第1章42話【勝利宣言】-駆け引きの中で-
吹き荒れる黄色の風。揺れる焦茶色の髪の棚引きからは、進路を妨害する様に感じただろう。彼女達の歩みは静かに、確かに、前に進んでいた。
「ーーこの道を抜けた先に目的地があると思います。…だからもう少しの辛抱です。インディゴさん。」
風音を掻き消してまでハッキリと問うたイミヤ。彼女には分かっていた。インディゴさんの体調が万全で無い事に。
普段から自身を表に出す事を嫌う彼女。であるなら何故イミヤは気付けたのか。それは昨日のホテルでの出来事だった。
ふと、目が覚めると心地良い朝日と共に冷え切った身体に僅かな温もりを齎す。
時刻は以前、平等に動作し続け、分け与える。人にとって、時は余りにも短く、早い。
とは言え、だ。腕を伸ばし、手の平を表裏、交互にゆったり眺めた。身体に響く鼓動。まだ生きている。
夜間、暗殺される事は無かった。いや、最低限の警戒はしていた。それでも突発的な対応は難しいことを知っている。
身の安全を確かめた後、ふと気になった。インディゴさんは大丈夫かなと。
身体をようやっと起こし、周囲を見回す。隣のベッドは、萎れたシーツと縒れた布団。彼女は、いない。まさかーー。
スラっと足をスリッパへ下ろし、そっとテラゾーに降り立った。日が指すカーテンの方へ導かれる様に歩みを進める。
向かい合わせに並べられた椅子は、影となり映し出される。優しくカーテンに触れて、死角となって見えていなかった全容を瞳が捉えた。
幸いな事に、インディゴさんはマジマジと通信端末を開き眺めていた。外の景色を見る訳でもなく、ただ黙々と。
最初、声を掛けるか少し迷ったが、意を決して話しかける事にした。インディゴさん、と。返事は無く、時は流れる。意図的に無視をされたのか、聞こえていなかったのか。イミヤには判断が付かなかったが、肩を叩く事にした。
ピクリと肩を震わせた彼女は、立派な翼をファサリ、大きく揺らした。
「っ!驚かせるつもりは無かったんです。声を掛けたのですが、反応がなかったので、心配になってつい…。」
「気付かなくてごめん。集中してた。」
「いえいえ、インディゴさんが悪い事なんて何一つ無いですよ。それと、、画面との距離を離した方が…。それでは近すぎませんか?」
端末との距離が眼前といった様子で目が見えていないのかと心配になる程だった。それでも大丈夫と言い続ける彼女に言及する事はできず……。朝の挨拶を交わすに留まった。
そうして、今へと時が戻ってくる。インディゴさんの疲労はイミヤにも思う所があった。もう直ぐワーマナと言う家に帰れ、休養が取れるとイミヤなりに気遣った訳だ。
少しペースダウン気味に走っていた彼女達であったがそれでも着実に発着場へ向かっていた。
「……気遣いはいらない。歩幅もいつも通りで大丈夫。最優先は小型航空機の確保。」
「分かっています。できるだけ早くあの子と、ヴァルエさんと、ヘクタを連れて離脱しましょう。」
「捕虜も?今の状況下なら手放しても誰も文句を言わない。」
「ッ!ーー私は見捨てないと決めたんです。インディゴさんの優しさにはいつも感謝してもしきれません。ですが、これは私が決めた事でもあります。GHMに、ワーマナに、連れ帰るまで面倒は見るつもりです。」
インディゴさんは優しい。それは前々から知っていた事だ。私の負担にならない様に最後の機会を与えてくれたのだろう。ノウンさんの家族であるあの子を背負うには私では力不足である事も知っている。
それでも私は見捨てたく無いと願った。ヘクタにも全てを救って見せると宣言した。ならどうして見捨てる事が出来ようか。
「そう。それなら好きにするといい。」
それ以降インディゴさんが口出しすることは無かった。ただ静かに道を走り抜ける。
風が首筋を通り抜け、冷たい事を無理やり認識させられる。口に含んだ砂は、シャリシャリと音を立てて口の中を侵食した。
「今は、ヘクタを信じましょう。きっと必ず彼女と一緒に戻って来てくれる筈です。それにーーーー。」
大風。思わず手で顔を覆う程の強風がイミヤたちを吹きつけた。
光が指す大地。
その先を瞳に映したイミヤは言葉を失った。一度、瞳孔は揺れ、唇を噛み締める。
広がる光景は想像していた物と違ったのだろう。
荒野に佇む人工物は、砕け形を保っておらず、今も尚、火を吹き続ける。複数機あったであろうそれらは、炎に包まれ原型を保っていなかった。
「一体、ここで何が………。」
そう呟いたも束の間、鼓膜が空気圧で押し込まれる。ーー爆音。きっとどこかの機体のエンジン部分に燃え移ったのであろう。今の燃料は品質が高くなりよく燃える。その影響も相まった悲惨な結末。
耳を塞ぎたくなる様な光景であった。
↓↓↓
眩い光が視界を汚染する………。
一時、目を見開いた。瞳でその姿を捉えてしまったからだ。
