家出しました!
馬車の中の雰囲気が暗い。
あの紙を見せてから、馬車の中は、まるで誰かが亡くなったかのような雰囲気である。
私とルーは、一向に状況が把握できず、頭に?を浮かべている。
「お父さん、お母さん、大丈夫?」
「……あぁ、大丈夫だ」
「……えぇ、私も大丈夫よ」
どう考えても大丈夫じゃないみたいだが、お父さんもお母さんも黙ったままである。
と、お父さんが、口を開いた。
「ルー。冒険者になりたいか?」
——何を当たり前のことを聞いているのだろう。
「当然、目指すはA級だよ!」
「そうか。………考えな、——いや、家に帰ったら話そう」
「?」
お父さんは、何かを言いかけてたみたいだけど、すぐに口を噤んでしまった。
——まぁ、いいや!
私は、冒険者になったらしたいことを頭の中で書き出しながら、帰路の暇をつぶした。
——その日の夜。
今日は、珍しくお父さんが「早く寝なさい」と言った。
私も、ルーも、素直に聞いて自室のベッドの中にもぐりこんだ。
……眠れない。
いよいよ、明日から少しの間、家で冒険者についての勉強をした後、いよいよ冒険者デビューだ。
冒険者になったら、まず、仲間を見つけたい。
かっこいい人のいるパーティがいいな。
そしたら、この近くのダンジョンへもぐって、宝物を見つけ出すのだ。
いずれは、A級のベテランになって、お父さんと、お母さんと、ルーが口をそろえて、「凄い!」と言ってくれるような冒険者になるのだ!
——そんなことを考えると、ますます眠れなくなってきた。
少し、廊下でも歩いて気持ちを落ち着かせよう。
そんなことを考えて、私はベッドから出てきて、自室を抜け出した。
凄い家格の高い家だと、夜の間中ずっと警備している人がいるらしいが、うちは男爵家。
警備なんて、家の前に数人いるぐらいだ。
私が、廊下を歩いていると、お父さんの仕事室の中から、声が漏れているのがわかった。
「……ルエ……」
「…………そうね」
聞き取りづらいが、どうやら私の話をしているらしい。
——私の明日以降の冒険者講座についての話し合いかな?
ウキウキが止まらなくなった私は、つい、扉の前で、聞き耳を立ててしまった。
お父さんの仕事室の中では、どうやら、お父さんとお母さんが話をしているらしかった。
「やはり、危険すぎるか……」
「えぇ……」
「ルエは、しばらく外に出さないように、家の衛兵に通達しておこう」
「それがいいと思うけど、でも、やっぱりかわいそうで……」
——あれ?思ってた話と違う?
私を外に出さないってどういう事?
さらに聞き耳を立てると、とんでもないことが聞こえてきた。
「だが、あいつはやると決めたことを突き通す。10年前、ルーを当主にするといったときもあいつは、ごねにごねた。領主の勉強はこれからもしていいということでようやくあいつが納得したんだ。それに何日かかったか覚えているか?」
「もちろん。あの時はルーを生んだばっかりだったけど屋敷中バタバタしてたからよく覚えているわ。一か月でしょ」
「……そうだ。でも、今回は手段を選んでられない。下手したら、家出する可能性もあるからな。だから、幽閉してでも、冒険者になるのをやめさせる」
「ルエは、能力に恵まれすぎてしまったわね……」
「あぁ。何としてでも、うちの外には出さない。あの子のあの能力はみんなが喉から手が出るほど必要とする能力だ。だから……」
……そこから先は、聞いていなかった。
私は、いつの間にか自室に戻っていた。
——家から出さない?私の能力?
分からないことだらけだけど、一つだけわかることがある。
——今、家を出なきゃ、私は冒険者どころか、一生家から出られない。
そんなの、絶対に嫌だ!
私は、急いでクローゼットの中にあった冒険者になった時用に準備していた服と道具を取り出し、部屋を出ようとした。
が、足が止まる。
本当にこれでいいのか。
お父さんとお母さんはなぜ私を幽閉なんてするのか。
数時間前までの、あの優しかったお父さんとお母さんの表情を思い出す。
もしかしたら、夢だったのかもしれない。でも、もし夢じゃなかったら……。
私は部屋にいったん戻り、紙とペンを用意した。
そして紙に「私は冒険者になります ルエ」と書き込むと、机の真ん中に置き、その場を後にした。
家の門をくぐる。
幸い衛兵さんたちは、まだ、何も知らないようで、「ちょっとウキウキして眠れないから散歩してくる」
と言ったら、「まぁ、成人ですし。暗いから気を付けてくださいね!」と笑顔で送り出してくれた。
申し訳なさで心が痛むが、ここは、急いで目的の町まで行くのが先決。
私は、屋敷から離れると、目的地である、ダンジョンのある街に向かって走り出した。
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