飛び込みました!
私はダンジョンの前に到着する。
……様子がおかしい。
なんて言葉にすればいいのかわからないけど、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
遅れてやってきた二人も、その雰囲気に圧倒されている。
「いつもと違います……」
すると、ダーミラが驚いた様子で飛び出してきた。
「魔王!?」
……魔王って、あの時ダーミラが話していた?
あのやばい犯罪者?
「つまり、この異様な雰囲気は魔王によるものってこと?」
「……うん、そうみたい」
私は、魔王の話を聞いていない二人にも説明する。
すると、ビンチが思い当たる節があったようで、
「歴史上に何回か登場する厄災の事ですね」
とダーミラに尋ねる。
厄災、と聞いて、私は当主訓練の講義の中でそんな話があったことを思い出す。
……数百年に一度、現れて、人類を滅亡の危機に陥れる魔物の一種、ということは聞いている。人間の形を模していて、国を数個亡ぼした時点で眠りにつくらしい。
「そう。この世界では、そんな呼び方で呼ばれている奴だね」
「……っ!」
そう聞いて、ビンチもムーファも一歩下がってしまう。
何百年もの間、殺されなかった伝説の怪物だ。
委縮してしまうのももっともだと私は思う。
……でも!
私はひるまず自分の足を一歩ダンジョンへと踏み進めた。
——今、お父さんはお母さんのことで手がいっぱいだ。当然、ルーの事に気づいているかもわからない。
——そして、世界の危機であるとしても、ここに軍隊がくるまでにどれくらいかかるかわからない。
つまり、ルーを助けるには、今、私が行くしかないという事だ。
……たとえ一人でも。
そう思っていると、そんな私の姿を見たムーファとビンチが、その下げた足を戻し、さらに一歩前に進んで私に並んできた。
「今こそ、恩返しの時です!」
「えぇ、こんなオーラごときで一歩引いている場合ではないですよね!」
二人の目には、覚悟が見えた。
「ダーミラ。魔王って、今ダンジョンのどこら辺にいると思う?」
二人の意思をくみ取って、私はダーミラに問う。
「まぁ、魔王の事だ。おそらくはもうすでに一番奥で何かしらの儀式の準備をしているんだろう。なにせ、子供は上質な生贄だからな」
——じゃあ、より一刻を争う事態だって事じゃん!
「二人とも、覚悟はいい?捕まって!」
そう言って、二人に手を差し出す。
二人はすぐに手を取った。
私は、ダンジョンの移動装置を起動させる。
目標、ダンジョンの最奥。
瞬間、景色はがらっと変化し、薄暗い洞窟へと私たちは足を踏み入れた。
「ねぇ、あれ……」
私は、前に来た時にはなかったものを指さした。
「あぁ、どう考えても怪しいですね」
そこにはどう見てもこの洞窟には不釣り合いなゴテゴテとした感じの扉があった。
きっと、ルーもあの奥にいるんだろう。
「みんな、覚悟はできてる?」
私は、二人の方を見る。
二人は当然と言わんばかりにコクリとうなづく。
しかし、その目に油断はない。
「わかった。じゃあ、開けるね」
私は恐る恐る、しかしそれでも速さを持って、その扉をあけ放った。
そこには、魔法陣の中央に寝かされているルーと、やや煽情的な服装をしている女性がいた。
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