第1章43話【乖離調和】-私は……-
鼻腔を掠める砂塵。
煙火、混乱に満ちる都市部。
呻きも嘆きも悲鳴も一緒くたになった騒がしい景色。
打ち消す光を望み、願い、諦め。不安と恐怖に打ちひしがれる。誰しもが経験する。絶望、失望に、応える声を求めて。
『あ、あーー。うん、聞こえてるね。ふぅ。……突然の事で困惑する気持ちも、私は分かる。この声は、届くべき人に届いているかも、わからない。それでも続けなければいけない。今のアレカサンドゥリアは生きる活力が足りていないから。』
国中で響き渡る声。放送。彼が残した『ステラ』最後のバイパスを通して中継する。
側で傾聴するグラナダを流し目で確認して、、
『けれど、この声を、私を、信じてほしい。私はミスリア。プレスト州知事の娘。ミスリア・プレーニェだった。そして、今は違う。ミスリア・プリェーニェ。それが人種との混血である私の名。ーー父はもうアレカサンドゥリアを悼む気持ちを忘却してしまった。彼と私は違う。』
火事場泥棒。破壊、強盗、殺人。ありとあらゆる暴動は、ただの情景だと言わんばかりに固着する。
『どう違うのかって思っているよね?ーー私はアレカサンドゥリアを、この国を、元の形に還えす事ができる。いいえ、還すとここに誓う。この誓いを忘れないでほしい。ーー時間はもう残されていない。だから私は一度しか言葉にしない。』
世界の時が止まったかのように。ーー静寂。
『私がアレカサンドゥリアを、代々に渡って受け継がれてきた『ステラ』の呪縛から解き放つ。一から私達の権利を取り還す。』
この宣言は後に『プリェーニェの誓い』と称されるだろう。
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「一つ。助言をしよう。中立国としてアレカサンドゥリアを大きく支えて来たのは『ステラ』だ。それは間違いない事実だ。しかし、もう一つ重要な要素がある。」
「ふん。負け惜しみを。」
「ーーそれは人民だよ。」
「…人民だと?」
「あぁ、当然ながら人が存在しなければ国としては成立しない。」
「言葉のあやとりで導くカリスマ性が必要とでも?ーーははっ。何を勘違いしているのか知らないけど、何も国を成立させる必要は無いよ。領域の拡大。いずれはそれが主になるからね。」
「ーーだろうな。しかし、常に反乱分子が眠っている領土における信用は皆無。本当にサタブラッドの拠点なり得ると?ーー耳を澄ましてみろ。確かな熱気を感じれるだろう?」
聞く価値もないと肩を鳴らす。それでも微かに聞こえた。
鼓膜に伝わる微かな振動。それが叫び声であろうが、泣き声であろうが、齎される意味は等しく同じだ。
果たしてこれは本当に人の発する音だけであろうか?ーー否、身体に伝わる衝撃だ。
まさかストベニーツァのアーテルがこの地域まで響いているとでも言うのか。
ーーいや、違う。小刻みに伝わる振動は、大規模なアーテルの衝撃とは噛み合わない。もし仮に、これが、『ステラ』の都市防御反応だとすれば……!!
「………『ステラ』ッ!現時点で把握できる範囲で良い。アレカサンドゥリア、いやプレストの反乱分子の総数は?ーーミスリアに賛同する住民がこれ程??どうやって集めた。いや、そもそも何故これ程の不安因子を治める事ができた??」
「ーー民主制を重んじた事が仇となったな。投票率の低下。その事を重く受け止めていれば変化に気付けた筈だ。明らかな民意の減少。プレストの弾圧以外の可能性も考えるべきだったな。例えばーー誰かが想いを募らせて一つに集めていた。」
ヘクタも答えは知らない。が、導き出される答えは、事実と同等の価値はあるだろうと考える。
「ーー煽動者は、この時の為にミスリアのカリスマ性を利用するみたいだ。」
ビケイムは、考えを巡らせるかのように瞳を周巡させた後、ただ一つ確かなことは…
「……そうか。」
軽く舌打ちをしたかと思えば、尖った声で再び『ステラ』を呼ぶ。既に彼の特権であるかのように。
「少しばかり早い、がこうなったら仕方ない。prompt Bennu呼び出し。実行しろ。」
事前に組んでいたコード?何を実行するコマンドなのか。ベンヌとはどの様な意味を持ち得るのか。
ヘクタの疑問を解消するより先に『ステラ』は行動に移される。
>>prompt Bennu
>>delete event
>>success
>>next sequence :access "Stella" SYS
ready......plz Enter.
>>error:740
→『ステラ』システムの中枢部分のアクセスに失敗しました。
>>delete Basic Style
>>success
>>error:001
→『ステラ』システムの接続に失敗しました。
>>error:002
→『ステラ』システムの構築に失敗しました。
>>get some backup
>>error:404
→バックアップが見つかりませんでした。
>>stl reboot "Stella"
>>error:404
→指定された名称が見つかりませんでした。
>>repair this system
>>success
→『Vyhood』システムの復旧
「エラー740?あぁ、そういうことかステラ。君のバックドアが上手く機能しているみたいだね。想像の遥か上を行く君の適合値には驚かされてばかりだ。だがもう遅い。システムの修復は不可能に近い。君が何を考えているか理解してあげたいけどね、僕たちには、もう君が必要無いから。ーーふっ残念だけど、やっぱり僕の勝ちだよ。」
独りでに考え込む彼から少しでも情報を聞き出す必要がある。ビケイムが『ステラ』に何をしたのか。ヘクタは再び口を開ける。
「今、『ステラ』に何を実行させた?」
「なぁに、ちょっとした細工だよ。意味は直ぐに分かる様になるさ。それと…もう一つ、どうやらこの場所は安全では無くなったようだ。」
そう言って天井を見上げた彼。その先に何があるというのか。
視認できないのであれば、次は自然と耳を澄ます。人間としての当たり前の本能。
身を包む静寂…と感じればーー振動。
「そんな訳だから先に帰らせてもらうよ?ーーじゃぁね?」
意地汚い笑みを浮かべたビケイム。彼はさっと左手を下ろし、
ドッぉおおおおおんーーー。
地が抉れる豪快な音波が鼓膜を刺激する。
人工的な光を失ったことによる闇と、土煙によって阻害される視界。
「ーーいた。」
粉塵から現れる影。
特徴的な尖った耳。先に向けて弧を描き、束ねられる尻尾。
紅く輝く瞳は、全ての獲物を屠る猛獣のようで……。
「なっ!?」
響き途切れる驚愕の声。発したのはヘクタではない。なにせ、その地に立っていたのはーー。
"ストベニーツァ"では無く、ヴァルエなのだから。
ビケイムはストベニーツァに期待しすぎた。第三者から見たらただの生物兵器なのにね。
皆さんどうも一ヶ月ぶりですね。はい。この下書きは一ヶ月前に前話と同時に作成していたんですけどね。なんででしょう。いつの間にかこうなった。




