誘拐犯を追い詰めました!
「よかった!無事で……」
ビンチはぎゅっと私と妹さんをぎゅっと抱きしめる。
本当に心配していたようで、すこしずつ抱きしめる力が強くなっていく。
それに耐えきれなくなった妹さんが、ビンチを本気でトントン叩く。
「いたいよ~お兄ちゃん!」
「あぁっと!ごめん!」
ビンチは慌てて抱きしめるのをやめ、あたあたと焦っている。
そして、「ケガは無いですか!?」と妹さんの体を隅々まで確認している。
「もう!わたしはだいじょうぶだってば!」と妹さんはビンチを振り払う。
「そっか、良かった……」とビンチはほっとしているみたいだ。
そして、妹さんの安全がしっかりと確認出来たら、今度は周囲に向かって呼びかけた。
「ケガのある方はいますか?私が治療します!」
ビンチさんがあたりを見回して、けが人を探すと、先ほどパンを配ってた男の子がビンチに近づいてきて、
「大丈夫です。ここにいる子供たちは手荒なことをまだされてはいません」
と報告する。
「それはよかったです。じゃあ、ここから脱出をしますが、どうしましょうか……?」
どうやらノープランで来た模様。私はビンチの目の前までとことこと歩く。
それは、見極めるためでもある。
「ねぇ、どうしてここが分かったの?」
そう聞くと、ビンチは私の服についていた複数の道具を取って、私に見せる。
「ほら、これです。これは、みんな君の事を見つけてくれるように私がつけた道具なんですよ」
「道具?」
「うん。これのおかげで君を見つけられましたよ」
ビンチは小声で、「まぁ、魔力探知用の魔道具とかは使えませんでしたし、念のために付けておいた、超音波の魔道具がうまくヒットしてくれたおかげなんですがね……」とつぶやいた。
「それじゃ、ここから逃げましょうか。えっと、ロープで来た道を戻ればいいですかね……」
「まって!」
「ん?どうしたの?」
なんて言っていいかはわからないけど、ある程度、ビンチを信頼してもよさそう。
私は、そう判断した。少なくとも、家族思いのいい人だ。
「ビンチ!たんにこどもをつれてにげるだけなのはあぶないと思う」
「?どういうこと?」
ビンチは突然見知らぬ子供に行動を止められ、?マークが浮かんでる。
——まぁ、確かにそうだろう。
私は、ちょっと頬をあげ、すぐに戻す。
「ゆうかいはんは、わたしたちがかんちできない方法でとつぜんあらわれる。
だから、そっちからたいしょするのがせんけつ。そうじゃなきゃ、またさらわれちゃう」
「なるほど、君の言っている事はわかりました。でも、凄いですね。ここまで考えられるなんて、おいくつですか?」
「15」
「はい?」
「15さい」
「え?」
ビンチは目を白黒させている。どう考えても見た目と年齢があっていない。
確かに、見た目より若い人はいるが、どう考えてもこれは異常だと思う。
「ほら、わたしだよ、ルエ!」
「え?」
私は、ビンチに自分が能力で若返ってることだけを簡潔に伝える。
「はぁ……、何となく事情は把握しました」
ビンチはうんうんとうなづく。
「それでは、誘拐犯をまず無力化させますか」
そう言って、鉄格子を一部粉砕し、私とビンチは外に出た。
「うん、でもわたしたちがここにいるのがバレるといけないから」
そう言って私は鉄格子に空いた穴を見て時間遡行を掛ける。
その反動で、一気に10歳程度まで成長する。
「なるほど。便利ですね」
「まぁ、少し使い勝手は悪いけど」
「すごーい!ちっちゃい子が、お姉ちゃんになっちゃった!」
妹さんも、周りの子たちもびっくりしている。
「いい子で待っててね。すぐに家族のもとに返してあげるから」
「わかった!」
私たち二人は、静かに、そして急いで行動開始した。
暗い洞窟を音もなくかける私たち二人。
「凄いですね、足音一つ出さないとは」
「それを言うならこっちの方。私は勉強できる環境だったから。ビンチはどこで習ったの?」
「独学です!」
そう言って私たちは一回りジャンプする。
足元に大きな穴があったからだ。
結構仕掛けは多い。でも、こういう事に関して、誘拐犯は素人らしく、私でもなんとか引っ掛からずに進めている。
「犯人の目的は、いったい何なんでしょうね?」
「さぁ。でも、人さらいの能力だけはほんと、一流だね!」
「確かに。私も結構索敵は上手なんですが、感知できずにルエさんがさらわれましたよ!」
そう言っているうちに、階段を見つけた。
私たちは、この先に犯人がいることを確信して上る。
上った先には、何やら巨大な魔法陣とたくさんの書物がおかれた部屋に出てきた。
その部屋の奥の方には、扉があり、そこから物音がしている。
私とビンチは互いを見てうなづきあい、ドアに一瞬で迫ってドアを打ち倒す。
「おわぁ!?」
そこには、さっき私をさらった男が、ふんぞり返って座っていた。手には何やら怪しい魔道具を持っている。
「何もんだ?テメエら?」
「お前をとらえに来た冒険者です!」
「さぁ、無駄な抵抗はやめて、おとなしく投降しなさい!」
男は、最初びっくりした表情をしていたが、徐々にその表情を笑みに変えた。
「はっ!優男一人に子供一人。お前らに何ができるんだよ!それに俺にはこれがある……!」
男はそう言って手に持っていた魔道具を発動させる。
その瞬間、男の気配が検知できなくなる。
「どこに行った?」
きょろきょろとあたりを見回す。しかし、辺りには何もなく、男はまるでその場からいなくなったよう……。
と思った瞬間、後ろから引っ張られる!これはあの時と同じ感覚!
そう思ったときには男は私の首にナイフを突きつけていた。
「ルエさん!」
「おっと、動くな?こいつがどうなってもいいのか?」
「くっ!」
「おとなしく武器を捨ててもらおうか……」
おとなしく持っていた杖を捨てるビンチ。
男の視線は完全にビンチの杖に向いている、今がチャンス!
「時間加速!」
そう叫ぶと、男の持っていたナイフは一瞬で朽ち果ててしまい、私も5歳ぐらいに一気に若返る。
体格が一瞬にして変わってしまったことで、男の拘束が緩む。
「今だっ!」
私は男の腕をつかんで逆上がりし、その勢いで男の頭に思いっきり蹴りを食らわせる。
「があっ!」
男はそのまま自分の座っていた机まで飛ばされ、激突した。
壊れた机から木くずが飛び、辺りは静かになる。
「よくもやってくれたなぁ……?」
男はギリギリのところで意識を保ち、何かを拾い上げた。
「これは、キマイラを檻から出すボタンだ……。子供たちはただじゃすまないだろうな……」
あ!?まずい!そう思って手を伸ばすが、時すでに遅し。
男はボタンを押してしまった。
そのまま男は気を失う。
私たちは男の手から魔道具を回収した。
「どうしましょう!早く戻らないと、妹が、レナがっ!」
ビンチは今までにないほど焦っている。
これは、あれを使うしかない!
しかし、今の年齢だと数十秒も持たない。
私は、ビンチの肩を叩く。
「ねぇ!?、今壊れてて、修理したいものってある!?」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!