第1章12話【縁旧蒼流】-答えは-
「ってことでぇ。ここが私のおすすめの宿!」
ヒラリと振り返り手を宿へ向け伸ばす。
「えぇー。こっちのでかい方じゃなくて?」
「文句を言わない。泊まれるだけまだ良い。」
「それはそうだけどさぁ。こっちだよ?ひっそりと立つ隠れ家というよりも数十年前の完全に老朽化しきった古の建物的なさぁ……。」
「歴史的建造物って点はそうかもねぇ。」
たははーと頬を掻くミスリア。
「この建物……。」
「何〜?もしかしてイミヤちゃん来たことあるの?」
「いえ…。」
「まぁもしかしたら来たことあるかもしれないね。昔は有名だったらしいよ。なんでもこの近くから過去の異物が発掘されたらしいからね。」
「過去の異物?」
知見が無かったので、インディゴさんに目線を合わせたが……首を横に振られた。彼女も知らなかったらしい。
「アーテルのぉ……。なんだっけ。うーん…。アーテル関係ってのは覚えてるんだけど…。座学は得意じゃないんだよねぇ。」
詳しく知る者は居ない。
一人頭を抱えるミスリア。頭を捻らせても出てこない。
一人…いや二人を除いては。
「細かいことはいいじゃん。チェックインだけしてこの街見て回ろうよ。」
「気楽で豊か。」
「それ馬鹿にしてるでしょ?」
無言で押し黙ったインディゴに前に屈み手を大きく広げて抗議するヴァルエ。
「ーーアーテル粒子。」
その微かな言葉を、絶賛グルグルと引き摺られているインディゴは聞き逃すことは無かった。
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「こんな辺鄙な場所に客たぁ、これまた珍しいことで。」
目の前のレジとキッチンが融合した様な場所には、頬杖をついて気怠そうな中年、、と言うよりは、まだお兄さん。紅瞳を細め、流しながらイミヤ達に向けて皮肉を呈する。
いやこの場合皮肉と言うよりも訝しむと言う方が正しいかも知れない。
「隣に立派な建物があっただろうに…。如何してうちに?」
「それそんなに重要なことなの?疲れちゃったしさっさと部屋借りたいんだけど。」
「ヴァルエさん!」
すんっと顔を強張らせるヴァルエの態度にイミヤはペコリと頭を下げる。
そんな様子に店主は見向きもせず、とある一線。
ーー遅れて入って来た、その姿を見るなりに固まった。
「やっほ。」
その言葉の方向はーー
ミスリアただその人だけで……。
「…………。」
静けさが、蒼が、場を支配した。
「………着いてこい。部屋は5階。家じゃ最上階だ。」
ようやく口を開いたかと思うと只の作業のように告げる。
「面倒ごと。」
「そんなの今更でしょ?今日はどんな部屋で寝れるっかな〜。」
能天気なヴァルエを他所にインディゴは、深い深い思考の渦へと身を投げる。
不安を拭い切れていなかったと言えば良いのか。何を疑問視しているのか。定義付けされない問いから答えなど見つかる筈がないのに。
リーダーの不安。ヴァルエ姐さんの様子。ミスリアの暗闇。そして、ヘクタの行方…いや、思惑と言った方が良いのかもしれない。
『アーテル粒子』仮にその話が本物であった場合、ワーマナ・サタブラッド間にどれ程の戦力差が生まれるのか。
エレベーターと呼ばれたそれは5fを提示し扉が開く。
イミヤ達だけ先に出ると店主は自動で閉まる扉を押さえながら、問う。
「それで?最初の質問に戻るが、ここに何しにきた。」
「3日間の宿泊です。ただ本当にそれだけです。」
店主はイミヤに目を合わすことなく一点を見つめていた。
彼女は背を向け、目線を合わせることなく立ち尽くす。
「言わなきゃ分からないほど脳は腐ってないはずだ。ミスリア、お前だ。」
その長い耳をL字に曲げながら……真っ直ぐと前だけを見つめていた。
「…………。グラナダ。私は変えに来た。」
「ーー決心が漸くついたんただな。タイミングとしては最悪と言っても良いが、まぁいい。好きにしろ。」
腰に当てていた手をぷらぷらさせ、さっさと部屋に入れと言わんばかりに催促される。
壁に凭れかかりながら片目を開き横目でグラナダと呼ばれた店主を見るヴァルエ。顎に手を当て続けるインディゴ。グラナダとミスリアを交互に見据えるイミヤ。
エレベーターの扉が閉まるまでのその間。
久しく感じていなかった。いや感じる事を避けていた冷えた空気を味わった。
今日は何曜日だって?寝てないから月曜だよ。