見間違いかもしれない。閃光で瞳を焼いてしまったのかも知れない。そう思いたくなる光景がヘクタの目の前に実在した。いや、鎮座していた。
それは繭。光集めし黄色を纏った大きな殻。その上部が地面を突き破って存在した。
これが何であるのか。ヘクタは理解を拒んだ。だってそれは………。
「ーーステラ。その姿で間違いはないさ。」
目の前の彼はそう断言した。
『ステラ』ではない。ステラなのだ。これは彼女だ。彼女の体。その末路。
ヘクタとしては『ステラ』がどうなろうと興味は無かった。しかし、ステラとなると話は確実に違った物となる。ステラさへ掌握出来れば、『ステラ』とアレカサンドゥリアの個々の問題は解決するに等しいからだ。ヘクタは全てを治めにきた。ステラと再び至近距離で本格的に通ずる為にこの場に立っているのだ。それを崩されたとなると…………。
ーー焦るな落ち着け。まだ彼女自身全てが決まった訳では無いはずだ。だから…今は奴と、目の前の奴との決着を付けなければならない。
「ーー僕は六大器の一人。寡黙のビケイム。あぁ、君にだけは特別にビケイムと呼ぶ事を許してあげるよ。なんたって君は僕の復讐すべき人物だからね。」
青が霞み黒く濁った瞳を開き、犬歯が見える程に口を開け、彼、ビケイムは六大器であると宣言した。
ノウンと言い、短期間で六大器の二人目と接敵することになるとは、感心も薄れるものである。
それ程までにサタブラッドがアレカサンドゥリアを重要視している。ヘクタは、そんな認識を保つ事に不安を覚える頃合いでもあった。サタブラッド唯一の戦力を二枚割く判断をする肝の座り方。相手は、熟練の指導者・経験者であることは間違い無いのだろう。
「いつまでもその顔が続く事を願っているよ。」
「何を言ってももう遅い。僕の勝利は約束されたみたいなモノだからね。」
その顔からは勝利を確信したような余裕が見えた。それ程までに『ステラ』システムは強力なのだろう。アレカサンドゥリアを永年支えてきた『ステラ』は国すら変革を齎す力がある。
しかし、確認しなければならない。ステラはどうなったのだと。こちらの思惑が悟られる訳にはいかない。だが、ビケイムが発言した内容は不確定な要素が存在した。それは……。
「……ビケイム、お前は『ステラ』の根幹を制御し得る力を得たと言ったな?だが、現状は機械を全面的に押し出している様にしか見えない。」
「ハッタリだとでも?何を根拠に詰まらない戯言を発せれるのかな?」
そう。『ステラ』は見事に制御した。現に起動し、アレカサンドゥリアの警備及び敵対勢力の排除を的確に行っている。しかし、ステラは以前と沈黙したままだ。もしかすると未だに支配できていないのではないだろうか、と。
「仮にステラの制御を可能とするなら、今も尚私をこの地に立たせる理由は無いだろう?お前はさっさと片付ける筈だ。ーーそしてその繭をお前は破り、彼女を跪かせる事も可能。……そんな夢見事ができるのであれば…な。」
「ははっ、確かにそうだね。君の前でステラを跪かせるは実に滑稽で愉快だろうさ。だが、君を仕留めるにステラ、いや、僕の手すらも必要が無いとは思わないのかい?」
「有り得ないな。これほど用意周到なお前が、有り得ない。」
彼にそんなアーテルを持ち得ていない事は既に分かっていた。ヘクタにとってビケイムから、アーテルの本流を微弱にしか捉える事が出来ないからだ。
「よっぽど自信家なんだろうね。君は。失敗を恐れ無い。いや、失敗から逃げているんだね。まぁ、何にせよ『ステラ』の制御は既に我々の掌にある。それは変わらない事実だ。プレーニェには期待はしていない。だけど、この状況下で彼がアレカサンドゥリアを手中に収めるには十分な用意だよ。」
そう、アレカサンドゥリアを治めるには十二分な手札であった。アレカサンドゥリアは『ステラ』によって成り立っていると言っても過言では無い。
ヘクタにとって、何よりもステラに籠もられる事は想定外の出来事だ。例え『ステラ』をビケイムに制御されようが問題はない。ステラさへ居ればヘクタはそれで良かった。『ステラ』はステラ無しには機能を十全に発揮できない。それに、ヘクタが『ステラ』システムに潜れば解決するからだ。
しかし、ステラの体が繭に籠ってしまった事によって、ステラを物理的に奪取する当初の目的は果たせなくなってしまった。
「どうだい?気に入って貰えたかな?物分かりの良い君なら分かる筈さ。この状況から戦況を引っくり返す事は無理なんだよ。ーー手遅れって奴さ。」
サタブラッドに所属するビケイム。その彼はアレカサンドゥリアのコアたる『ステラ』を既に支配し、ヘクタの前に立ち塞がる。
ビケイムの背後には、ただただ光る繭が鎮座していた。
ステラちゃんが繭に籠っちゃった、、
9月全然投稿できてない…普段の2.3倍くらい書いたから許して、、




