虚なる闖入者と百貌の詐称者
「」が生声、『』が変声状態という書き分けを忘れてたアホがいるらしい。
うーんこの。長期休載とかするもんやないでほんま。
「ふーん、神殿の中はこんな感じなのか……」
俺は神殿の入り口をくぐり、そして一通りあたりを見回した。
いや、なんというか、よくわからない。
そこらじゅうでふわふわしている白い立方体も、壁に施された数々の意匠も、俺には全くもって理解不能、意味不明である。あるいは、前世で建築とか専攻してたらわかったんだろうか……? 正直、魔法を初めて見た時くらい衝撃的だ。
と、いつまでも驚いていても仕方がない。この不思議空間はもう少し探索したいが……ここはゲームじゃないからな、フラグを建てなくても世界は動くのだ。隅々まで見るのは今度にさせてもらおう。
そうして、俺は一つ二つ歩を進めて罠がないことを確認するとそのまま中心の方へと加速する。
目指すはあの黒い歪み。それは空間に直接ヒビが入っているかのような……まあ言ってしまえば陳腐な『闇』の表現がなされている。
多分あれに触れるか何かすれば封印は解けるのだろう。そんな気がした。
コツコツと、神殿内に足音が響く。
この空間は不自然なほどに音がないので、唯一鳴るその音が随分と大きく聞こえた。
──────だからだろうか、俺は一瞬頭によぎった違和感を見逃すことなく、その歩みを止めた。
『………おい、いるんだな? 誰かは知らねぇがコソコソしてないで姿を現せよ』
俺は即座に緊張の糸を張り詰めさせると、正体を宵闇の忠臣だと誤認させるべく声色と口調を変えながらあたりに呼びかけた。
◇
俺が覚えた違和感、それは単純で、俺の他に音がしたのだ。
この虚無の空間だ、本当に……本当に僅かな音でも結構強く耳に残る。だからこそ、僅かに響いた衣擦れ音を俺の聴覚が確かに捉えた。
残念ながら位置は不明だ、この円形の神殿は音が拡散されて響く。音の発生源を捉えることはできない。魔力探知の魔法を使ってもいいが、しかしここは不用意に手の内を晒さず、無駄な消耗も避けていきたい。ので、とりあえずあたかも気づいているかのような口振りで演技をすることに決めた。
演技なら任せろ、もう10年はやってるから得意だぞ。(ドヤ顔)
そんなわけで、俺はあたりを見回してからじっと待つ。
まあ、この何もない空間だ。どうせ隠れている場所は浮いてる立方体の裏とかだろうし、最悪全部魔法で撃ち落としてみればいい。ここは気長に待つとしよう。
「……まさか、気づかれているとは思いませんでした」
あ、思ったより出てくるの早かった……
◇◇◇
声のした方を向いてみれば、そこには白い立方体の上に佇む一人の男がいた。彼は俺同様に深いフード(色は白いが)をかぶっていて、その顔ははっきりとは捉えられない。……なんかかっこいいな、俺もやってみたいそのポーズ。
見たところ身長は百七、八十くらいか。結構スタイルも良くて程よく筋肉がついている。ま、十中八九男だな。
俺はその存在を認めると、すぐにいつもの黒靄を纏う。完全に敵側であると判断したからだ。
一応こちらの協力者か或いは宵闇の忠臣か、とも思ったのだが、まああの口振り、衣装からして味方ではない。
良くて利害一致の同業者、悪くて教会の警備だろう。
ま、とりあえず聞いてみるか。
『そんで? 俺の登場を待ち伏せしてたあんたは誰かな? 一応言っとくけど、サインはないぜ』
「……はは、お構いなく。本日は公務なんで」
『あっそ、聖域にまでとはご苦労なことで』
「いやいや、寧ろここに来られてラッキーですよ。正直、御伽噺でしか聞いたことがなかったもんで」
──────うん、聖域についても知ってるしまあ確定かな。
こりゃ神官ですね。秘密裏に人員が配備されてたってわけだ。
と、なるとちょっと厄介だ。
こいつら倒すの、嫌だなあ……神術ほぼ初見になるしなぁ。
俺は相手に気取られぬようさりげなくため息をつく。
クソ、せっかくいい感じで終われそうだったのに、なんでこんなだるい仕事が待ってるんだよ。
俺はその苛立ちをぶつけるように、早速彼へと挑発を重ねる。
『それで? 見たところ神官様らしいが、俺を捕まえにでもきたのかな? それにしちゃ一人ってのは……舐めすぎじゃねぇ?』
「……どうでしょうかね」
だが、相手はその言葉に肩をすくめるだけで反応を返すことはない。
どうやら自分の実力になかなかの自信をお持ちのようだ。一人という事実に対して一切の怯えを見せていない。
まあ、そもそも聖域の防衛に抜擢されるくらいなんだから当然っちゃ当然か。
『ククク、その余裕、いつまで続くかね』
そう言って俺は笑う。悪役らしく、傲慢に、不遜に、強かに。
そして、心のうちで戦闘への覚悟をすませた。
戦闘をするのは久しぶりだ、最後は……練習中に遭遇した魔物の討伐かな。もう二年前くらい前になるか。ブランクの大きさは計り知れない。しかも今回の相手は人。知性と理性を兼ね備えた人間である。魔物ではない。
まさか命まではとられまいが、しかしそれでも危険な戦いになる。
─────よし、覚悟は決めた。
痛みも、苦しみも、その全てを乗り越えて奴に勝とう。
俺は、そうして戦いを決意する。
『じゃ、やろうか。あんた名前は?』
俺は戦闘体制をとりながら相手へと声をかけた。
折角の決闘だ、ちょっとくらいカッコつけたっていいだろう。
……だが、相手の返答は、少し────いやかなり俺の予想から外れた物だった。
「あれ、まだ気づいてなかったんですか? その制服、宵闇の忠臣のですよね。なんか少し凹みます」
そう言って、彼は不思議そうに顔をかしげた。
そしてそれから、ニヤリと口を歪ませて──────
「どうもお久しぶりです、それとも初めましてが適切ですか? 私の名前はパトレア、元宵闇の忠臣『幹部』であり────警察における潜入捜査官です」
『………………は?』
フードの下から現れた顔は、ここにいるはずのない男だった。
だって、彼は本来なら──────




