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俺たちは天使だったかもしれない

「オデ…じゃなかった、ボクの名前は“サァア・アスナフル”。ジォン広告に勤めさせていただいております…えーと、よろしくお願いします!」


__パチパチパチパチ


転生者・パコ太郎が主催する婚活パーティーで一人の青年が自己紹介を終えた。


「素敵ですわ…。」


「初々しくて可愛いですわ…。」


「特にあの仮面がミステリアスですわ…きっとなんらかの権力者の遺児に違いないですわ…。」


女性陣から青年に向けて熱い視線が注がれる。その反応とは裏腹に青年は身体の震えを止めるのに必死だった。


__ひ…ひぃ!



「婚活パーティー…っスか?」


廃雀荘にて。時は四人が心優しきイケメンサイクロプスのオデくんに出会った後まで遡る。


「ああ、あの転生者…パコ太郎ってやつがここ最近頻繁に開いてるらしい。しかも、そのパーティーに参加した女性の中にはその後連絡が取れなくなったって人も何人かいるって話だ。もしかしたらオデくんのいうリョウコさんもその中に…。」


「そんな…。」


「そこで、ここにこの俺が用意した五人分の招待券がある。」


「えっ?」


何やら長時間パソコンをいじっていた佐渡がモニターを見せてくる。そこには確かに五人分の招待券が電子メールで送られてきていた。


「しゃ!でかした、ロン毛!」


「フッ…大したことではない。というかこのパーティー、女として応募する場合は色々聞かれるが男の場合は碌なことを聞かれん。せいぜい参加費が女に比べてバカ高いだけだ。しかし、これはこれできな臭くなってきたぞ。」


