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第1章40話【天地相対】-あなたの為に-






「ぅグっ、」



 ヴァルエは自身の右大腿部に張り付いた何かを乱雑に払いーー捨てた。

 暗緑色のそれは抵抗無く静かに落ち、行く宛はない。たらりと垂れ落ちる体液は、我を思い出したかの様に本来の動きへと帰郷する。



「ちっ、最後の気力を振り絞ってする事が嫌がらせって。」



 滲み出た汗は、染まる事無く焼き果て、消失した。渇いた肌は少しでも水分を求めるように。彼女は胸を上下。息を吸い込み、吐く。乾いた風が喉を刺激し、熱い風が肌を焼いた。



「ーーまぁいーや。これで、後は、野となれ山となれ。で、いーのかな?あっ、そうだ、プレスト。アイツは、……そっか、ミスリーが何とかしてくれるんだ。インディゴちゃんもイミヤちゃんと一緒にいたし……。えーっとだから私がイミヤちゃんの為にしてあげた方が良いのは……。」



 手先の焔を揺ら揺ら回し、考える事、ほんの数時。パシッと手先で打ち消すと同時に、思い至った本能をそのままに考え、逡巡させ、至った結論。残りのヴァルエの知らない要素。それは………。

 ただ一つ。



「アイツ。ーーーーヘクタ。」



 前へ踏み込み、脚に力を入れようと…。

 目の前は地面だった。咄嗟に両手を前に付け、左膝を前に出し、何とか顔からの衝撃を防げた。が、今はそんな事どうでも良い。前へ進もうと、右脚で踏み込もうと力を入れるも何も感じない。ただ脱力感が右脚を襲う。

 動けと脳が命令しても、緩い返答が返ってくるだけで、大腿部は持ち上がりすらしなかった。


 ーー麻痺。神経の痙攣と共に伝わったのは疲労感と脱力感。その感覚は全身へと駆け巡る。



「なんでっ!私はどこも怪我してない。まだ、生きてる。まだ、動け、、る。だからーーー。」



 前を向き、起き上がる。右脚なんて使わずに。近くの土砂に身を寄せて、左足に力を込め動く。

 そんな時。甲高い音が耳元を木霊したのは。



『ステラシステムにより敵対行動が確認できました異物の排除を開始します。』


「わた、しは。イミヤちゃんの役に立たなきゃイケない。だから、その為にもーー。」



 息を整える。次第に回復する事を願って、思いっきり息を吸い込んだ。



→→→



-ステラシステムの完全なる起動-

→アレカサンドゥリア全域の警戒レベルの上昇、及び一部地域での警戒レベルを最大まで引き上げ成功しました。これより異物の排除を指揮します。



→→→


↑↑↑







 薄暗い石室。手を付けられていないであろう場所。鼻腔に湿気が押し寄せ、普段の嗅覚を損なわせる程の古臭いニオイが侵食する。


 カツリ。


 一つの足音。静寂の中の淀み。影から現れしは……。



「余計な事を…。そのまま深く立ち入らなければ道が交える事は無かったと言うのに。ーー君は………。」



 こちらを向く事無く一方的に話し始めた奴は、ふと何かを思い出したかのようにその場で固まった。思考を順に巡らせて、ゆったりと。それでいて鋭く。静かに瞳を開き、視線を左へ。



「成程。納得がいったよ。ーーその背中の少女、……全てお前が原因だな。」



 彼は何も答えない。口を開くのこと無く、小柄な少女、アンを軽く背負い続ける。



「ノウンさんが負ける事、いや、交錯部隊(イミヤ達)が生き残る要素は一欠片の可能性も残されちゃいなかった。ーー彼女らは感覚に敏感だからね。態々プラットから離したというのに。……運が悪い。君に暇を与えてしまうとはね。僕としても恥ずべき行為、愚かだった。」



 実に嘆かわしい。たった1人のこんな人間に僕の計画を壊されるなんて。



「ノウンさんがこの世に存在しなくなるなんて想像もしていなかったよ。」


「ーー常に最悪を想定しないとはな。」


「最悪?そんなモノ想定したって何にもならないだろう?手に届く勝利。圧倒的な勝利への道筋こそ必要なモノだ。そう、想定外さえも対応できる力がノウンさんにはあった。ーーそれなのに君は。」



 募る思いは言霊の様に怨念と化す。



「全てを台無しにした。役者も舞台も全て整えられ、完全に近しい形での立案。愚者の告さえも手中にあったと言うのに。……残念だよ。」


「愚者?」


「白々しい。あれは演技ですら無い。純粋な悪すら見抜けないズボラな瞳じゃないだろう?お前は知っている。ーーもし仮にズボラだったとしても、そのうち気付くさ。まぁ、そんな事はどうでも良い。まさか、『ステラ』システムをハックする奴に出逢えるとは、運命も偶には当てになる。」


「…何が狙いだ?」


「そりゃ勿論、君の死だよ。何故かって?僕はこれでも怒っているんだよ。」



 その薄汚れた瞳で覗き込む。ーーそして目を瞑り。彼はヘクタを名指しした。



「ーーノウンさんも君が殺したんだろう?」



 薄汚れた地にその一言が、ただ静かに響き渡った。

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