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司書と少女  作者: 十七二
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#00.06 すき、なんてない

 翌日、少女は昨日と同じ時間に本を抱えてやってきた。流石に二回目ともなれば気づき、彼女へと向いて迎え入れる。彼女は視線が交わったことなど気にしていないみたいに歩いてきた。


「次の本をお願いします」


 無骨で無機質。はきはきとした喋り口調なのに、昨日と全く同じトーンで、今日ばかりは少女らしさよりも不気味さが勝っていた。


「これはどうだったかな?」


 まずはリサーチだと思って聞いてみる。でも、というか、彼女らしい答えが返ってくる。


「読みにくかったです」


 少女に渡した本は、少なくともこの年ごろの子供が理解できないような難解な言葉や概念は出てこない。同い年くらいの少女の苦しくも輝かしい未来を予感させるロマンス小説だ。


 確かに、彼女は印象は年齢とはあまり合致していないところがある。昨日の問答からもちぐはぐな在り方をしていることは十分にわかった。それでも、私はどこかで期待をしていた。物語に触れたことがないから、こんな感性をしているのではないかと。


 少し年上向けだったことは認める。十歳くらいの子が読むのに適しているとされる小説だ。それでも、別段理解には問題がないはずだ。むしろ、彼女は少し大人びている――少し適切ではない表現だ。どちらかと言うと、人間離れしている感覚――から選んだはずだった。


 でも、読みにくい、なんて突き返されては困ったものだ。はっきり言って最後まで読むことができていないのかもしれないと思ってしまう。でも、彼女に限ってそんなことはなかった。


「最後までは読めた?」


「はい」


 では、本を薦めたものの責任として、感想の原因を追究する必要がある。


「でも、読みにくかったんだよね?」


「はい」


「それはどうして?」


「書いてあることは理解できます。でも、なぜこれを書いているのかがわからなかったです」


 正直、この感想には驚かされた。だって、根本的に物語を楽しむための方法が欠落している。彼女が言ったことは、言い換えれば、物語を想像できていないということに等しい。


 そして、そんな彼女は自身に対しては疑問を抱いていない。そして、そんな状態で最後まで読み遂げてしまった。それもまた、私にとっては理解しがたかった。


 物語の面白さの根本は、想像ができるということにある。主人公を想像し、周囲の登場人物を想像し、そして物語の流れを想像する。その一連の流れ、全く別の時間軸で流れるもう一つの架空の世界を思い描くことこそが楽しみであり、読む必要性とも言うべきものだ。でも、彼女にはそれがない。それでいて、最後まで読むことができている。それは私にとって名状しがたかった。


「面白かったかな?」


 試しに聞いてみる。意味がないと知って。


「それは……よくわからないです」


 ああ、やっぱりそうだ。私は少なくともそんな状態で読んでしまった彼女をかわいそうに思った。でも、そんな憐憫を口に出したところで、きっと彼女は理解しないだろう。だから、代わりに大事なことを聞くことにした。


「じゃあ、なぜ最後まで読んだの?」


 そう、これこそが大切。でも、彼女は躊躇なくその答えを出した。他人のような言葉で。


「読むべきだからです」


「読むべきっていうのはどういう意味かな?」


「私はそうしなさいと教えられています」


 ――――。


 なんと、返すべきだろうか、と思ってしまった。私には少なくとも彼女に対して本を薦める権利はないと、そう思い至ってしまった。彼女が優れているからではない。私が至らないからでもない。()()()()()()()()()()()()()()、そんな確信を抱いてしまったのだ。


 私はそれ以降毎日やって来る彼女に対して物語を薦めることはしなくなった。表面的な対応は変えていない。それでいいのだと思う。私はただ、彼女にとって必要なピースを埋めるだけの書物を与える。私には彼女の中に新たな枠を生み出すことはできないと、悟ってしまったから。


 そのうちに一度に借りていく量は増えていった。一冊は二冊になり、二冊は三冊になり、十冊を越えるまでに時間はかからなかった。けれど、彼女は持ち運ぶときでさえ苦慮することはなく、そして当たり前のように翌日にはすべてを読んで返却をした。私は絶えず同じ時間にやって来る彼女の対応だけを繰り

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