第1章41話【盤上支配】-ShowDown-
「ーーノウンさんは君が殺したんだろう?」
その言葉はヘクタにしかと記憶させる効力を持っていた。まるで時が止まったかのような静寂。指ひとつ動かさないヘクタに彼は続ける。
「あーいいよ。君は直接手を下していない。それはくだらない裁判の証拠映像で分かってる。でもどうせ君が殺した。」
やれやれと自信気に話すと、肩を上げ手を下ろした。やがて閉じられた瞼は、スッと睨みを効かせる様に鋭くなり……。何事も無かったかの様に彼は続ける。
「人質でも取ったのかな?その背中に背負っている子なら役者としては十分だろう?」
嘲笑う様に。いや、彼を完全に見下す姿勢でサッと左手。空気を凪ぐ。
「人質を取るような真似はしない。それはGHMの理念に反する。」
「今は姑息な組織の話はしていない。君自身の話をしているんだ。態々こんな場所にまで連れ込んで、何をするつもりだったんだい?いや、何をさせようとしていたのかな?」
今もヘクタはアンを背負い続けている。その身体を離さぬように。
ヘクタと相対する彼は別の可能性を推測する。表向きの要因だけでは無い。存在する筈も無い選択肢をも手繰り寄せて。
「仕方無く連れ歩いているだけだ。本来なら預ける予定だった。」
「仕方無く?ーー嘘だな。機会は何度もあった筈だ。いや、生み出せた。ノウンさんを殺せる君にとって造作の無い事。そうだろ?」
やけに喉に張り付く様な空気は、潤す事無く排出される。一息、二息と続く胸の鼓動は、今も尚ヘクタの時を停滞させんと作用した。
「ーー無回答は寂しいねぇ。まぁ何にせよソイツは返して貰えるかな?僕達のモノだからね。」
一拍。空気が張り詰め、ヘクタの顔が強張る。それは彼にとって特別な意味のある言葉でもあるから。溜まる負の感情は言葉として消化される。暗く沈んだ声色で……。
「……物?」
ーー静かな呼吸。
「あぁ、そうさ。ソイツはまだまだ使い用があるんだよ。何せ貴重だからね。」
ーー擦れるコート。
「貴重…か。これまで散々蔑ろにしてきたんだろう?」
淡々と問うヘクタの片側。ーー微かな湿気。
「ふむ、それは心外だな。これまではノウンさんが望んだから見過ごされてきた。稀有で緩やかな一時は既に終わった。それもこれも君達の所為だよ。」
「….私達に原因があると?それは違う。お前の思慮と経験が不足していただけだ。他人に責任を負わせるな。」
沈黙。彼はその答えを既に併せ持っているらしい。ただ事実を指摘される瞬間ほど不愉快な場面は無いだろう。それも全くの他人に、だ。
そして、ヘクタはふぅと一息。気になっていた『愚者』と言うキーワードを元に過去の出来事を組み立て、言葉を続ける。
「ーー『煽動者』がいる事はこの国に入る前から分かりきっていた。ただ二人目が現れただけだ。イミヤ達に元石油プラットを強襲する様、仕向けた人物もGHMの内側に居るだろう。だが、だとしてもーー。」
そっと彼に向かってヘクタは人差し指を立て、
「黙認するにも限度がある。ーーお前の様子だと残り時間も僅かな様だな。成就できると思うなよ?」
突然の挑発行為、その心当たりに血液を巡らせる。停滞する思考の渦に引っ張られながら…。
「こちらも一枚岩では無いってことさ。」
トントンと首筋を指で当てる。小型通信機器。それは…今の状況をイミヤ達に伝えると言う意思では無くーー。
「ふーん。……妙に抵抗が激しい地区が線上に並んでいたんだよ。まるでアレカサンドゥリアの心臓部を仕留めんとせんばかりに。やっぱり君らだったんだね。合点がいった。ーーそれじゃあ、彼ら、我々の部隊がこの場に届くが早いか、君達がこの地を治めるが早いか。賭けるとしようじゃないか。」
