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第0章0話【プロローグ?】

0話1話2話どれから読んでもわかるように書いたのでお好きな話数からどうぞ~




「ヘクタはどうしてこの職に就いたんですか?」



 彼女は甲板に立ち、その焦げ茶色をした髪を風に靡かせる。


 物憂げな顔をしているヘクタは、彼の身体と向き合った少女(イミヤ)を見ることはなかった。

 ただただ夜闇が始まろうとしている夕暮れを眺める。



 自然と時が流れ、生暖かい風が肌を拭う様に吹く。彼、ヘクタは、ようやく話す気になったのか、ゆったりと口を開いた。



「…このワーマナに、か?」


「はい。」



 イミヤは、真っ直ぐとした瞳で、けれどそれは優しさも含んだような視線でヘクタの顔をわざわざ覗き込んだ。


 その行動にようやっとイミヤの方を向いたヘクタが、再び口を開く。



「さぁてな。そんな前のこと覚えてないよ。なるようになった、ただそれだけだ。」


「ーー覚えて…ない、ですか。」



 そう答えるとイミヤは不服そうな声色で噛み締めるように下を向いた。


 どうしようもない懸案(けんあん)が、小さな身を押し潰してしまうかのように寄せられる。それでも彼女の背を一歩前に進める何かがそこにはあった。

 イミヤを諭すように優しくヘクタは続ける。



「大体このワーマナに入隊するのに理由を持っている奴なんてそういない。孤児にしろ、義務にしろ『それしか道がなかった。』この一言で片が付く。」


「確かにそれは今私たちが抱えている問題です。けど、けれど、今聞いているのはヘクタのっ…」



 『本心です。』とイミヤは言い切れなかった。イミヤは彼の手に触れてよいのか分かないように、彼にこれ以上関わって良いのか分からなくなった。


 気持ちの整理の付かぬまま言葉を交わす事はしたくない。彼とは理知的に対話したい。只々対等に話がしたい。



「…いえ、なんでもありません。失礼します。」



 彼には誰かがいた。彼を作り上げる誰かが確かにいたことはその表情を見れば分かった。


 それでやるせない気持ちになったイミヤは、静かに甲板を降りる。


 雲が入り、影が差し込む。突き抜け続けるその風はヘクタの体を冷やすように進み……。


 虚空を蓬けるヘクタは、いなくなった彼女を見てその確かな記憶を手繰り寄せていた。







↑↑↑






 走る走る走る走る走る。

 どれだけ醜かろうとどれだけ血反吐を吐いても走り続ける。


 奴らから彼女と逃げる為に。



『そこだッ!』



 いくら進もうが、道行く道を障害物に阻まれる。

 善悪など関係なく、そこにある物はただの欲。人の欲求だ。


 そう、欲だ。常に人を動かすものは欲求であり、そこに良し悪しは存在しない。ましてや戦乱の真っ只中に。


 アーテルを込め、追手を蹂躙する。それこそ跡形も残らぬ様に。奴らが死ぬ事を覚える前に。


 華が散る散る散る散る。


 時に圧縮され、分解され、消失され。


 それは等しく奴らに起こる。


 只々人を(あや)める為のアーテル。そのヘクタのアーテルを彼女は痛ましそうに見るだけだった。




 ーーコツリと靴音が鳴る。場にそぐわない異質其の物である音はよく聞こえた。



「おーいたいた。こんな所に対象物発見!さっさと回収しないとねぇ。」



 へらへらと何が可笑しいのか分からない。

 ヘクタは押し悩んでいると、スッと視界を塞ぐものが現れる。彼女はヘクタの前に立ち高々と宣言した。



「この子は貴方達の物じゃないわ。実験材料でもなんでもない。人よ!」


「んんー?しかもおまけ付きときた。これはラッキーラッキー。」



 彼女の話を聞かない奴はさぞ嬉しそうに大きく手を叩く。


 だったらもう奴との会話は必要ない。そう思ったヘクタの行動は早かった。


 黒ずんだアーテルを右に弧を描くように放ち、奴を消し去らんと…。



 …ボワッ



「-少し頭にきたねぇ。-」



 そのアーテルは当たる事なく奴の火によって消え去った。だけど問題ない。だって、彼女と一緒だもの。



「話を聞かないゴミは焼却しないと………。」



 奴の後ろに存在した翠に輝くアーテルが心臓を貫き粉々に破損させた。

 あまりにも呆気ない終わりはまるで彼の旅路を表しているようで……。


 奴は重力に従ってゆったりと崩れる。



「行こう。あいつは死んだよ。」



 ヘクタはそう彼女に呼びかけ、先に進むために背を向ける。



「…ええ。」



 息が詰まるように声を深める。心配事があると言うのだろうか。悩んでいても仕方がないというのに。


 彼女も踵を返そうとしたその時、奴は確かにほくそ笑んだ。





↓↓↓






「あなただけでも生きて…」



 そう彼女は告げる。けれど、何もかもちっぽけなヘクタには彼女の言っている意味が理解できなかった。


