成人
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「なーん」
……だんだん意識が遠くなっていく。
きっと、罰が当たったんだろう。
——お父さん、お母さん。ごめんね。
あの日、私が家出なんてしなければ、こんなことにもならなかったのかな?
もうそんなこと後悔したって後の祭り。
今の私は、こんなおばあちゃんになっちゃった。
きっと二人とも、私の事なんてわからないよ。
「もう一度、やり直せる、なら……」
——今度は、もっと落ち着いて行動したいなぁ。
そう思いながら、私は遠くなっていく意識に堪え切れず、そのまま意識を手放した。
——一月前。
馬車に揺られながら、私はお父さん、お母さんと話を弾ませる。
「いよいよ成人ね、ルエ」
「うんっ!」
私はルエ。今年で十五歳になる!
そうなれば、いよいよ成人。
友達の中には、政略結婚で嫁いだり、男の後継ぎがいないから、女当主として実家を繫栄させるっていう野望を抱く子もいる。
でも、私は冒険者になるの!
私の家は、男爵家ではあるけれど、それなりに由緒もある、なんかすごい家。
小さい頃は、この家の当主として、良い領地を築いていこうと思ってたんだけど。
「姉様、かっこいい!」
この子が10年前に生まれてから、ごねるにごねて、ようやく諦めた。
今では、とってもいい選択だったって思ってる。
——だって、こんなにかわいいルーと跡目争いなんてしたくないもん!
「お前もあと五年で成人だ。それまでに、領地経営とは何たるかをきちんと家庭教師に教えてもらいなさい」
「はい!」
ルーは、元気の良い挨拶をした。
お父さんもその返事に、ほっこりと笑顔を浮かべる。
優しい父と母。かわいい弟。
こんな家族に囲まれて、私は幸せ者だと思う。
「ルエ。お前は本当に冒険者でいいのか?お前が望むなら、理想の嫁ぎ先を……」
「もう、あなた。ルエの性格を忘れたの?」
「あぁ、そうだったな、イノシシみたいに目の前の事しか見えてないもんな」
「ルエはきっと大丈夫。きっと、成人の儀もいい能力がもらえるはずだわ」
——成人の儀。
子供が15歳になると、みんなで神殿に集まり、神様から能力を頂くのだ。
その能力は千差万別。
剣なんて握ったこともない少年が、岩を軽々と切れるようになった『剣聖』の能力は有名だ。
たいがい、もらえる能力は、その人の努力や性格を補助したり、秘められた才能を開花させる能力になるらしい。
お父さんは、怪力、お母さんは、計算の能力を授かったと聞いたことがある。
「ルエはどんな能力をもらうのかしら」
「きっと、姉様の能力はイノシシみたいに真っすぐ体当たりをする能力だよ、きっと!」
——おい、ルーよ。
いくら私が猪突猛進だからと言って、それはないんじゃない?
「それは当たってるかもしれないなあ!ハッハッハ!」
ルーの発言に笑い出すお父さん。
「お父さん?」
「あっハイすみません」
私は一言でお父さんを黙らせる。
そうこうしているうちに馬車が止まった。
どうやら教会についたようだ。
教会に入ると、荘厳な雰囲気に思わずため息が漏れる。
そして、自分が成人したという実感がいよいよ湧いてきた。
——いったいどんな能力がもらえるんだろう?
私は、一緒に成人の儀を受ける人たちと一緒に、教会の前の方へと進む。
そこには、神父さんが優しい顔で、待っていた。
「皆さん。成人おめでとうございます。では、成人の儀を行いたいと思います」
そういうと、神父さんは、何かしらの文言を唱え始める。ぶつぶつと数秒間つぶやくと、
「新たな大人に祝福あれ!」
そう言って、両手を天に掲げると、体の奥の方から、ぽかぽかと暖かい何かが全身を駆け巡る。
その何かは、私の体の隅々まで行き渡った後、右目の方に流れ出す。
しばらくすると、ぽかぽかは収まっていた。
「皆さん、お疲れ様です。それでは、最後にこの紙を受け取ってください。
この紙には、あなた方が授かった能力が書かれます。
どうぞ、ご自身の能力を確認してください」
一人一人、紙が渡されていき、ついに私の番になった。
「はい。あなたの人生がより良いものとなりますように」
受け取った紙にはこう書かれていた。
『能力:時間操作の魔眼
代償:老化
対象物の時間を巻き戻せるが、その代償として、老化する。
所持者は自分自身の残りの寿命が見える。
自分自身への利用は、可能だが、時間が戻る以上に老いるだけ。
利用例:けがなどを無かったことにできる。』
……?ナニコレ。
そう考える、私の頭の上には、70という文字が浮かんでいた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!