サルと戦いました!
王様ザルとビンチの戦いが始まる。
ビンチも王様ザルも互いに距離を取って、魔法を唱え始めた。
先に呪文を唱え終わったのはビンチだった。
ビンチは水の球を何発も出現させて撃ちまくる。
球の一発一発のスピードが段違いに早い。
これなら、サルも対応が間に合わないんじゃ……。
そう思ったとき、王様ザルは杖を地面に突き立てた。
その瞬間。
水の球は王様ザルを避けるかのように逸れていく。
「……!」
ビンチは驚きながらも、次は炎の球、土の球を撃ち出す。
しかし、そちらも明後日の方向へと消えていく。
魔法がダメだと悟ったビンチは、次に矢を弓につがえて放とうとする。
しかし、そこで王様ザルの詠唱が終わり、魔法が飛んでくる。
流石の詠唱時間、100は下らない魔法の矢が次々とビンチに飛んでくる。
最初は一本一本躱していたビンチだったが、飛んでくる矢の数はどんどん増すばかり。
ビンチは弓を収納し、今度は反りの大きな剣と小さな盾を取り出した。
その武器を持った瞬間、ビンチは迫りくる矢を手に持った小さな盾で器用に受け流したり、剣で真っ二つに切り裂いたり、とにかくすさまじい勢いでやってくる矢を丁寧に処理していく。
それはまるで曲芸のように人を魅せ、そして狩人のように正確な動きだった。
やってきた魔法の矢をすべてさばくと、次は王様ザル本人を狙って走り出す。
……魔法特化だったら、近接戦には対応できないはず。
「いっけー!ビンチ!」
私は熱のこもった応援をする。というか、それしかできない。
ビンチは、一歩ごとにどんどん自身のスピードを上げ、激流のごとき勢いで王様ザルに迫る。
このまま勝負が決してしまうかと思った次の瞬間。
王様ザルは、間近まで迫ったビンチに、今まで手に持ってはいなかったはずの剣を振り下ろす。
ビンチは意表を突かれたが、すんでの所で盾を用いて攻撃を流し、後ろに跳んだ。
「あれは、魔力剣……?」
ムーファがつぶやく。
「魔力剣って何?」
私がムーファに詳細を聞くと、ムーファは恐る恐る答える。
「以前、剣聖の話を聞いたことがありまして。剣聖は、自身の魔力の形を変えられる技術を身に着け、それ以降、自身の魔力で剣を生み出し戦っていたと」
「そんな技術をあんな太ったサルが持っているってこと!?」
「そうですね……」
王様ザルは、大きな剣を振り回して暴れている。ビンチは、綺麗にサルの剣をさばきながら。考えに耽っている様子である。
「頑張れー!ビンチ―!」
私がそう叫ぶと、ビンチは王様ザルが剣を大きく振り上げたタイミングに合わせて武器を交換した。
こんどは、長い槍だ。
なるほど……。
剣と槍では、槍の方が有利なのは、痛いほど身に染みている私は、ビンチの武器チョイスにうなづく。
ビンチは剣を振り回す王様ザルを、槍を用いて器用にさばいていく。
しかし、そこは人とは地力が全く持って異なる王様ザル。
凄まじいパワーで槍を押し込める。
そしてこのタイミングで王様ザルは剣をぶん回す。
流石にこれは受け流せないと感じたビンチは、強制的に距離を離される結果に。
そうすると、再び呪文を唱え、今度は十発程度の魔法の矢を出現させてはなってくる王様ザル。
しかも、王様ザルは、断続的に詠唱し続けており、途切れることのない魔法の矢がビンチを襲う。
ビンチは最初は躱し続けることを選択したが、このままではらちがあかないと思ったのか、すぐに武器をチェンジする。
今度は小さな探検。手に持つところが輪っかになっていて、そこにひし形の刃の部分がくっついている。
……あれは、確か、苦無っていう武器だったような……
幼いころに武器図鑑で見たことがあったが、実際に使われているのを見るのは初めてだ。
ビンチは軽い得物で瞬発力をあげて、矢の中へ突っ込んでいく。
あぁ、大丈夫か!?と思ったのも一瞬で、ビンチはギリギリのところで矢を躱し、どんどん王様ザルの元へ。
しかし、そこはやはり王様ザル。再び魔力剣を作り出して振り下ろそうとしてくる。
ビンチはそこまで予想していたようで、手に持っていた苦無を投げ、相手の真上に跳ぶ。
王様ザルは苦無の処理で一瞬ビンチから目をそらしてしまったが、すぐにビンチが自分の頭上にいることを理解して、真上を見て手に持った剣で突きを放とうとした。
しかし、真上にいるビンチの得物を見て、慌てて防御態勢を取る王様ザル。
ビンチは収納からこれまた馬鹿でかい大斧を取り出して、振り下ろしていたのだ。
王様ザルは剣を両手で支えて、何とか耐えようと構える。
瞬間。大きな火花が散る。
ここで押し切ればビンチの勝ち。ここで抑えきれば王様ザルの勝ち。
両者の力強い激突は、最初、拮抗しているように見えた。
しかし、上からくる攻撃は、その重みも相まって、とてつもない威力だった。
ビンチの大斧は、王様ザルの剣を叩き折り、そのまま王様ザルを一息に終わらせた。
倒れ込む王様ザル。
シーンとなる島。
次の瞬間。
爆発的な歓声が島中に響き渡る。
そして、大量のサルがビンチに集まってきたかと思うと、ビンチの頭に冠をかぶせ、ビンチを胴上げしている。
「勝者こそすべて、みたいな感じだね」
私はそう言って、とりあえず、歓声が静まるのを待っていた。
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