「ま、そうと決まれば後はオデくんだ。サイクロプスのままじゃパーティーなんか行けないからな。」


「ちょ…ちょっと待ってくださいっス!」


「どうした?オデくん。…あ、変装のことなら任せときな。大丈夫大丈夫。俺、イケメンの扱いなら得意だから。」


謎の自信を発揮する海野をよそにオデくんは未だ疑念を払拭できないでいた。


「そうじゃなくって…!どうしてそんなにオデに協力してくれるっスか?ただでさえ匿って貰ってるのにこんな…。」


「なんだよ?命の恩人だからって理由だけじゃ不服か?」


「別に俺たち、100%善意で協力しようとしてるわけじゃないんだぜ。」


「だったらなんで…?」


四人が何やらいやらしい笑顔を作る。


「俺たちはただ…成功してる転生者の足を全力で引っ張りたいだけさ。」



「オデくん、いい感じに溶け込めてるな。」


海野が三時間ほどかけて肌の質感などを調整し特徴的な単眼を仮面で隠したサァア・アスナフルことオデくんが恐る恐る着席する。


「三時間待って赤い彗星出てきた時は流石にお前を殴ろうかと思ったけど…意外となんとかなるもんだな。つか、それより心配なのは源ちゃんだよ。」


十文が女性陣の席に座る根鎌に目を向ける。

そこには若い女性に挟まれカッチコッチに固まった根鎌の姿があった。


「可哀想に、さっきフライングで自己紹介してからずっとあの調子だ。」


「あんな見た目だけど中身は童貞のおっさんだからな。」


軽めの歓談が終わり、パーティーは各々自由に行動するフェーズに突入した。会場のあちこちで交流を深める男女をよそに、既に引く手数多なオデくんを除いた四人は集結する。


「ふぅ…しんどかった。」


卓上のフライドチキンを貪りながら疲れ切った根鎌が呟いた。その一方で佐渡が何やら仕切りとあたりを気にしている。


「なんだよ?」


「おかしい…。結婚したときに気を使わなくていいように両親は逝去しているとプロフィールに書いておいたはずだが…誰も話しかけてこんぞ…?」


「お前はそれ以前の問題なんだよ。何だよ、年収1320万の暗黒騎士って。」


「…ったく、考えが甘えな。俺は逆に母親が三人いるとプロフィールに書いたぜ。こうすることで女性はゆりかごから墓場まで安心を感じるんだ。」


「どんな家庭環境だ。」


「あーあー!なんだスケールが小さいな、お前らは。俺はプロフィールにチ◯ポが五本って…。」


「うるせえ!プロフィールだけで戦おうとすんな!お前らそもそも誰一人女の子と会話できてなかっただろうが!」


「それは、はい。」


「そもそも俺たちの目的はあのピンク野郎だろ!何真面目に婚活しようとしてんだよ!……いや全然真面目でもないけど。」


当のパコ太郎と言えば途中から姿を見せなくなっていた。


「あれ?そういえば女の子のほうも何人か減ってない?」


「あ…本当だ。しかも、良家の令嬢とか女系起業家とかいい感じの子ばっか居なくなってやがる!」


「まさか、もう既に…!?」


「こうしちゃいられねえ!オデくんは?」


会場で一番大きな集団を成している群れの中心にオデくんの姿はあった。


「うわっ、めちゃくちゃ居心地悪そう。可哀想。」


「騒ぎになっても困る。オデくんにはあのまま陽動役になってもらうとしよう。」



それから船内をそこらじゅう駆け回った四人は貨物室の前へと辿り着いた。


「…くん、しゅきぃ。」


「あ?今なんか中から声聞こえたぞ。」


「開けてみようぜ。うおら!!」


「源ちゃん、もっと静かに…あっ。」


根鎌の蹴りによって弾け飛んだ扉の先には異様な風景が広がっていた。


「ああ素敵…素敵よ…“多目的キャビネット”くん…!」


「うう…私、“縄文土器”くんのコトが好きすぎてどうかしちゃいそう…!」


「私だけを見てて…”六角レンチ“くん…!」


「“業務用フライヤー” くん…一緒にユーチューバーを目指しましょう…!」


そこにいたのは無機物に身を寄せて続ける女たちの姿だった。


「どうなってやがんだ…!?」

「”必勝祈願だるま“くん…”必勝祈願だるま“くん…しゅきぃ…!」

「…!!?おい!あれ!!」


海野が女の一人を指差す。

それは”だるま“を大事そうに抱えた女だった。


「そこのだるまのお姉さん!…もしかして”リョウコ“さん?」

「え…な、なに?そうですけど…。」

「やっぱり…!通りで人が多いと思った、婚活パーティーで居なくなったって人たちは洗脳かなんかされてここに集められてたんだ…。」

「リョウコさん、オデくんも来てるんだ。早くここからずらかろうぜ。」

「オデくん…?もしかして__”サイ“くん…?」

「あんたを探して、警察にまで追われてたんだ。その上、見つかるリスクを承知で変装してまでこの船に乗り込んでいる。早く会いに行ってやれ。」

「いえ…ダメ!…そんなのっ!」

「ええ…?」

「私はただ…会社や婚活に疲れてサイくんに癒しを求めただけ…!サイくんいい人だからきっと他に相応しい人がいるもん…!私なんかこのだるまくんで充分なの…!単眼だし…!」

「なにを訳のわからんことを…!ええい、こうなればそのだるまにもう片目を書き込んでやれ!」

「ちょ、やめてっ!なんてことするつもりなのっ!!」

「ええと書くもの書くもの…。」


海野がポケットを漁り始める。


「どうやら私のハーレムにネズミが迷い込んだみたいパコねえ…!」


「「げげっ!」」


貨物室の扉の外にはおそらくこの騒動の黒幕であるピンクのシルクハット男・パコ太郎が仁王立ちしていた。


「何がハーレムだ!この野郎!変な能力で婚活女子に特殊性癖を植え付け回りやがって!」


「パーコパコパコ(笑い声)!!いかにも、この状況は私の能力によるもの!だが、一つ間違いがあるパコ!我が能力”パップル“では一人につき一人しかカップルを成立させられないパコ!」


「うわっ、すごい説明してくれる。まだ何も聞いてないのに。」


「…故に!ハーレムを作るにはこうして適当な物体とパップルさせることでキープする必要があるパコ。そして!ハーレム計画を邪魔するやつが出てきた時のために私はとっておきの”女“とパップルしたパコ!!」


