第0章27話【欺瞞放心】-君の瞳には何が映るの-
夜闇に照らされる月の中、濁った金切音が鳴り響く。
「同情はしないわ。哀れみもいらない。」
そう言って、腕から垂れる血液を横に散らす。硬く冷たい地面に堂々と膝を着き深い息を吐いた。肺を無理矢理動作させ、浄化するように上下。
身体的にも限界まで負担をかけた。当然と言えば当然だ。
ヘクタには伏せるヴァルエの顔に何か…いやこの話は止そう。
結果ノウンは死に、我々ワーマナが誠心誠意対応、命を賭け勝利を手にした。果たして本当に価値はあったのか。一体誰が決めてくれるのだろう。
「大丈夫か?」
倒れ込む彼女に手を差し伸べる。その手は睨みつけられ…。
ーーそれでも、ふと温かい感覚が伝わる。
「ヘクタ。君、やる時はやるのね。根性ない奴だと思ってた。」
「それでもヴァルエには到底及ばないさ。」
高が愛想笑い。けれど今はそれでいい。そんな気がした。結局のところ仲間なんだから。
「さて…と。」
自然と振り返る。見過ごす訳にも行かないし、責任というものでもあった。力尽きたのか、いつしか不快な音は失せ、呼吸だけが留まり続けた。
→→→
「……。」
今この現状にイミヤは口を出すことはしなかった。いや、持てなかったし、持つ資格などないと思った。結局私は決断できずにいた。ただぼぉーっと眺めていただけ。
「イミヤ。どちらにしろ、見せはしなかったがノウンも限界だったんだ。このまま行けば先はなかった。そんなに責任を負う必要はない。」
「だとしても、私には……。」
「うぐっうっあぁ……。」
イミヤの応声は、妨げられ、悲痛な叫びとでも言うのだろうか、失われたと思っていた声帯は、依然として止むことなく、それに求め続ける。
「あなたは……」
イミヤにとって狂乱する彼女は、見覚えがあった。当然だ。わかっていたことだ。
しかし、時は戻らない。これは罪である。
「ねぇ。君。」
ヴァルエは叫ぶ少女の顔をグイッと無理矢理にでも此方に向けて、言い放った。
その無垢な瞳には何が映るのだろうか。
「よく覚えておきなさい。奴。ノウンを殺したのは私。ヴァルエ。あなたが弱いから彼女は死んだ。」
「そんな言い方をしなくても…。」
「いいや、イミヤちゃん。これくらい言わないとそこで留まり続ける。だからはっきりと言ってあげた方がいいの。」
「ですが……。」
「で、どうするの?私は、このまま放置しても良いけどこの子簡単に死んじゃうよ。」
そう言っていつもに増して鋭い眼差しでイミヤを晒す。
どちらにとっても良くなりようが無いのだから。
「……わかりました。私たちで保護…しましょう。」
そこで表明するものが一人。白髪の少女、インディゴ。
悪意などはなく、ただ純粋に主張を述べる。
「私は反対。今後の予測は不能で、必ず危害を被る。危険すぎる。」
当然と言えば当然だ。私達が殺し、私達が仇なのだ。
「インディゴさん…。それでも私は連れて行きたいです。私は彼女に……この世界を見せてあげたい。」
お互い譲るつもりはないのだろう。暫くの沈黙が生まれた。
強い意志には責任が纏う。それだけの覚悟が彼女達にはあるのだろう。しかしそうも言ってられない。だから……。
「民間人を保護することは確かに厳しいだろうな。」
「ーーだとしても私は、目の前の救える命を二度も失いたくはありません。」
彼女はこちらに向き返り、その深層を魅せる。
「それなら、捕虜としてならどうだ。今こそ国際法とやらを使えば良い。身体の自由は制限されるが、突然襲われるということは起きにくいだろう?」
イミヤは暫く黙り込むと、やがて意を決したのか顔を上げ…
「インディゴさん。お願いします。」
その瞳は常に真剣で…。
「……はぁ、好きにすれば良い」
「それでいいんだな?」
「…ん。」
彼女、名前はまだ分からないが、その処遇は決まった。だから、告げに行く、彼女自身の、彼女にとっての運命を。止める時は存在しない。だってもうこの世界にはそんな暇は無いのだから。
「取り敢えず名前を聞こうか。答えられるか?」
返答はなく、ただ、亡骸の手の中に蹲り続ける。その姿になぜだろうか。心が動きはしなかった。
「仕方がない…か。18時56分0秒。組織国際法に則り、お前を捕虜として連行する。」
「動けますか?」
彼女の髪をサラッと通り抜け、頭を撫でるように、目の前に手を差し伸べる。
反応はない。これだけ固執しているのだ。無理にでも連れて行くしかないだろう。
「イミヤ、確かバンドがあっただろ?それを先に右手に付けるぞ。」
「バンド…。捕虜監視制限用具のことですか?はい、そうですね。」
そう言って外ポケットから装備品を取り出し、バンドを手で探り当てる。
「少し腕を出してくださいね。すぐすみます。」
フシュッ、カチャンと言う音が鳴り、腕に確かに巻かれた。サイズは自動で調整するらしい。
「ご協力ありがとうございます。」
声を上げることはせず、抵抗は無い。いや、この表現は正しくない。無気力となった居た堪れない少女。客観視すれば分かる。
「……仕方ない…か。私が彼女を運ぼう。」
空を見上げ夜風を感じるヴァルエとイミヤを横目に、そう結論付ける。
ヴァルエは殺した張本人。しかも彼女自身が彼女に告げていた。そして、イミヤは彼女に入れ込みすぎる。インディゴは言うまでもない。
となれば自然と…いや、必然。
『そうだろう?お前は知っていたんだから。』
放心する彼女の体を無理矢理起こし、背中で抱え込む。足は細く気力が無く、腕は垂れ下がり、泥が混じる灰に染まった瞳は視線さへもう合わない。
「それで、これからどうするか……話し合いたい所だったが…。」
「陽が既に落ちている。GVに戻った方が良い。」
「さんせー。今日はもう何も考えたくなーい。」
「ワーマナに一度帰還する必要があるんですが、そうですね。戻ってから決めましょう。…私たちのこれからを。」
夜闇に残る一握りの影は映ることを知らない。
本当は書く予定は無かったんだけどねぇ。0章は世界観を感じて貰うために書かざる得なかった感じだね〜。つまりアーテルという存在。彼女らの常識といった感じかな。
そうなってくると1章で何を書くのかって話だけど…。
結局何を得て何を失ったのかって話だけど、簡潔に言えば、サタブラッドの妨害とイミヤたちとの関係性を得て……
未来の可能性を失った。




