腹ごしらえしました!
「なるほど」と私は答えた。
確かに、管理人の先に階段があるなんて、まるで管理人が階段を守ってるみたいだ。
ただでさえ強い管理人に、挑むやつはいない。
私たちは、道を戻り、空白となっている場所へ続く道へと歩を進める。
そんな中、ぐぅ~!という音が鳴り響く。
「……すみません」
恥ずかしそうにムーファは謝る。
ビンチは静かに微笑んで、
「大丈夫ですよ。じゃあ、管理人のところに行く前に、腹ごしらえでもしましょうか」
そう告げるビンチは収納をあさる。
「まぁでも、ついに私たちの分の食料、尽きちゃったもんね……」
私たちの収納にはもう、食べるものは残ってない。片道でほぼほぼ使い切ってしまったのだ。
しかも休まず歩いて。
もう、層の攻略に限界を感じている。
——ビンチがいなかったら、いったい誰がここで安定した探索をできたのだろう?
「よいしょっと」
そんな目でビンチを見ていると、ビンチはひょいと収納の中から台所を取り出した。
……比喩なんかではない。文字通りの台所だ。
水回りと、コンロがついており、横には調理道具もいくつかかけられている。
「は?」
私とムーファが呆然としていると、
「いや、ようやく出番が来てよかったですよ」
とほほ笑んだ。
そして私たちが驚く間もなく、今度は肉や魚を取り出した。
そして、私に手渡した。
「すみません。時間を戻すやつをお願いします」
「え?」
私が突然渡された生鮮食品に困惑していると、
「……すみません。もしかして、時間を戻したりとかって、無理ですか?だったらほかのメニューに切り替えるんですけど……」
「え、いや、できるけど……」
そう言うと、ムーファはがしっと手をつかんできた。
「ルエ!お願いします!ダンジョンの中で肉!ダンジョンの中で肉!」
私は、ムーファがいつ食いしん坊キャラに変貌してしまったのかのにも不思議を感じつつ、
まぁ確かに保存食よりは……と食材を腐る前に戻す。
若干年を取ったが、気にならないレベルなのでスルー。
「ありがとうございます!大変に助かりました!」
そう言って食材を受け取るビンチ。
ビンチはそのまま流れるような作業で料理を作っていく。
「……あれ、できる?」
「私には絶対無理ですね」
そう二人で話していると、あっという間に料理が出来上がる。
「はい。召し上がってください」
皿の上には、これでもか、というぐらい肉と魚ががっつりと盛り付けられており、その匂いが食欲をそそる。
「じゃあ、お言葉に甘えて。いただきます!」
口の中に入れた肉は噛むと、肉汁を出し、それがソースと会うのなんのって!
魚も、きちんと骨が取り除かれて、ぱくっといくと舌の上で身がほどけるのだ。
私もムーファもたくさん食べまくった。
ビンチも、その横でちゃっかりパクパク食べる。
ようやく私のお腹が満足すると、ビンチは収納から何かを取り出す。
「ルエさん、これもお願いできますか?」
見たところ、ただの液体だった。
「わかった」
まぁ、どうせ食べるの私だし、と思いながら時間を戻す。
すると、だんだん液体が固まってきて、固形物になる。それと共にひんやりとした冷気も発生する。
——こ、これは……
「アイス!?」
これってなかなかに高級な店じゃなきゃ食べられないっていう、あの!?
ビンチは笑って言う。
「まぁ、高級な理由って、ずっと冷やしておかなきゃいけないからですからね。ある程度魔力のある魔導士なら割と簡単に作れますよ」
私はムーファとビンチにも時間を戻した皿を分けると、一口アイスを口に入れる。
ダンジョンの中でアイス。
ちょっとした特別感。
口の中で一瞬で溶け、甘みが口の中に広がっていく。
「いや、凄いね……ここまで準備しているなんて」
私がそう言うと、ビンチは手をひらひらとして否定する。
「なんでも収納に入れて、使えるときに使ってるだけだよ」
「それでもだよ!……てか、私がこれできなかったらどうするつもりだったの?」
「それは、保存食もたくさんありますから。そっちでご飯作って、腐るやつは今後の罠に使うか、畑の肥料にしますよ」
「畑?」
そう私が聞くと、ビンチは収納を探って何やらでっかい囲いを取り出す。
その中には、大量の土と草花が。
「ほら、これの肥料にするんです。肥料を作るのにも、混ぜてしまっとけばいいわけですし」
「はぁ……」
なんかすごすぎて、言葉が出てこない。
「そういえば、ルエさん能力の代償って……」
そう言って私をじっと見る。
「まぁ、そんなに年取ってないかな。今25歳ぐらいかな」
「いや、結構歳いってますよね!?」
そう言って、ムーファはじっと私の顔を見る。
「何?どうしたの?」
「いや、ルエって成長したら、こんなになるんだなって思ったら私、どうなるんだろうなって思いまして」
「まぁ、どうなるかというのは、楽しみに待つのが吉だと思いますよ。……そろそろ行きましょうか」
ビンチが立ち上がったので、私たちも立ち上がる。
「そうだね。ささっと撃破しちゃおう!」
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