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追い出されました!

5/28の連続投稿の最終話です!よろしくお願いします!

そこから、何かが、おかしくなった。

サシバナさんは、どんどん前に出るようになった。それこそ、トゲモリさんよりも前に。

そして、けがを厭わなくなったように感じた。


どれだけ傷ができようとも、最後に勝てればいいんだって感じで。


そして、その傷の治療を私に頼むようになってきた。

簡単な傷は、勿論私やクサリネさんの魔法で治癒ができるので、致命傷を頼んできた。

ゴブリンロードに腹を貫かれたのだとか、トレントに猛毒を吸わされたとか。

ちゃんと討伐はするのだが、なるべく傷を負わないように立ち回る私たちと違って、サシバナさんは、まっすぐ敵に突っ込んで行く。

それこそ、皆の制止が間に合わないほどに。

そのたびに、クサリネさんと、トゲモリさんは


「もう、いい加減にして!あなたが傷を負う度、ルエはもっとつらいことになってるの!」

「もっと、傷を負わない戦い方をしろ!そんな戦い方じゃ、いつか身を亡ぼすぞ!」


とサシバナさんを怒る。

しかし、サシバナさんは、いつも


「大丈夫、大丈夫。次は気を付けるよ!」


と言う。だから、私も、


「次は守るって言ってるから、大丈夫ですよ!」


とサシバナさんを庇う。


「大丈夫、ちゃんとわかってくれます」


私がそういうと、二人は、何も言えないみたいで、「それじゃ、先に行こうか」

と、話を切り替えるようにするのが常だ。


そして、私の状況も、だんだん変わってきた。

最初の治療をした後は、肉体年齢が、25歳ぐらい。

つまり、ベテラン冒険に片足を突っ込むような年齢だったからか、動きは非常に良くなった。

だから私が、


「こんなにも早くベテランみたいになれるなんて嬉しいです!」


というと、皆、笑顔を浮かべ


「そうね、良かった」

「よし、ここから取り返していくぞ!」


と、元気に言っていた。

しかし、傷の治療を行う度、だんだんおかしいところが増えていった。


まず、剣が重たくなった。

いままで、軽々と振り回せていたはずの剣が今では、振り回される始末。

なので、魔法を主体に戦うようになった。


そして、ダンジョンの探索中に息切れるようになった。

皆にお願いして、少し、探索中に休憩をはさむようにした。

でも、サシバナさんは、早く行きたいみたいで、ちょっとしたら、「大丈夫か?」

と聞いてくる。みんなに迷惑をかけたくないので、「大丈夫です、行きましょう!」

と言って、出発するようにしている。


また、目が見えにくくなり、皆の声も遠くなった。

だから、指示が聞こえなくて、一歩遅れてしまったり。

皆に迷惑をかけることの方が多くなっていくのを感じた。


だけど、私が失敗するのを見るたび、トゲモリさんとクサリネさんはフォローをしてくれた。

「大丈夫!もっといい方法を考えましょう!」とか

「気にしなくていい!慣れるまでいくらでも練習してくれ!」

と言ってくれる。



そうして二週間が経過した。


私の残り寿命は後三年というところまで来てしまって、体も思うようには動かなかった。


でも、そんな私に、トゲモリさんとクサリネさんは、優しく接してくれる。

私は、もはや、戦うことすらできず、ただ宿屋で寝ていることしかできないのに。


そんな時、サシバナさんが訪ねてきた。横には聖職者の格好をした男の人を連れている。


「ルエ。申し訳ないが、もう戦う能力のない君をここに置いておくわけにはいかないんだ」


聞けば、隣の人は新しい仲間で、専門職のヒーラーらしい。


「すまないのだが、このお金だけをもって、ここから出て行ってもらえないだろうか」


私は袋の中身を見る。

どう考えても、一日、宿に泊まるにも困る額だ。


「そ、そんな!これじゃ足りません!もっと……」

「無理だ。これは君が討伐で貢献した分の報酬から、君が宿屋で寝たきりだった時の世話代を抜いた残りしか入っていない。これが正しい報酬だ」

「そんな……」


サシバナさんは、冷たい目で私を見てくる。


「君は、魔法を僕にぶつけたり、危うく剣を当てそうになったり。老いを言い訳にせず、もっと努力を惜しまず頑張るべきだったね」


努力?いや、そんなものでどうにかなることでは……。


「そんなの、努力で何とかなる域をこえてます!どうか考え直して……」

「悪いが、決まったことだ。申し訳ないけど、手荒いことはしたくない。おとなしくここを出て行ってくれるね?」


サシバナさんはあの時と同じ優しい声色で、しかし、何も反論は許すまいという冷たい視線をもって、私を宿から追い出した。



トボトボと街道を歩く私。

これから、どうして行けばいいのかもわからない。

そんな中、かすれ声で「なーん」という鳴き声が聞こえてきた。

声のした方を見ると、路地裏で、小さな生き物がうずくまっている。


よろよろとその生き物に近づくと、どうやら猫だったようで、全身傷だらけで息も絶え絶えだ。

私は、あの時のサシバナさんを思い出す。


思えばきっと、あれがこの結末のきっかけに違いなかったのだろう。

だけど、助けて後悔したとは思ってはいない。助けなければ、私はもっと後悔しただろう。

だから、私は今ある寿命をすべて使って、この猫に視線を合わせる。


「時間遡行」


私がそう唱えると、猫の体から傷が消え去り、元気な声で、「なーん!」と鳴いた。


良かった、と思う間もなく、意識が遠くなっていく。

体はいうことを聞かず、そのまま地面に倒れこむ。

心の中で、きっとこれは私に対する天罰だ。と思う。

あの優しい両親は、きっとこのことを恐れていたのだ。

あの時、私が家出をしなければ、こんなことにはならなかったのかな?

涙を出そうとしても、体は言うことを聞かない。

もうそんな事後悔したって、後の祭り。

——お父さん、お母さん。ごめんね。

今の私は、こんなおばあちゃんになっちゃって。きっと二人が見ても、私の事わからないよね。


「もう一度、やり直せる、なら……」


——今度はもっと、落ち着いて動きたい。

そう思いながら、私は、意識を手放したのだった。



——私の頭の上には『-100』という数字が、静かに表示されていた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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