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第1章25話【新路融解】-その意識は本物か?-




 感覚は存在するはずのない空間だが、肌寒さを、確かに寒さを感じ取った。

 そもそも感覚というものは脳によって処理されているだけであるため、感覚ないというのは些か表現として正しくない。正確には感じる必要のない無駄な処理であり、淘汰される機能であると。

 ーーしかし、ヘクタの脳は確かに感じ取ったのだ。身を(すじ)るほどの悪寒を……。




「……わかった。この話をこれ以上続けても意味がない。」



 理解したことを喜んでいるのか、ふわりと彼女の体が揺れ、空間に靠れかかった。次の言葉を待つかのように彼女は沈黙を貫く。

 特別な意味はないのだろう。しかし、対話の切り口にしてはやや辛めでーー。


 体感。今肌に触れている感覚は、寒い?ぬるい?空間…。ーーそこでふと、気になっていたことを、……直接聞くには良い機会だ。




「ーーそれにしても、本当に特異な空間だな…。いつまで経っても慣れる気がしない。」



 対話の糸口にーーというよりも、その内容に興味?、疑問に思ったのか、()()()は僅かに眉を顰める。



「……?慣れる?なれる…。そうね。私たちはこの電脳空間を人が知覚出来やすいように、4次元をイメージできるようにワザワザ作り出した場所。本来なら私たちは対話ができても、視覚、聴覚、嗅覚、殆どの感覚を使うことができない。意識だけが存在する無の空間。そんな空間になるはずだった。そうでしょ?ヘクタ。」



 遥か遠くに見えていた少女はいつの間にか背後に周りヘクタの肩に手を添える。それも束の間、クルリと反転してヘクタの()の前に姿を見せる。

 自由気ままに順応する彼女は、もともと此処(ここ)に存在していた住人のようでもあった。



「『こうやって他者の意識にも介在できる。』」



 自然と口から言葉が溢れる。ヘクタの意識ではなく、彼女、ステラの意志で。



「まッ、今のは初めてやってみたことなんだけどね?」



 ふふっ、と何が面白いのか理解し難いが、笑みを浮かべる彼女は楽しげだった。



「できればやめてくれ。気味が悪い。」


「そ、ならやめとく。」



 意外と素直な彼女はクルリと三角座りに姿勢を変え、自身を包み込むように目を瞑った。



「それで、私に聞きたいことがあるんじゃないの?いや、叶えて欲しいこと…かな?まぁ、どっちでもいいや。ーー私に何を問う?」


「"ステラ"。君が此処(ここ)に残る理由。」



 ヘクタは確かにそう言った。彼女がここに残る理由(わけ)を。彼女がその気に成れば自由になれるのではないかとーー



「望んでここにいると?」


「意外と楽しそうだったからな。もしかしたら在るかも知れないだろ?」


「茶化さないで、」



 僅かながら不思議と怒りのような覇気を感じた。この空間に意識(からだ)が順応してきているーーその証拠でもあるのだろう。

 あまり時間が残されていない。そういう事だ。新しくできた、やるべきことを、やらなくてはならないことを終わらせ、また新たに始める必要がある。



「ーーそれなら……確認だな。…始めからステラは『ステラ』として産み出された。そんな解釈を。民衆に、世界に、概念(御伽噺)を植え付けることができてしまった。だから君はここに存在している。そうだろ?」



 ふと、ステラは視線を先へと伸ばした。そこに何があるのか。ヘクタも釣られ、瞳を揺らすが何も見えない。

 そしてやがて視線は交差し……。



「ーー私は最初からこの道しか残されてなかった。愚物であるプレストと小さき孤王である×××に囚われ利用された。私はここで祈ることと恨みを連ねることと、隠された道から招待を送ることそれしかできない。そんな身体にされてしまった。『イ』かされているこの世界の私は今どうなってると思う?」



 端から見たら残酷であろう歯車に、口を挟もうものなら大きな大きな歯車に巻き込まれることとなる。それ知っていようと尚、ヘクタは告げる。



「朽ち果てることは暫くないだろうな。まだステラのアーテルには利用価値がある。」


「本当にそう思う?貴方も知ってるんでしょ?この裏口を知っているのは、いえ、見つけられるのは卓越した能力を持った人間か、それとも…その開発者と関係者だけだって。

 なら、アーテルの原石、アーテル結晶のーーその意味を、在り方も。在処(ありか)も。貴方なら……。」







 ステラはこちらに目を向けずに言葉を意識を続ける。



「価値があるのは私の身体(本体)じゃない。アーテルにこそあるって。その答えは貴方は持っている。」


「あぁ。」


「なら教えて。私は()きていると思う?」



 生きているか。果たしてその言葉を解釈し飲み込むことができるか。

 身体が分からなくても。意識があるなら生きていると言うのか。自分の本体がアーテルではないと言う確証。そんなものは持ち得ているのか。


 彼女が求めている答えは。きっと違うと言う明確な否定と拒絶。身体を持ち得てからこその本当の生であると。その答えを聞きたいんだ。


 意識としてAIとして、今まで生かされ続けた意識。それだけを持って、生きていると彼女に声をかけて良いのか。



 ーー意識があるのなら生きている。そう明言してあげたい。しかし、それはヘクタの希望であって、実際はそうでないことを知ってる。何より知っている。あの時。あの瞬間。彼女(???)を失った時。その意識だけでは本物になりえなかった。その事を知っている。幾ら研究しようが、心が身体がアーテルが意識が、揃わなければ……



 本人とは言えない。言えない。言えなかった。


 どれほど甘い言葉をかけられようが。それは幻想であると、ヘクタの心を蝕んだ。空虚であった。空っぽの心は満たされることない。その空いた空間に新しく蓋を被せるしか方法はないのだ。


 身体が熱くなる。心が暑くなる。締まるような苦しさに、脳が縛られるような重さがヘクタに襲う。




「ーーそろそろ時間ね。貴方の答えを待ってるわ。また出逢えたのならね。」




 ーー意識が引かれる感触が徐々に強くなり、嫌悪感と安心感で心をぐしゃぐしゃにする。

 誰かが呼ぶ声がする。その繋がりが強くなる。


 徐々に、徐々に。



ーーヘ……!ヘ…た!!ヘクタ君!!!



 融けそうなほど熱い頭を抱え、荒い呼吸を整える。


 肺に多く雪崩れてくる空気は想像よりも重く、随分と乾いていた。まだ生きている実感を身体で味わいながら息を飲む。



 そうして思った。



まだ生きていたいと。







→→→







「……帰ったのね。」



 彼女、ステラは小さく呟く。その潤んだ瞳は後を見るのでは無く、先を見通す力として利用される。

 流れるログを横目に彼女は……



「ーー少し、だけ手助けをしてあげる。…あとは答えを導き出す(伝導する)ことを……願って。」



 赤く染まったlogに、2人の被疑者を青く(翠と)染め上げ、解き放つ。



「待ってる。」



 その言葉と共に、パァッと光が粒子となる。そして、淡く散り、淑やかに去った。


これでようやく1章中盤終わりってマジ?

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