 辺りは先の爆発による火薬の臭いが充満し、赤黒い炎が酸素を全て燃やし尽くす程に広がっている。


 彼女の背中には無数の焼け跡が残り、皮膚が(ただ)れ、腹部には大きな穴が空き、内蔵が顔を覗かせている。

 それに伴い、(おびただ)しい量の血が流れ出ていた。

 これらの傷はヘクタを庇う為に出来た傷でもあった。



「くっぅ…こんな所で、置いて行きたくない。まだ、助かるよ。ね?二人で逃げだそうって!一生一緒にいるって言ってたのに…。あの言葉も全て嘘だったの?」



 もう彼女は長くないと眼前の光景が、その虚な瞳が物語っていた。けれど、認めたくなかった。

 零れ落ちる命の形を(すく)うようにヘクタはかき集める。



「いつでも…一緒にいる…よ?これからも…この先も…。だからね?お願い。ヘクタだけでも逃げて。それが私の…最後のお願い。」



 ヘクタは手を震わせる。彼女は生きるべきだと。こんな無力な自分ではなく彼女こそ生きるべきだったとそう思った。なのに、彼女は弱いヘクタを守り続けた。



「……嫌だ。嫌だ。そんな…。」



 失いたくない。やっと理解することができた温もりを。ヘクタは拒絶する。


 そんな聞き分けのないヘクタを彼女は優しく、優しく包み込んだ。



「あぁ、寒い…な。」



 …そして、彼女は右手を自身の頭に覆った。



 パチャ。



 声にならない悲鳴をあげ、全てを血が炎が覆った。




↓↓↓




 この後、私がどうしたのかは覚えてはいない。けれど、彼女の鮮血がヘクタの身体に覆い被さり、アーテルを憎悪したことは今でも体に深く刻まれている。


 この世界は呪われている。


 ヘクタは生きていく上でそう思う。いや、そう思い知らされる。


 才能が有れば支配し、才能がなければ知恵を限界まで使い、這い蹲ってでも生きていく。そんな世界だ。


 この世界には『アーチフル』別名アーテルという術が存在している。そのアーテルにより一瞬にして世界の均衡が瓦解した。


 多くの研究者がアーテルを調べる中、どの研究機関より先んじて研究結果を公表する者が現れ、その性質が露わとなった。アーテルは遺伝子によって変化する。

 その変化は特に女性に対して如実に表れており、個人の才覚によりアーテルの力の幅も左右されるとのことだ。

 しかし、変わって男性は、アーテルを発現させることのできるものはごく少数であり、たとえ発現できたとしてもその力は微々たるものだった。


 そして、そのアーテルは人を亡き者にする事は容易かった。

 アーテルによる身体能力向上により、力の差が圧倒的であり、ありふれた文字による規則だけでは太刀打ちできず、世界に混乱がもたらされた。

 どれほどの人類が犠牲になったのか分かる者はいない。


 そんな中、その格差から生まれる問題をなくすことを目的にし、世界に混乱が再び招かれぬように秩序を守る組織がいつしか誕生した。


 それが世界調和管理組織(GHM)という組織だった。まるで元からそうであったように、彼らは政治や軍事、生産、ありとあらゆるところにまで精通していた。

 そのGHMの拠点は全世界に存在し、その傘下も多い。代表としてよく挙げられるのは第一艦ワーマナだ。ワーマナは重力制御により地表の数m上を浮遊しており、その六角形のブロックを積み重ねたようなものが世界を巡回している。


 GHMによる管理社会の誕生により、世界が安泰になると考えられた。

 しかし、生命としての限られた時間で、不自由というものは人々に不平不満を募らせていくには十分だった。

 いつしか疑問が確信へと変わり…


 ある日、GHM本部前で武力を用いない過去最大の抗議活動が行われた。これ以上生活を縛るな!過去の自由を!と。

 しかし、真偽は不明だが、GHMがその全てを虐殺したと言う。


 あのGHMが罪なき人を惨殺した。

 その噂が人伝に広がり、不安と恐怖により深い混乱が始まる。


 それからだ、サタブラッドと言う対立組織が設立されたのは。



 子が呻き泣く声。どこからともなく聞こえる悲鳴。乾いた鉄が鼻腔を襲い、方向感覚ですら爆煙で虚妄に化す。

 生を享受することさえ許されず、暗雲が立ち込め、ワーマナとサタブラッドの戦火が交えた。


 あの日から再び世界の歯車が狂い出した。安泰は許されないのだと。



 最初に投稿する内容に迷いに迷った結果プロローグという面白みの無い内容になってしまった…。次からようやく物語が始まります。

 因みにこの話の『彼女』はイミヤではありませんのでご注意を。


 それと、この作品は私が私の為に作っている自己満小説なので、人によって好き嫌いが激しそう。個人的には残酷描写が結構好きなので、ぐちゃぐちゃする予定です。

 感情の起伏は唆られる。

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