『…め………れあ……。』


__ギギギギィ!!


その時、派手な金属音と共に船体が傾き始めた。


「うおおお!?なんだ!?」


「パーコパコパコ!!このまま沈みたくなければデッキに来るがいいパコ!!とうっ!!」


「あ、逃げた。」



「きゃーっ!?何なんですの!?この傾斜角!!?」


「捕まって!早くブリッジに退避してくださいっス!」


異常事態にパーティースタッフもしどろもどろする中、オデくんはただ一人避難誘導をしていた。


「あ!居た!オデくん!!」

「みんな!今までどこに…!?」


パコ太郎を追って広間に戻ってきた四人がオデくんとかち合う。


「んなことより、貨物室だ!そこにリョウコさんが居る!」

「え…!?リョウコがっスか!?」

「ああ、とりあえずヤツのことは任せろ!俺たちで決着をつける!オデくんは愛の力かなんかでリョウコさんを助けてやってくれ!」

「…よくわからないけど、わかったっス!!みんな…ありがとうっス!!」

「おう!頑張れよ!オデくん!」

「はいっス!!」


オデくんと四人、それぞれ分かれるようにして走り出した。



勢いよく階段を駆け上がった四人はデッキに転がり込んだ。

傾きで盛り上がった船の先端にはパコ太郎が立っている。


「パコパコ!まんまと来たパコね!ネズミどもめ!」


「俺だってまんまと来たくはなかったけど、こういう場合追わなきゃ話進まないやつだろ。」


「それに、チート能力を使ってハーレムを作るだ?そんな羨ましいィこと、たとえ神様仏様女神様が許してようが!俺たちが全力で足を引っ張ってやるぜ!」


「「「「うおおおおお!!」」」」


四人がパコ太郎に向かって飛びかかろうとする。


「仕方ないパコね、そこまで私のハーレム計画を邪魔するというのなら…いでよ!我が伴侶!!”究極海洋生物バハムート“!!」


掛け声と共にパコ太郎は海に飛び込んだ。


「何っ!?」


__ゴゴゴゴゴゴゴ!!


「うおっ!?何か召喚したのか!?あいつ!?」

「…違う!船だ!この船の下に何かがいる…!いいや、航行中ずっと何かがいたんだ!」


__めがふれあ!!


「うぉわっ!!?」


船が一気に沈むと同時に目の前に船と同じくらいの大きさを持つ魚影が海面から突き出てきた。


「なんだ!?このクソでかいマグロは!?」

「…聞いたことがある。一般的にバハムートといえばドラゴンの姿が想起されるが、これはRPGなどでつけられたイメージであり、原典では巨大な魚類だったと……!!」

「いや、バハムートの語源に対する掘り下げは今別に要らないかな。」


「如何かな!海洋生物最強の我が伴侶の姿は!!」


バハムートの頭部にパコ太郎は立っていた。


「まぁちょっと美味しそうではある。」


「そういう感想じゃなくて…。」


「へっ!マグロがなんだってんだ!ネギ買ってきてネギトロにしてやんよ!」


「そう言っていられるのも今のうちパコ!やれ!バハムート!」


『う…う……めがふれあ。』


__オロオロオロオロ


バハムートの口部から巨大な糸状の白い物体が大量に放出される。


「うわわ!?何!?キモっ!!」

「クソッ…!コイツらまとわりつく…!」


「パーコパコパコ!それはこのバハムートの体内に住み着く”巨大アニサキス“パコ!」


大量のアニサキスは四人を瞬く間に縛り上げ、十字架と化して磔にした。


「う、動けねえ…!」


「パッコッコ(笑い声)…このままバハムートの餌にしてやってもいいパコが、一ついいことを思いついたパコ。」


「貴様…何をするつもりだ…!?」


__ぐるん!


「「「「え?」」」」


パコ太郎が合図を送ると同時に海野と根鎌、そして十文と佐渡がそれぞれ向き合った。


「お前らには今から目の前の相手とパップルしてもらうパコ。」


「「「「はぁ!?」」」」


その言葉と共に四人はそれぞれ喚きだす。


「おい馬鹿やめろ!!源ちゃんはこう見えて中身が本当にヤベえオッさんなんだぞ!!美少女のガワとかそんなん余裕で貫通するくらいヤベえんだぞ!!」


「なんだとこの野郎!俺だってお前みたいな銭馬鹿こっちからお断りだ!!」


「うおおお!!こんなところで俺の恋愛事情に汚点を付けてたまるかァァァァ!!放せえええええ!!!」


「この俺をここまで追い詰めたのは褒めてやろうだがこれ以上俺を怒らせると地獄を見るのは貴様の方だぞ具体的には住所氏名年齢電話番号をネットに晒すなどには留まらず各種風俗サイトに貴様の名義で登録し最終的には多量のローションの海に沈めてやる恐ろしければ即刻俺だけでも解放し__」


