第0章26話【臥薪門出】-心の色は-
もうちょい人格が壊れてく感じを出すため24話ちょびっと変えました。
先のない短剣を右手に持ち替え、クルクルと回しながら続ける。
じとぉと目を細め、ゆったりと先程何かを飛ばしてきた奴の方へ視線を向けると…
「それに、次のオモチャも見つけたことだしぃ。満足、満足。だから、お前はさっさとおねんねしようねっ♪」
既に見るべきところはない。片手が不能であろうと私は止まることを知らない。
奴等の底は見えた。であるならば…
「ーーなーんにも、わかってないんだね。」
「えぇ?」
原型を想像しようもわからないほど薄汚れ、傷だらけのそれは、手をぶら下げ背を曲げようと未だに私を視界に捕らえていた。
突然の煽動ともとれる発言に少し困惑させられる。何を考えているかもわからない。いや分かりえない。
見るからに息絶えようとしている目の前の獣は、言葉を発していた。
「何も分かってないっていったの。」
二度もそれもはっきりと。
「どれだけ貴方達が仲良しさんだろうが殺し合いには関係ない。でしょ?」
「そう思うならそう思ってなさい。見せたげる。お前が拒絶した共生を。私達の力を。アーテルを。」
大見えを切った奴ら。これから何を起こそうというのか。正直に言って見当もつかない。それともただのブラフ。
ヘクタと呼ばれる彼は、あれから動くことはなく、拳銃と呼ばれるそれを下ろし、静観に徹している。次も仕掛けるなら彼と考えた方が良いだろうが、
気の揺さぶりをかけるにしても遅すぎる。
「ふーん。だからなにって話しなんだけど。そこまで言うからには覚悟してもらうわよ?」
しかし、言われたとて変わることはない。相手のペースを崩し、孤立させ屠る。やることは変わらない。
「イミヤちゃんはサポートをお願いっ!」
「ですが…。いえ、分かりました。」
「インディゴちゃん!!!」
「分かった。」
ヴァルエはその捻曲がった考えを否定したかった。違うのは出会い方、出会った人だけ。
だってそれは……。私も……。
出来るのは1回きりだろう。やったこともないし、できる可能性も極僅か。
だけど、やるしかないと思った。
インディゴは放つ。ただ先を見据えて。
矢は曲線を描き、真っ直ぐとノウンへ向かう。
これまで以上の速度。これで終わらせんとばかりに突き進む。
その矢は、ノウンを貫くため。
ヴァルエは目を瞑り全神経を集める。
豪速である矢を、アーテルで包まれる温かな感覚を。手を広げ……。
掴み……そのままの勢いで投げた。
二つのアーテルが纏うその神球は、紅と蒼。しかし混じり合うことはなく、美しくも絡み合っていた。
「ほんとぉにっ楽しませてくれるっ!!!」
何故喜びを感じるのだろうか。これ程のアーテル防ぐ術はノウンには持ち得ていない。
持っていない?誰が決めた?誰が決める?
「私は『ノウン』っ。決めるのは私ッッ!!」
弾けた短剣に水を纏わせ、形作る。私を死へと誘なうその攻撃を……。
「待ってっ。待って下さい!」
眩い光の中、今度こそ短剣で受けた。
激しく衝突したアーテル。そのまま光の渦へ呑み込まんとする猛勢だ。
右手一つで請け負う彼女。その能力は真の意味では発揮されず、しかし問題はなかった。
ノウンにとってアーテルは、殺すためにあるものだから。
弾き失せる彼女たちの眩いアーテル。
ノウン。彼女は全てを受け切った。その身一つで。
溢れる笑み。力尽くし、重心が不安定になり、今倒れようと……。
ガシュっっ
突き刺さったヴァルエの手刀はよく馴染む。
その腕からはノウンの血であろう。伝い、ポタポタと零れ落ちる。それはまるで体が涙してるよう。
それでも笑みを絶やさない。
ハイライトは消え、濁ったその青い瞳には何が映るのだろうか。
「そんな…。」
ヴァルエはそのままスラリと引き抜き、そのままの勢いで回転、容赦なく蹴りを入れる。
ノウンは、抵抗することなく飛ばされ、混凝土の山に力なくそのまま仰向けに倒れた。
あぁ呼吸が浅い。息がし辛い。見なくてもわかる。致命傷だ。
私の断片。散る具片。
左手は言うまでもなく地に張り付き、右手は未だに痺れ続け、もはや何を持っていたのかすら分からない。
体は山なりに靠れ掛かり、既に下半身の感覚は感覚として機能しない。
起き上がる気力など最早無い。
そうだとしても、目に張り付けなければならない。それが義務であろう。
もし仮に聞いていれば何かが変わっただろうか……。
上半身をゆっくりと時間をかけて起き上がらせようとする。動きが鈍い。
首だけをなんとか持ち上げ、目にした光景は……、ドロドロに溶けた液体?
贅沢に使われ、散らばる具材は特に印象を引き立たせる。
私の体から溢れ出ている。白く、トロい液体は、まるで………。
そうだった。今日も帰ったら、出迎えてくれるかしら…。
今日は確か……。シチュー?
温度が保ってくれている。家族という名のぬるま湯に浸れる。
そうだった。私は…………。
『あなたを守りたかっただけなのに。』
もう後には引けない。これは私の罪なのだろうか。
だとすればどうかあの子だけは……。
「あぁ、最後に……。食べたかったなぁ。」
消える灯火。潰えるアーテル。
これは人にしか出来ないこと。
寂しくて…寒くて…怖い……こわい。…i
零れ落ちる髪は灰色に混じる蒼を失い、青味掛かった薄灰色の眼球は捉えること無く散る。
「あぁぁぁああぁっぁあああぁぁ……」
私達には聞き馴染みのない声が彼女の最後を看取った。




