敏で繊細な動きを求める事ができるのであろうか。

 ーー否、できない。

 つまり、インディゴさんの攻撃手段は実質無くなったと言っても過言では無かった。



「インディゴさんの弓が。……分かりました。出来る限り私が対処します。」



 対処する。とは言った物の、実の所イミヤも、後どれ程気を失わずにアーテルを使用出来るのか分からなかった。


 アーテルの使用限界にはこれと言った具体的な規定が定められている訳では無い。

 ただ一つ、分かりやすく例えるなら、気絶する迄使用を続ける事ができる。と言うモノがある。

 ただ、こんな所でアーテル過使用によって気絶する訳にはいかない。仲間と共にワーマナへ帰ると言う意思の元、何とか意識を保っている状態だ。

 しかし、既に限界は超えていた。


 限界は超える物と呼ばれるが、そんな物は限界でも何でも無い。元ある能力値中に存在する壁だ。

 では、何を限界と呼ぶのか。それは、元ある能力値を超えた先にある境地の事だ。自覚の有無では無いのだ。全ての能力を用いた理論値を超えた先の事を指す。

 であるなら超えるとは何なのか。それは……。



 ーー天然のアーテルを用いた()()()()()()()()()()()。これこそが『限界突破』である。







↓↓↓






 深く深く、潜った先に、道を辿って導線を張り巡らす。それはやがて外界へのバイパスへと昇華し、内なるモノと外なるモノを手助けする役割を担う事となる。


 ピキッ


 何かが割れる音がする。その外傷を失わない様に、内側から圧力を掛け続ける。


 ピシッパシパシパシーーリ。


 その音と共に、共感覚の様な意識は途切れ、現実へと一度に引き戻す。そこに優しさの有無などは無く、ただ境を穿つ様に、酔いを強制的に覚ます嫌悪感を抱かせる。

 音の鳴る方へ視線を向けると、其処には小さく亀裂の入った繭と………。


 棘の様に突き出た異質な一本の黒い結晶。



「ーー成功だ。」


「こんなトゲみたいなのでいいの?何なら思いっきり割っちゃえば良いのに。」


「必要無い。何のために態々バイパスを通したと思うんだ?『ステラ』には役割がある。ここで潰すには惜しい。」


「ふーん。」



 何かを思案する姿はまるで、誰かを思いやる様で…。それが誰であるかは正直興味が湧かないが、イミヤ辺りなのだろう。


 正確には、友人としての挨拶でもあり、契りでもあるミスリアなのだが、この時のヘクタには知る由もない。彼にとって『ステラ』の存続はどうでも良かった。ただ、アレカサンドゥリアが国として必要とあるならば、共に存続する必要がある程度の認識であり………。それを叶えるかは彼の裁量でもあり、叶うかは彼らの奮闘次第でもあった。ただそれだけだ。



「後は私がやる。暫く掛かるだろうから、ヴァルエはイミヤ達の援護に行ってやれ。そろそろ体力も尽きる頃だろう。」


「言われなくても行くよーだ。……で?本当は?」


「必要無い。」


「おっけー。ならまた後で、どっちが早く終わらせれるか勝負ね〜。負けたら勝った方の言う事を一つ聞くって事で。よろ〜。」


「ーーおい!ちょっtt..」



 返答を聞く事もなくパッと決めて立ち去るとは…。

 してやられたな。恐らくだが、ミスリアがアレカサンドゥリアを奪還と同時にイミヤ達の問題も解決する。本来ならアレカサンドゥリアの事案に関わらずとも良かったのだから。

 任を受けた訳でも無し、拝命された訳でもない。唯の慈善活動の様な物だ。大した褒賞も見込めないだろう。何なら責任を追及されるリスクすらある。


 何にしろ、だ。導線は作った。後は『ステラ』に潜るだけだ。ーー果たして『ステラ』は機能しているのか。不確定要素はまだまだ残る。

 道具は、一昨日使ったゴーグルを流用すれば良い。



「やる事は決まった。ならイミヤ達と、サタブラッドの動きを注視しながら本命を叩く。」



 それで終いだ。

位置付けとしては、通常→限界突破→覚醒→って感じ。

身体ではなく、人体を介さないアーテルの一欠片の輝き。それこそが『限界突破』。

会話内容から推察できるだろうけど、0章のノウンは限界突破済みだったね。道理で強いわけだ。


「あっーーヘクタ!こちらでしたか。えぇ…と。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!」


「」


「はい。遅くなりましたけど、あけおめことよろって事です。……?変でしたか?」

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