オネエ様と野宿は危険が危ない
メドウボアの焼肉と川魚の串焼きを堪能した俺とジャスミンさんは、食後の紅茶を
楽しんでいた。
「ジャスミンさんは何故冒険者を辞めたんですか?」
「そうね、話すと長いんだけどね」
話を聞くと、ジャスミンさんはナディニア公国の東に位置するダルヘイム王国という国で、冒険者として活動をしていたらしい。
重装備の前衛で、敵の攻撃を防いだり、後衛を守る役目。いわゆるタンクというやつだ。
そこで男二人、女一人の仲間と共にパーティーを組んで活躍し、A級冒険者になるまでに成長したが、とあるダンジョンの最下層で仲間の男一人が片腕を失う大怪我を負ったそうだ。
回復役の女の治癒魔法や手持ちの薬草などには、失った腕までを元に戻す力は無かった。
女の仲間は、大怪我を負った男の事が好きだった為、責任を感じて一緒にパーティーを抜けた。そうしてパーティーが解散となって冒険者を辞める事になったらしい。
「それはお気の毒に」
「まぁ冒険者では良くあることよ、それにダンジョンに入らなくても[裁縫]と[料理]のスキルがあるから喰うに困らないしね」
「それで冒険者を辞めて、女に目覚めたと?」
「え?これは元からよ」
(元からかよ!普通テンプレでは冒険者を辞めてオネエになりました的な流れだろ!)
「どうしたの?」
「あ、いや。それでカナン村の用事ってなんですか?」
「妹に会いにね、マリーって子なんだけど、劣化スキルのせいで生まれつき体が弱いのよ。だから定期的に面倒を見てあげてるの」
「劣化スキル?」
「ミクモちゃんは劣化スキルは初めて聞く?固有スキルは生まれた時から備わっているスキルなのは知っているでしょ?」
「あ、はい」(知らんけど)
「その固有スキルのなかには、能力低下や状態異常になるスキルがあるのよ。それらのスキルを劣化スキルっていうの」
(そういえばゴブリンを鑑定したときに知力低下とかいう固有スキルがあったな)
「私の妹もその劣化スキルのせいで体が弱いのよ」
「劣化スキルは削除出来ないんですか?」
「さぁ、聞いたことないわね」
助けになりたいが、俺にはどうすることも出来なそうだな。
「さぁ、そろそろ寝ましょうか」
ジャスミンさんは鞄から花柄の刺繍が入った毛布を取り出したい。
「毛布は一枚しかないから一緒に」
「大丈夫です、おやすみなさい」
俺はジャスミンさんと距離をあけて地面に寝転んだ。
こうして異世界に来て最初の夜が更けていった。