第1章27話【独房汚染】-生きるより辛い事-
「ずーいぶん無様な格好だこと。そうは思わない?」
下に向かって、コツ、コツと反響する音が聞こえる。光は照らさず、彼女の発する生体音が、空虚な薄暗い空間を支配すると同時に、嫌と言うほど鮮明に聞こえた。
両手にぶら下がるヴァルエの本体は、だらんと垂れ下がり、額がセメントを舐める程度に吊られていた。
片手で頬をグイッと捕まれ、秘された牙が露わとなり、光が仄かに反射する。
鋭い目付きを緩むことなく、暴者に当たり散らした。
「あーら怖い。その手枷もよく似合ってるわ。」
「………無駄話なら他所でやって。」
「それだけじゃないの。実は私。貴女に聞きたいことがあってね。」
ヂャリと、楔の音が伝達し、耳を騒がせる。
「そう身構えないで?聞きたい事は一つ。貴女があの小娘に固執する理由が知りたくなっちゃって。急遽時間を作って貰ったってわけ。まぁ、本来ならあの子達の事とと、それ以外の事。話して欲しいんだけど……。まぁいいわ。楽しみが減っちゃうから。」
「ーー答えると思う?」
「えぇ、答えないでしょうね。分かっているわ。だからこそ、貴女に教えてあげる。今どんな状況かって事を。実はね。貴女以外の子たちも指名手配になっちゃった。」
「ッッ!!!!!」
「だーめ。暴れないの。そんなに暴れた所で何も変わらないでしょ?無駄に体力を使っちゃうだけよ?」
「ーーーーッッ!!」
ヴァルエは思わず喚く。いや違う、この場合だと吠えるの方が正しいのかもしれない。
大切なモノを傷つけさせないとするその姿は誰よりも勇敢で…………?
どれだけ暴れても手に絡まったーー嵌められた腕輪は外れることは無く、足に付けられた鎖が煩く騒ぐだけの結果に落ち着いた。不恰好なそれは、ヴァルエの意思に反することができるのであろうか。
「その拘束具は特注品よ?まぁ、貴女の為の物じゃないんだけどね。アーテルを吸収する、って言うよりも抑えるって言った方が正しいかもしれないわねぇ。ーーまっ私にはあんまり詳しいことを知らされてないんだけど。」
「ーーー。。。」
「そうねぇ。今私の問いに答えたくれたら、小娘ちゃん達の優先順位を下げてあげる。」
「イミヤちゃん達の安全を保証してくれるって事?」
「そうよ?でもぉ、もし仮に偶然、出会しちゃったら少し厳しくなっちゃうかもだけど…。」
「…………。」
「それで、話してくれるのかしら?」
静寂に身が包まれる。
彼女は今、天秤にかけた。少しでもイミヤちゃんに危害が加わらないように。願った。彼女、ヴァルエの根幹は、イミヤちゃんに着いて行く元根は、そこにあるのだから。
「イミヤちゃんに笑顔でいて欲しいから。」
「それだけ?本当にそれだけっていうの?ーーーーーはぁ。だったら一生この中にいる事ね。期待希望は自分で叶えるものよ。他人に与えられるものじゃない。」
冷めた鋭い声色で、警告する。それは優しさなどではなく…苛立ちからくるもので…。
ふらり、とストベニーツァの右手が伸びたかと思えば、ーーヴァルエの口を、頬を伸ばすように犯し掴んだ。その指は何かを無理やり摂取かのように押し込まれる。
ーッッ!
突然の行為に思わず嗚咽し、内容物を吐き出そうと何度も、そう、何度も、胃がのたうちまわる。
体液は飛び散り、燻んだ汚れに染み付くサマは、過去を繰り返すと言わんばかりに鎮座する。
ゲホッゴホッ。
ギリと細くなった鋭目でヴァルエはストベニーツァを睨み付ける。
「何を………!!」
「安心なさい?ただの麻酔薬よ。ここで無様に殺すつもりなんて毛頭ないわ。ーーただ少し…………。」
記憶は暗濁し、これ以上の記憶を拒むように堕ちる。それを許すまいと足掻こうとも意識は、籠絡され………。
重く硬い扉は、生を感じさせる事は無く。
再び静かに塞がった。
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一瞬はひと時のことを指し、永年は末長い時のことを指す。ヴァルエにとって、これ程の時間は、短くとも長くとも解釈することができるだろう。
栄養を摂取した記憶など存在せず、ただ過ぎ去る時を感じるのみ。どれ程の焦燥と後悔、絶望をーー味わったのだろうか。
ヒュッ-ハッ、ヒュ-ハッ、ヒュッ-ハッ。
呼吸音が耳障りに鳴り続け、私の贖罪を邪魔する。
選ばれた道はあれしか無かった。無尽蔵に人を殺め、隊のみんなへの気持ち、恨みを込めた人挿しでヤった。
笑顔なんて浮かべられるわけない。元気よくいれるわけがない。いつも通り変わらない日々を過ごせるわけがない。
だって、たった数ヶ月だったとしても、共に過ごした仲間、いや、盟友を失ったのだから。
ーーだから復讐した。
そして、その結果がこのザマだった。
いつ光が訪れるかも分からない、簡略化された暗い暗い牢獄の中、只管に生きるために意識を保つ。
地面に吸い付いた泥体の栄養を舐め掬い、噛み締める事もなく消化する。
寝る事さへ億劫で、捨てられた飼い犬の様にノタウチマワル。
「ーーゎがってる。わかってた。私が弱いから。みんなみんな先に行っちゃう。」
かつての家族でさへ、この能力でーーアーテルによって消え去ってしまった。
二度と会えない事を小さき身体内に悟ったあの時。ただ、街の中心で自然に、ホロリと零れ落ち、声を上げた。
あの日全てに決別したつもりでいた。前を進んでいると信じた。
「だけど違った。」
私は弱いままだった。ワーマナで持て囃されて。Class-Ⅰに浮かれて。誰よりも一番で、私ができて。私しかできなくて。
そんな一番を、誰からも頼られる私を、ーー常に私は望んでいた。
頼りにされて、愛されて。
だけど、それだけじゃダメだったんだ。
届かなかった。
へばりつく恐怖が、心身から霧散するなんて甘やかしがあるわけがない。それこそ、たった一度の奇跡の出逢いがあったとすれども。
薄れても深く深く、残り続ける。拒み、塞ぎ込み続ける。けれど、だけど、不完全な私はそれでも誰かを欲している。
そう、欲し続けているのだ。完全に埋まることない溝を塞ぐかのように。
その誰かをココロの片隅に置くことで、はたまた中枢に取り込むことで、心を満たしてーー。
だから。せめて、せめて、イミヤちゃん達は………。イミヤちゃんだけでも……、私を求めてーーー。
大きく上下する拍動は、呼吸にも影響を与え、身体にも伝播する。
彼女は、願いはただ一つ、永遠に**されたい。
そんな顔をしないで。そんな手で私を払い除けないで。
ーー私をそんな目で見ないで。
瞳孔をかっぴらいて、震わせて。
私が悪いの?
「こんなんだったらはじめからなかったらよかったのに」
弱きモノは変革の時を待ち望む。しかし、力及ばず。時は流れ、今頃開花させた能力は使用者の心を蝕んだ。
割と真面目にここ描きたかったから投稿遅れたちょ。本来だったらこっちが26話として投稿すべき内容だったね…




