ドッペルゲンガーによろしく
俺が思いついた作戦は、至極単純であった。
というか、頭が回らなすぎてこれしか出てこなかった。
それはつまり──────
◇◇◇
「わ、結構雰囲気あるねココ」
「だろー? 校外学習の時見つけてさ、いいなーって思ってたんだよ」
協会の裏手に周り、そこにある『黒い森』にたどり着くと、俺はその暗さ、おどろおどろしさについ嘆息した。その雰囲気といったら、幽霊の一体や二体くらい、本当に出てきそうである。
………いや、実際大悪魔は出てくるのだけど。
さて、今日はまさしくXデイ、肝試し当日にして犯行予定日である。今は、俺、ユキ、フラウ、ルーナ、そしてレインの五人が揃って肝試しの会場を訪れたところだ。
五人の面持ちは上々と言った感じで、ルーナやフラウの幽霊が得意組はその目を輝かせながらキャアキャア言っている。怖いけどそれも楽しい! と子供ながらの純粋な笑顔であたりを見回していた。
一方、心配なのはユキとレインである。
二人ともそこまで幽霊に耐性はないのか、少し怯えた目であたりを見回しては何か物音がするたびに固まっている。
特にヤバイのはユキだ。怯えながらもどこか余裕のあるレインとは真逆に、見栄を張って平気な顔をしているが、どこをどう見ても顔面蒼白である。ねぇ、足震えてるよ? 大丈夫そ?
……というかユキよ。お前自分で肝試し提案したくせに幽霊ダメなのか。みんなと遊べるなら楽しいだろうとついてきただけのレインはわかるけど、お前何やってんだ?
ユキの行動に疑問を覚えながらも俺たちはどんどんと森の中へと進んでいき、そして俺たちは前日の昼に確認していたスタート地点までたどり着いた。
「よ、よし。ここで間ちがい無いな。木につけたキズも昨日と同じだ。じゃあ、さっさと始めるか!」
微かにかいた冷や汗を拭いながら、ユキは今回の肝試しのルール説明を始める。
「今回のきもだめしは前に決めたように個人戦な。昨日森の端に置いといた自分の名前が書かれた石を、ここまで持って帰ってくるんだ。わかったか?」
そう言ってユキは俺たちのことを見回す。
それにみんなは頷いて答えた。
「よし、じゃあまずは予定通りグリムからだな! 最初だからあんまり早く行きすぎると帰ってきた時、ここでずっと待つことになるぞー」
「あはは、あんまり不安になるようなこと言わないでよ。僕だって怖いもの無しじゃないんだよ?」
「え、そ、そうなんですか……?」
「……ルーナ、流石に僕もちょっと傷ついたかな」
黒い森に笑い声が響く。
これから始まる小さな冒険に、俺たちは心躍らせるのだった──────
────と、そんな五人の少年少女を教会の屋根から見下ろす靄が一つ。
『ふう、とりあえずアレが幻影ってことは気づかれてないかな?』
朱く赫く空に紛れる薄靄はそう零すと、体を屋根の裏に引っ込めて一息ついた。
そして靄を作る魔法が解かれると、そこからは宵闇の忠臣の制服たる黒いマントに身を包んだ、一人の少年が現れる。
「はー、動く幻影ってこんなに投影疲れるんだなー……今までベッドの中に置いといたやつ、これの倍は楽だったぞ」
──────そう、この靄の正体は、今確かにそこで笑っている少年グリムの「本体」であった。
◇◇◇
俺が思いついた作戦は実にシンプル。
“一人じゃ無理なら、二人でやればいいじゃない”
これが、作戦の概要である。
まあ具体的に言うと、いつも使ってる身代わり魔法を応用して自由に操れる幻影を作り出し、肝試しはそいつに、教会侵入は俺にと役割を分担することだ。
………いや、実際どちらも俺がやってるから分担ではないんだけども。
兎に角、こうすることによって、俺は二律背反の状況を打ち破ったのである。
─────いや、ほんと大変だった。マジでこの苦労話を今後の人生で誰にもできないのが悔しい。誰か俺の愚痴を聞いてくれ。
まず幻影を作る訓練から地獄だ。
普段、夜はベッドの中に身代わりを仕込んでいるが、なんと不幸なことに幻影は作れて一体限りなのである。つまり、この練習は夜の間にすることができない。もし練習中に親が来ようもんなら即正体バレである。
故に、俺はこれを昼の登下校中に完成させる必要があった。
そう、このクッッッソムズイアレンジ魔法をたった二週間、しかも一日数十分で!
ほんと、納期ギリギリの漫画家かってくらい焦った。もう二度とあんな目には会いたくない。
そして、受難はまだ終わらない。実は、幻影は自由に操作できるのだが自立して動くことはない。
要は、俺が本格的に侵入に取り掛かる時、偽グリムはただボケーっと突っ立っているだけになるのだ。
そう、これは大問題。こんなところを一目でもレインなぞに見られようもんなら、これもまた即正体バレである。
だから、俺はここで肝試しにさらなるルールの追加をすることになった。
それが、「個人戦」である。
そう、見られたらまずいなら見られなければいい。
一人一人行動していけば偶然遭遇しない限り互いを見ることはない!
そう考えた俺は、肝試しについての話し合いの中でユキにこう言ったのだ。
「肝試しって言うけど、みんなでいると怖くないんじゃない?」
ユキは結構単純だ。最初こそ渋っていたが、フラウやルーナがそれに賛成を示すところっとその意見にひっくり返った。………ああ、今になって思えば、あの時渋ったのって本人が怖がりだからなのかね。嫌なら嫌っていえばいいのに。俺としてはありがたいけど。
まあ、あの提案もそんなに可笑しいものじゃなかった筈だし、レインにも怪しまれていないだろう。
……あ、ちなみに操作しないなら石の回収どうするの、という問題は既に解決済みだ。
別にこれは簡単で、単純に俺は石を置いたその日のうちにソレを回収している。そしてその石は、あの幻影のポケットにもう入っているのだ。
あとは全てが終わった後にさも今回収してきたような顔で石を見せればいい。これで怪しまれることはないだろう。
とそんなわけで、サイズの合っていない服を直したり万が一の為戦闘用魔道具を作ったり、他にも色々微調整はあったが、俺は見事今日のための下準備を見事完成させたのだ。
「くっくっく、まさに完璧だ。あの夜の限られた時間でここまで作戦を詰められたのだから上等だろう。これで漸くゲームの正史に戻せる……筈だ」
俺は一人笑いながら、眼前に広がる教会を見下ろした。
まるで楔のように中央に聳え立つ真白な尖塔、その入口に夜闇が這う。
そして俺は、黒いマントをはためかせて地上へと飛び降りるのだった。
次回からついに侵入編です。
なお、肝試しの様子は多分ほぼ書きません。楽しみにされている方がいたらごめんなさい。
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