絶望の輪舞
三人称視点です。
ルエが力なく倒れていく。
突然消えたルエは私たちが何が起こっているのかを理解する前に心臓を腕で貫かれ、倒れた。
倒れたルエの体からは、どんどん血だまりが広がっていく。
……嘘、信じられません……。
ムーファはまさに瞬きの間に起こってしまった悲劇に呆然とするしかなかった。
「ムーファさん!」
ビンチがムーファに一喝する。
ムーファはハッとして戦闘態勢を維持する。
——このまま為すすべなくやられてしまったら、ルエに申し訳ないです!
「バター!手伝ってください!」
「あいよ!」
ムーファとバターは呪文を唱える。
ビンチは弓をつがえながら駆け回る。
駆け回りながらビンチが放った矢は女性に向かって飛んでいく。
女性は躱しながらビンチに迫る。
ビンチは武器を素早く刀に切り替えて、女性の一撃を防ぐ。
「ムーファさん!バターさん!今です!」
「わかりました!」
ムーファとバターは全力の氷柱をぶつけ、なるべく女性からルエから距離を取るようにさせる。
ルエを傷つけるのは忍びないからだ。
ある程度距離をはなすと、ムーファは更なる詠唱を始める。
ビンチはそれをサポートするように巧みに武器を切り替えつつ女性を抑え込む。
「あぁ!もう!」
女性はビンチの猛攻に煩わしく感じて、思い切りビンチを吹き飛ばす。
「今です!ムーファさん!」
その瞬間。女性は凍り付いた。
全く身動きが取れなくなるように、どんどん氷の大きさは増していく。
そして、部屋の一部がまるで氷河期のように天井まで氷に包まれたころ、ようやく魔法は止まった。
ムーファは肩で息をしている。
「今度こそ、やりましたか?」
「動きは、ないみたいですね……」
二人は、警戒しながらも、武器をしまう。
すると、かすかに泣き声が聞こえてくる。
二人が声のする方を向くと、「姉様……」と涙を流すルーの姿が。
そこには血を流し、もはや蘇生は絶望的なルエの姿があった。
ビンチとムーファ、そしてダーミラとバターはルエの元に駆け寄る。
もうルエは息をしておらず、ただ、ルーがルエの上で流す涙のみが、ルエの体を温めている。
「ルエ……」
もう、どうしようも無いのだろうか?
ルエの持っている能力があれば、私の命に代えてでもルエを助けたい。
ムーファはそんな思いを抱きながらも何もできない自分が嫌になっている。
「ダーミラさん。私に力を授けてくれることはできないんですか?」
そんな中、ビンチはルエに力を与えたというダーミラに助けを求める。
「それは無理だよ……。だってそもそも、ルエお姉ちゃんにギフトを与えたのも特例でできたんだし……。これ以上の干渉は、他の神様を怒らせることになる。
下手をしたら僕たちどころか、世界そのものに迷惑をかけることになっちゃう」
「そうですか……」
誰もが絶望的な感情を持ち、落ち込む中、その中でも一際悲しみを抱いている人物がいた。
そう、ルーである。
彼は、家族に内緒で家を飛び出し、姉に会いに来た。
しかし、其のせいで彼女は命を落とすことになってしまった。
自責の念は強まるばかりである。
さらに帰ったら、家族になんといえばいいのか。
ただでさえ心労がたたっている父に、このことを伝えたら、本格的に精神を病んでしまうかもしれない。
少年にできることは、ただひたすらに姉の上で涙を流すことだけであった。
その時だった。
ダンジョン内で、地響きが発生する。
ムーファとビンチは、驚き、警戒態勢に入る。
できる事なら、この子を、ルエの弟を無事に家に送り届けたい。
それが、今の二人にできる、ルエへの恩返しであった。
しかし、そんな守りたいという思いを裏切るかのように、強くなっていく地震。
ダンジョン内でこんなこと、いまだかつてあっただろうか?
二人は顔を見合わせて、はっとして氷柱の方を振り返る。
その時。
氷柱にひびが入った。
——このぐらいで倒せるなんて、甘い考えだったんだ。
二人は自分の油断をかみしめる。
しかし、今は後悔よりも、目の前の敵である。
二人の前にそびえ立つ氷柱は、今や半壊しかけている。
——来るっ!!
ムーファがそう感じた瞬間に、氷柱は粉々に砕け散る。
「あぁ~死んじゃうかと思ったわ、ちょっとね」
女性は妖絶な笑みを浮かべ、唇をひとなめする。
「それにしても、こんな単純なことに気が付かないなんて、馬鹿ね、私も」
——何を言っているのか?
二人が疑問に感じたその時。
ルエとの間を遮るように女性が出現。
ビンチは咄嗟にルーを庇う。
女性は一瞬のうちに全員を弾き飛ばしてしまった。
女性の傍には、ルエが転がっている。
「さぁ、この子の事、傷つけたくないんでしょ?今ならその子の身一つで見逃してやってもいいわよ」
女性が指さす先にはルーが。
「そんな事、許すわけがないでしょう!?」
ビンチは絶叫にも近い声で返す。
「あら残念。まぁ、だったらだったで全員叩き潰すだけよ」
女性は、全身に力を籠め始める。
ビンチもムーファも、咄嗟にルーを庇ってほぼほぼ満身創痍であった。
あぁ。これで万策尽きたか……。
そう思ってうつむいた、一瞬のうちの出来事だった。
「あぁぁあ!??!」
女性の絶叫がフロア中に響き渡る。
皆、顔をあげて、涙をこぼした。
「ルエ!」
「ルエさん!」
「姉様!」
「ルエお姉ちゃん!」
女性は胸を貫かれ、膝をついて倒れ込む。
「ほら、よく言う事じゃん。人にされたことは、自分もされる覚悟をしなさいってね」
ここに、ルエが復活した。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!