第0章19話【作戦開始】-願いと始まり-
光虚しく灰が照らされる室内。
そこには、動くことの無い二つの影が存在した。
「ヴァルエ。お前は納得しているのか?彼女らが負うであろう負担に。」
…納得なんて出来るわけがない。
『分かった。』『理解した。』なんていう無責任な事を言いたくなかった。
的確に指摘するあいつが本当に煩わしかった。
「うるさい。」
聞きたくない。ほんとに嫌になる。自分が。この状況で何もできない私が。
「納得できないんだろ?だったらお前がするしかない。ヴァルエにしかできないことを。」
「………。」
私に出来ることがあるのだろうか。分からない。
でももし、私に出来る事があるんだとしたら……。
それは果たして私なのだろうか。
↑↑↑
地を蹴り、空を優雅に舞う。
ヴァルエは今も悩んでいた。
あいつにあの時、あの部屋で、作戦内容の変更と個人行動の追加を言い渡されたことではない。
あいつがやろうとしている事はただの虐殺だ。血も涙もないただの殺し。
そしてその殺しを助長する私。
わからない。
この殺しに意味があるのか
勿論、やられなければ此方がヤられる。
だからと言ってこうも残酷に。これ程までにする必要があるのかと。
これは果たして人が行える行為なのか。人が踏み入って良い領域なのか。足りない脳を絞り出し考えた。
けれど、やはりヴァルエには許せなかった。イミヤちゃんを傷つけた奴らを。
奴らの拠点を直前にし、減速する。
綺麗に着地したその動きからは想像できない程に視界は揺れていた。
目の前に差し出した手のひらは、いつもより空で、不安定としか言いようのないほど震えていた。
言われた通りに動くのは癪だ。
あんな奴の言う事を聞くのだ。本来なら気が立って仕方がない。
…けれど、『イミヤちゃんが不幸な目に遭う』のはもっと嫌だ。
背負うのは私だけでいい。そう思える程には気持ちが、決意が、より一層固まった。
例え、敵でも味方でも。イミヤちゃんを貶めるなら。私は殺るよ。
仕方がない…ね……?
そうでしょ?だって悪いのは全部奴等なんだから。
situation*start:-15min
→→→
昔ながらの嫌な駆動音が鳴り響く明らかに古びた装置。
けれどそんな音は既に可愛く思える程には慣れたものだった。
「様子は?」
「変わりありません。昨日からずっとこの調子です。」
簡易的に取り付けられた5枚の旧式モニターが拠点周辺の映像を映し出す。
何も変わり映えしない風景。昨日と変わらない、ずっと続くであろう風景。
「なら良い。変化があればすぐに知らせろ。」
「わかりました。……。」
奴らの動きが無ければ、明日はここの隊総出での緊急任務だ。
明日はしくじる訳にはいかない。
そう考えると、今からでも腕が自然と震えてくる。
それでもあの日、父の顔を見る事ができなくなった日。
途方のない絶望。虚無。失望と後悔。
奴等に奪われ、踏み躙られ、それでようやっと覚悟を決めた。あの日決めさせられた。
やるしかない。ワーマナの奴等を処理する。ただそれだけ。
変わらない変わらない日常を映し出すモニターは普段通りそこにあるだけで、何も変わらない。何も変えれない。
そんな光景にふと目に入るものがあった。
美しい陽の影だった。光の中に入り混じる深い色。
昨日もこんな感じに夕暮れが差し掛かろうとして……
「昨日と同じ…。」
そんな訳が無い。杞憂だ。考えすぎだ。
ここはサタブラッドの拠点だ。あのサタブラッドの施設だ。
「有り得ない……
周囲が瞬く間に輝き……揺らいだ?
理解が追いつかなかった。白く光った。ただそれだけで…
↓↓↓
遠方で噴煙を確認したヘクタは嘆息した。
「上手くいったようだな。」
夕日が差し込み、鷹のような鳥が優雅に飛行する空が流れる。
シュン
さぞ詰まらなさそうに、先程の光景を拡大表示していた画面を閉じる。
人を殺したと言う感覚はない。
ただただ障害物を取り壊しただけだ。今更言うことなどない。
「案外呆気ないものだ。これから奴らは戦争を起こそうと言うのに。それとも他に何か見落としたか?」
考えても答えが見つからないとはこの事を言うのだろう。
結局のところ、このサタブラッドの拠点は必要なかった。彼女らのすべき事は我々の殲滅。
その後に付いてくるものが、サタブラッド統率かつ、決意であり、一きっかけの足掛かりに過ぎない。
それでも、サタブラッドにとって重要な橋掛かりであり、攻め入るチャンスのはずだ。
「まぁいいさ。残るは『ノウン』。あいつだけだ。」
「邪魔するなら容赦なく殺す。ただそれだけのこと。」
イミヤには悪いが、知らない方が良い事もある。……いや、今更か。
独断でサタブラッドの処分をして今頃怒っていることだろう。
けれど、これは必要な犠牲だ。
人質だろうと何だろうと関係ない。
最後に立っていた者が正しい。
判断材料さえ用意すれば、それが他者への理解の形へと繋がる。
経験が、歴史が、そう物語っている。
「これは必要な犠牲だ。そう必要な……。」
涼しく吹き荒れる風は、静かにヘクタを塞ぎ込んだ。
イミヤちゃん……