「せーの…パップルゥ〜ッ!!」


パコ太郎の声と共に四人がそれぞれ物理的に引かれ合い始めた。


「「「「ヤメロォォォォ!!!」」」」



同時刻、既に半分以上浸水している貨物室ではオデくんの他パーティーに参列した男性陣達によるパコ太郎被害者の救出作業が始まっていた。


「待って…!私の“サイクロン式掃除機”くんが息してない…!!ダメ!私を置いていかないで!!」

「ねえ誰かお願い…!“珪藻土マット”くん…“珪藻土マット”くんがまだ中にいるの…!!助けて…!お願いだから…!」


貨物室の内部は地獄のような様相を示していたが幸い死亡者は未だ出ていない。


「リョウコ!早く手を取って!!」

「ダメ…!もう私のことは放っておいて!私はこの人と添い遂げるから!!」

そう叫びながら流されるリョウコの両腕にはあのだるまが抱えられていた。

「何を言ってるっスかリョウコ!!オデに言ってくれたことを忘れたっスか!!オデに出会ってまた夢を追いかけることができそうだって!!」

「……!そんなこと…!」

「オデは嬉しかったっス!一族の中でも役立たずって言われ続けたオデが…警察に追われ続けて何もできなかったオデが…初めて誰かの為になれたことが嬉しかったっス!!」


__バコン!!


その時、貨物室の壁に岩が食い込み大きな穴ができた。それに伴って貨物室の海水が強大な渦になりリョウコを飲み込もうとする。


「きゃああああ!!」

「リョウコっ!!!」


間一髪、オデくんはリョウコの身体を捕らえた。しかし、よほど無理な体勢が祟ってか、オデくんの方も渦に引き込まれかけている。


「放して!サイくんも落ちちゃう!」

「ダメっス…!オデはリョウコが見つけてくれたからここまで来れたっス…!オデはそんなリョウコの夢を守れるなら…!うおおおお!!」


オデくんは片手のみの力でリョウコを引き上げた。しかし、その反動でリョウコの腕からだるまが離れてしまう。


「ああっ…!!」


__あれが無いとリョウコがもう笑えないというのなら…!オデは…!!



目を開けるとそこは真っ黒に光る宇宙のような空間だった。


__ん…あれ?なんだ…この謎空間?


__俺、あいつとパップルされたんじゃなかったか?


__どうなってんだ?あいつの意識が流れ込んでくる。なのに俺は何も変わらねえ。


__まさか……そうか、俺たちは元からお互いクソみたいな人生を送ってきたのだ。だったらほぼ同一人物と見てもいいはずだ。


__ああ、クソ同士だいたい同じようなことを考え、感じ、そして垂れ流している。俺たちが惹かれ合おうとそれは自分に自分を重ねているのと同じなんだ。


__そうだ。俺は、俺たちは。


__最初から“一つ”だった。



「パコーッ!!?なんだ!?この光は!?」


パコ太郎が慌ててバハムートの頭にしがみつく。

デッキの上では二つの光と共に強大な風が吹き続けていた。


『ハァーッ!!!』


『うぉりゃーっ!!!』


青白い光を突き破り、周囲のアニサキスを吹き飛ばしながら中から二人の男が姿を現した。


「えっ…?ちょ、ええっ…!?誰…?」


『”海野物郎“と“根鎌源治”で《モゲット》…と言ったところかな。』


『“十文小吉”と“佐渡一”で《トジータ》…でどうだ?』


「………は?ええと…待つパk…いや、ちょっと待って?じゃあ何?お前たち私の能力で融合しちゃったってこと??」


『ただの融合じゃないぜ。マイナスとマイナスを掛け合わせたスーパーフュージョン転生者だ。』


スーパーフュージョン転生者__それはバカとバカが転生者の能力によって化学反応を起こした結果生まれた奇跡の戦士である!