現実世界は時を止まる事はない。物事は常に発生し続けてもいるし、それが世界の裏側で新たに紡がれた物語かもしれない。そして、彼の計画も同時に作用し続けていた。
「その言い様、既にアレカサンドゥリアを制圧したとでもいった様な言い草だな。ーー適当な配下、いや、駒を多く持っている。……ストベニーツァに細々と指示していたのはプレストじゃない。ーーお前だな。」
「ーーストベニーツァ。あぁ。」
ぱっと思い浮かんだ姿は彼にとって、どれ程の形になるのだろうか。
彼は肩を鳴らすだけでヘラリと嗤う。その時を待ち望んだかの様に。待ちに待った答え合わせを出来る相手が現れた事に身を震わせ、只々歓喜した。
「やはり、アレカサンドゥリアを含め、全てを導いたのはプレスト、彼では無かった訳だ。アレカサンドゥリアは現状維持を可能とする胆力を持ち合わせていた。特段、内部が腐敗した訳でも無い。であるから、変革を齎す必要は無かった。しかし、お前らはやり遂げた。常に裏手が奏者となって、永年中立であったアレカサンドゥリアを表舞台に引き摺り出した。」
「あぁ、そうさ。アレカサンドゥリアを手中に収めれば今後色々と楽だろう?まっ、僕にとってはそんな事どうでも良いんだけどね。」
「サタブラッドの傘下にアレカサンドゥリアを置く事が本当に叶うとでも思ってるのか?プレストの血を引き継ぐ者も現存している。そう簡単にはいかないと思うがな。」
「そう。君がさっき指摘した煽動者。そいつが中々厄介でねぇ。尻尾を出さないんだ。」
「見当は着いても、暫くは民主制を重んじる必要があった…か。随分と慎重な事だな。」
今まで計画が外部に伝達される事を恐れた彼は、大胆な行動を避ける必要があった。そして内部をじっくりと侵食するには、既存の『ステラ』システムを乗っ取り利用する必要があったと言うわけだ。
だからストベニーツァを駒としてプレストを手中に納め、GHMとの関連を徐々に切っていった。イミヤ達が感じた大使館の違和感もそうだ。
GHMに悟られない為にも、別の誰かが操作した後の盤面を大胆に調査する事すら叶っていなかった。
この時点でGHMに認知されれば事前に対策を練られ、彼の作戦はより困難な物へと変貌しただろう。
「耳が痛い話だよ。ホントに。でも成果はあったんだ。だから問題は無い。………そして、そろそろ時間だ。時間稼ぎは僕の勝ちで良いかな?」
-REALIZATION STELLA SYS.. .01-
その言葉はヘクタが求めた答えでなくて……。
「……まさか、ーーまさか、ステラシステムの鞍替え?」
それは、『ステラ』の根幹からの乗っ取り。ただ上辺だけの支配では無い。システムではなく、ステラそのモノを乗っ取る。それが、彼が出した結論だった。
「本当に援軍の到着を待つとでも思ったかい?シツコイ彼女もそろそろ堕ちる頃合いだ。何年も何年も、手間が掛かったが、果たして見合うリターンを獲れるかな?
ーーステラシステム。その真価さへ発揮できれば良かったんだよ。悪いね。最後まで付き合ってもらうよ。如何せん僕の戦場はここだけなんだからね。」
鼓動。ーー大地を揺らす僅かな振動と共に、眩い光が視界を汚染する。
正常にステラシステムが動作した事の証明でもあり、未だ名前の知らない彼の勝利宣言でもあった。
だぁ2週1回投稿になってる!!ペースを戻さねば……。
Q.ところでイミヤ達はどこ行ったの?
A.元々の目的がワーマナに帰還する事だからね。話にあった発着場に向かって機体を確保しに行ってるよ。詳しくは次話に話すかも




