第1章21話【虚空本心】-ミスリアとアレカサンドゥリア-
彼、ヘクタが潜ってから数時間。
肺の中の空気を押し出して取り込んで。彼の呼吸と、機械の駆動音が鳴り響く。フィーンと言う原子運動音は、嘗ての冷却ファンを連想させる。と言っても連想させたのはグラナダだけであったが…。
妙な沈黙が続いていた。
その空気は、よそよそしくなる気持ちと一息つける様な安心が交わっているとミスリアは、肌で感じていた。
ヘクタへの不安と焦りが募る中。ミスリアは思う。彼は自分にとってどんな立ち位置だったのかと。偶然知り合った知り合い?共に零地を味わった友?それとも、ただの保護者?
彼の中では友であって欲しいと、そう思える程にミスリアはヘクタに信用を置いていたのだろう。
何を為すことも無く。ただ自堕落に淡々と生きていた日々。耳なしと言われようが、死んでしまえと言われようが。特に気にする事なく、『わらって』いた。
そんな日も終わりを迎え、過ごしていた場所は突如として蝕まれた。
彼らとの出会いは最悪だったと思う。彼の士官?に刃を向け、先を突き立て、明確な殺意を魅せた。
けれど圧倒的な力の差で抑え付けられ捉えられた。
私は本気だった。生きたいと願うことのない人生だったが、その時。初めて私は死にたくないと願った。
初めて会ったその時。黒白い瞳に正気を吸われる様な錯覚に陥ったと思う。何もかもが透けているようだった。それと同時に恐ろしくも思った。
その時、恐怖をも上回る好奇心が産まれた。産まれたのだ。
初めて会話した時、私は彼が寂しそうな人だと感じた。あれだけの優秀な士官に囲まれているのに。あんなに可愛らしい女の子達に囲まれているのに。
彼は孤独だった。
私はそう感じた。ヘクタも私に意気地なしの孤独な女とでも思っていたのだろうが……。それは良い。今ら彼の話をしているのだから。
内心を見せること無く、人の思考を覗こうとする。人に嫌われるタイプの筈なのに、何故か放って置けない。そんな人だと私は思う。
しかし、それは一般的な思考に基づく私なりの考え方だ。
私、ミスリアの本心はどうなのだろうか。
考えを改めさせられた人物。私の中で大きく変わった出来事だ。大切な人かと聞かれれば悩むところではあるが、それなりに助けてもらった。情がない訳でもない。んーー。んんーー??わかんなくなってきた。
思わずミスリアは首を傾げる。そんな時だ。
「ーーミスリア。」
「……何?」
突然名前を呼ばれたことに驚いて反応が遅れてしまった。そうだった。別に話をしても良いんだと。乾いた空気の中思い出す。
「アレカサンドゥリア、ーー引いてはプリェーニェ、この国の過去を知っているか。」
何を言われるのかと内心ハラハラしながらも、冷静を装った。
状況を上手く読み込めないミスリアは少し挙動がおかしい。取り敢えず、グラナダに聞かれたことをシンプルに答えようと努力する。
「そりゃあ、まぁ…ね。色々と?」
「なら言ってみろ。」
「うーんそうだなぁ……。科学で発展し成長を成した技術の第一認国。他に追随を許さないほどのアーテルへの理解力…とかじゃないかなぁ…。」
「そうだ。プリェーニェが他勢力から独立したきっかけでもあり、表向き他勢力に干渉されなかった原因でもある。そして、有線以外の方法で外界との通信手段が殆ど存在しない今現在、オペレーションシステム『ステラ』を開発、公表したことにより更に守護が強固になった。ーー何故これ程までに他勢力とのリードを保ち続ける事ができたか。それはこの地に眠る伝説に由来する。」
「えーと、確かそれなら聞いたことがあるよ。」
今思えば、まだあの時は色付いていた気がした。
過去言い聞かせられた伝承を頭を巡らせるように思い返す。
「ーーある青年が無尽蔵な人々の交流に社会をもたらして、役割を見つけ平穏を産み出したって。つまり国を創ったってことでしょ?それがプレーニェの始まりで………。その青年の声を誰もが知っている不思議な力を持っていたって記載もあったね。確か、最後その青年は…。」
「首を捕られた。しばらくの安然もつかの間それらが齎したのが…」
「ーー『アーテル粒子』」
「そうだ。よく覚えていたな。そしてそのアーテルはこの地に強く根付いている。それをどこからか聞きつけたのが代々の血縁者であるプレスト・プレーニェ。あの野郎がおかしくなっちまったのはそれからだ。アーテルがくそったれな世に広がる前から研究も開発もすべてプレストが担ってきた……となっている。」
「だから、たかが州知事であるプレストさんが大統領よりも権力が強いってこと?」
「そうなってしまった。軽い役職なら、ある程度認知を抑えることができる。愚民共の対応はせずに済み、頭が回る奴だけ対応をしていれば良いからな。」
「でも、最近表立って目立ちたがってなかったっけ?」
「そうだ。アーテル使用の一部許可だな。区分けを上手く馴染ませた様だ。そして、その政策が世に広まった。」
「でもその所為で有名になっちゃったよね?……つまり依代が必要無くなったってこと?でも、そもそも何で目立ちたくなかったんだっけ?」
「アーテル粒子。それを表沙汰にしたくなかった。それ以外にも、この地域は特別だ。余計な手間を取りたくなかっただろうな。」
「だとしてもだよね?アーテルの研究をひた隠しにしたかったってこと?」
「ある程度の算段がついた。いや、既に完成させたのかもしれない。」
「研究成果がってこと?」
「そうだ。ヘクタのやつも言っていた。このD地区をスキャンするドローン。アーテル結晶を利用しているのではないかと。そのドローンもここ最近の話だ。」
「ま、まさかプレスト州知事は戦争でも起こすつもり??あり得ないよ。ここはあの中立国アレカサンドゥリアだよ?他にも類を見ないほどに古くから続いてきた歴史ある国だよ?そんな、一人の意思でどうにかなる問題じゃない……筈。」
そうだ、あのアレカサンドゥリアだ。GHMの助けも殆ど借りずに災厄を乗り越えた。そんな国だ。
ありえない。ミスリアはそう言い聞かせる。そんなことあってはならないから。
「言っただろう。準備が終わった。
始まるんだ。この国の過去を断ち切って。」
今日は水曜日?聞こえなーい
あけおめことよろってね〜?
「ーーヘクタ!ここにいましたか。えぇーと。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!」
「 」
「えぇ、私も楽しみです。平穏を願って私たちは戦っていますからねっ!」