「なんの説明にもなってない!!」


『ガタガタ言ってないで始めようぜ。俺、戦いたくてうずうずしてんだ。』

『カスが…この俺を退屈させるなよ。』


「ていうか、お前らどっちも誰の要素もないだろ!!」


モゲットとトジータ、二人のSF(スーパーフュージョン)転生者がバハムートに向かって飛ぶ…!


「ちょ…!何当たり前のように空飛んでんの!?バハムートォォ!そいつらをやりなさい!!なるべく!早く!!!」


『めが……ぎがふれあ。』


__オロオロオロオロオロオロ


さっきとは比べものにならないほどの巨大アニサキスがSF(スーパーフュージョン)転生者たちに襲いかかる…しかし、そんなものはSF(スーパーフュージョン)転生者たちの敵ではなかった…!


__シュピン!


SF(スーパーフュージョン)転生者はアニサキスに直撃する寸前でバハムートの両サイドに瞬間移動したのだ…!


『たしか…この辺が中トロだったな。』


『オラァ!!』


『ぼふっ…!!?』


SF(スーパーフュージョン)転生者の拳がバハムートの身体を撃ち抜いた…!


『おりゃおりゃおりゃおりゃ!!!』


『オリャオリャオリャオリャ!!!』


__ドドドドドドドドド!!!


間髪入れずに拳のラッシュがバハムートを襲う…!


『破ァッ!!!』


『波ァッ!!!』


さらに正面に回った二人の放つ光線がバハムート直撃した…!


「ちょ、ハァッ!じゃないでしょ!何その謎ビーム!!?」


『………うっ!』


二つの光線を受け、バハムートがとうとう後退する…!


『まだやるつもりか?』


「クソッ…!私はただハーレムを作りたかっただけなのに…!」


『あれがハーレムだと?ハハッ!笑わせるぜ。』


『いいことを教えてやる。ハーレムを夢見ていいのは少年少女の間だけなんだぜ。』


『そりゃ、多くの少年少女が夢破れるだろう。そして、婚活という名の現実との戦いへと身を投じることになる。多かれ少なかれ誰か一人を愛し続けるという覚悟を持ってな。』


『貴様のしたことは単なる拉致監禁じゃねえ。それよりも下衆な…!』


『『__覚悟を踏み躙る行為だ!!!』』



一方、船内。


「……リョウコ…だるまが。」

「バカッ!!……ごめんなさい…でも…サイくんのバカ!」


だるまを救出しようとしたオデくんは今度は逆にリョウコに腕を支えられていた。


「あの時、見つけてもらったのはサイくんだけじゃないよ…私のこともサイくんが見つけてくれたんだよ。恋も仕事も役立たずな私をサイくんが必要としてくれたからもう少し頑張ろうって思えたんだ…。」

「リョウコ…。」

「ごめんなさい…バカな私でごめんなさい……でも、助けに来てくれて嬉しかった……。」



__バチン!!


「ぐわっ!!?なんだこの感覚!?パップルが…パップルが勝手に解除された!?」


バハムートの上に居るパコ太郎が急に頭を抱える。


『やってくれたみたいだな。』


「何だと!?またお前らの仕業か!!?」


『そんなややこしいもんじゃねえ。愛の力ってヤツだ。』


『お前には逆立ちしても理解できんだろうがな。』


「ぐっ!!」


__だがこれでいい…!そうか“解除”か…!お陰で逆転の秘策が思いついた…!


パコ太郎は顔をシルクハットで隠しながらニヤリと笑った。


__とはいえ、この能力は自発的に解除はできない。できるのはあくまで対象の“移し替え”のみだ。だが問題はない。このバハムートには“つがい”になった者を捕食する習性がある。今はこの能力の特権によって捕食衝動は防いでいるが、これを移し替えた場合、バハムートは即座に対象を捕食にかかる。これを利用して奴らをバハムートの餌にすればいい。


__そしてさらに、下準備として奴らにはもう一度パップルをかける。ややこしいがあの二人に、だ。どういうわけか知らんが奴らはパップルによって融合する。おそらく今いるサ……なんとか人っぽい奴らも同様だ。奴らを一人にした後、さらにバハムートにパップルする事が私の勝利条件だ。その為にはまず奴らの顔をお互い向き合わせなければ…!


「“お前らって外見ほぼ同じパコよね。逆に違ってる部分ってどこパコ?”」


『『え?』』


モゲットとトジータはお互いの顔を直視する。


「はい!パップル!!!」


__ギュイイイン!!


パコ太郎の計画通り、二人の身体は引き寄せられ始めた。


『…油断したぜ。』


『小賢しい真似をしやがる。だがいいのか?俺たち四人が一つになればもっと取り返しのつかないことになるぜ?』


「パーコパコパコ!甘いパコ!今までのダメージなんてこの究極海洋生物バハムートにとってはかすり傷ですらないパコ!それどころかバハムートは捕食衝動によってさらに凶暴化するパコ!いくら融合しようと元がお前らみたいなカスならお終いパコ!!」


すっかり元気を取り戻したパコ太郎が高らかに笑う。


__ピキィィィン!!


再び発された光の中から今度は一人の男が現れる。


『『ふーん…その言葉、後悔するんじゃねえぞ。』』


「なっ!?その姿は…!?」


__鬼無太空、それは異世界に伝わる伝説の男。こと婚活においては環境最強と謳われる存在である。


『『ま、俺たち四人のいいとこを取っていけばこのくらいにはなれますし?嫁は静香ですし?』』


「…クハハハ!!バカめ!!そんな姿で何ができる!!くらえ!!パップル!!」


こともあろうかバハムートを真っ直ぐ睨みつけていた鬼無太空にパップルがかけられる。

鬼無太空を“つがい”と認識したバハムートはみるみる凶暴な顔になっていく。


『め…めが…ぎ…ぎが…て…て…てててて…!」


『『へぇー、やっぱキミ、かわ……ちょっと美味しそうじゃん?』』


「……まだ言ってるよ。」


『『まぁでも、その前に。これだけはやっとかないとね。』』


そう言うと鬼無太空は両手を空に広げた。


『『A・M・A・M・I・Y・A!!!』』


その掛け声共に周囲にドーム状のオーラが走る。


「な…なんのつもりだ!そんなコケ脅し通用するものか!!」


__バチバチバチバチ!!


「…いや、違う!?待て!貴様!何をした!!パップルが…!パップルが…消えていく!!」


オーラは既に船全体を包み込んでいた。

鬼無太空の放ったオーラは貨物室で今も物品に心を奪われる女たちのところにまで届き渡った。


「“サイクロン式掃除機”くん…!」

__キラッ⭐︎

「はっ…イケメンの気配…!?」

「この掃除機は私が絶対に修理して見せます。だからどうか泣かないでください。」

「あ…あなたは…?」


「“珪藻土マット”くん…。」

__キラッ⭐︎

「え…イケメンの気配…?」

「よかった!見つかりましたよ!潜った甲斐があった!これでしょう?あなたが探してたものは。」

「は…はっ…!!」


パップルを駆逐したのは他でもない、そこにいる(イケメン)たちの真摯な眼差しだった。


「馬鹿な!!?一瞬にしてパップルが消えただと!?」


『『本物のイケメンってやつはな、他の男たちも“華”をそえちまうもんなんだよ。お前のチンケな能力なんて気にならないくらいにな。ま、幸い?この船には選りすぐりのナイスガイが集まってるみたいですし?』』


「クソッ…こうなったらバハムート!こいつだけでも食い殺せ!!」

『……ふれあ。』

「バハムート…?うおわっ!!!ひーーーっ!!!?」

『『おっと。』』


既に制御を失っていたバハムートから振り落とされるパコ太郎を鬼無太空はスレスレでキャッチする。


『『あーあー、伸びちゃったよ。』』


意識のないパコ太郎はその辺に投げ捨てられた。


『ててててて!てら…!てら…!!』

『『てか、あの娘まだ俺に気があんの?嬉しいんだか面倒くさいんだか…。』』


暴走寸前なバハムートを前に鬼無太空は独特な指の形で両手を横に構えた。


『『ま、純粋に好意を向けて貰えることはありがたいことだし?感謝の気持ちで返してあげましょうか、ってね。』』


バハムートの方も今に裂けそうなほどの巨口を広げる。


『て…てら…てらてらてら…!!』

「マイナスのォ…!」


鬼無太空に海野の幻影が重なり手の中にパティが形成される。


『てらてらてらてら…!!!』

「マイナスのォ……!!」


今度は根鎌の幻影と共にパティにチーズが挟まれた。


『てらてらてらてらてらてら……!!!!』

「マイナスのォ………!!!」


さらに十文の幻影と共にそこにオニオン、ピクルスが追加された。


『てらてらてらてらてらてらてらてら!!!!!』

「マイナスのォ……!!!!」


そして佐渡の幻影と共にそれらがパンズで包み込まれる。


『て…てらふれあ…!!!!』


『『さらにマイナスは無限ッ!!!!!』』


鬼無太空の作り出したダブチ状の巨大な気弾はバハムートの口内に発射された。


『I‘m lovin’it.』


ダブチにかぶりつく形になったバハムートは謎の鳴き声を発してその勢いのまま彼方へ飛ばされていった。



しばらくして、救助よりも先にサングラスをかけた謎の青年が操縦する一艘のボートが座礁した船に駆けつけた。


「警察が来たら面倒だ、オデくんたちはこれに乗って帰るといい。」


ボートと謎の男は海野が手配したものだった。一連の事情を知らされているらしい謎の男は無言で親指を立てている。


「みんな…今まで本当に、ありがとうございました!」


鬼無太空から元の姿に戻っていた四人にオデくんはリョウコと共に深々と頭を下げる。


「けけっ、礼なんてよせやい。」


「そうそう、これからもっと大変になるのはオデくんの方だぜ。」


「フッ、リョウコさんのことそばで守ってやるがいい。」


「ああ、その為に時間かけて自分で変装できるように教えといたんだ。」


「はい……はいっス!」


お互いの姿が見えなくなるまで、オデくんとリョウコは手を振り続けていた。

四人はその姿を最後まで見送る。


「行っちまったな。」


「ああは言ったけど…本当に大丈夫かな、オデくん。ま…大丈夫か。イケメンだし。」


「てか…この船やけに居心地悪くない?」


救助待ちの船の上ではやたらとカップルの姿が目立つ。

イケメンオーラの余波である。


「くっ…はからずしもカップル成立に手を貸してしまったか。」


「…そんなことより、こっからは俺たちの時間だぜ!」


「ああ…そうだ!あいつ!あいつは今どこに!?」


そう言って何やら四人はキョロキョロし始める。


「逃げたぞ!パコ太郎が海へ逃げた!」


船のどこかから声が上がった。


「何ィッ!!?」


「チクショウ!逃してたまるか!!」


四人も続いて海に飛び込む。


「パーコパコパコ!!こう見えて高校時代は水泳部!遠泳は得意パコ!!逃げ切って今度こそ私のハーレムを作ってやるパコ!!」


「うおおおおおお!!待てええええ!!!」


「パコッ!!?」


海面のパコ太郎に向けて魚雷のようなスピードで四人が接近していた。


「ひぃぃっ!?何パコ!?なんのつもりっ!!?」


「うおおおお!俺たちを!!」

「もう一度!!」

「鬼無太空にしろぉぉぉ!!!」


「ちょ…!わかったパコ!わかったから!追うのやめて!!怖いから!!!」


四人の凄まじい形相がパコ太郎を萎縮させる。

一向にスピードを緩めないパコ太郎と四人はそれと気づかず何やら色の濃い海域へと突入する。


濃い色の正体は“魚影”だった。


__ザバーン!


「「「「「え?」」」」」


『め…めがふれあ。』


一同の眼前にバハムートの巨大な口が迫る。


「「「「「ぎゃあああああああああ!!!」」」」」


-終-

四人とオデくん、そしてリョウコさんの物語はこれにて完結です。


機会があればまた四人の話を書いていきたいです。


ここまで読んでいただいた方には誠にありがとうございます。

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[良い点] サァア・アスナフルに笑いました ガンダムのシャアとSAOのアスナが混じってるような名前でw 普通に赤い彗星が本文に出てきてるし バハムートはやはりメガフレア使えたのかー
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