怪盗グリムは再臨する?
教会の間取りは完璧に把握した。封印の位置から、大まかな巡回通路、どこで騒ぎがあったのか、その他役立ちそうな情報諸々をできる限り集めてきたのだ。
これで、教会への侵入はおそらく万全の状態で挑むことができるだろう。
……ああ、なぜそこまで詳しく見る必要があるのか、と思うかもしれないが、今回はそういう手間をしっかりかけていかなければならないのだ。
宵闇の忠臣どもの様な失敗は、俺には許されていない。故にこそ、そこにはどんな失敗要因も潰しておかねばならない。それこそ、思いつく限りの可能性を虱潰しに。
ここを落とせば、もう挽回のチャンスはない。流石に三回目の犯行では、プロ以上の実力を持つ俺とて捕まりかねないからだ。
だからこそ、情報は潤沢に握っておくものである。
まあそんなわけで、俺は教会への侵入を無事に済ませ、その次の日の夜から、今度はその宵闇の忠臣のアジトを捜すべく、夜の街を駆け回っていた。
「あー、たーぶんここら辺だと思うんだけどなー?」
昨日と違い、今度は『跳躍』による高速移動で、俺は街をかけている。この広い王都を網羅するには、それほどの速度が必要だからである。
幸い、この肉体の才能か、俺の動体視力は人間以上なので、どれだけ早く移動しようが目で捉えられないものはない。6年前、竜の試練でやってのけたあの離れ技こそが、その何よりの証左であるのではないだろうか。
だが、そんな中俺は、怪しい建物の一つすら見つけることができていなかった。
「うーん、ビジュアルはゲームと変わってないとして……それでも王都は広いからなぁ。一つの建物を見つけるのは骨が折れる」
忙しなく首を動かしながら、俺はそう弱音を吐いた。
うーん、恐らくあるとすれば、まず間違いなく住宅地であるとは思うのだが。所詮秘密拠点といえど彼らは少数組織だし、多分幹部の寮になっていると推測できるから。
ただ、それが多分ほとんど貧民街に近い区域にあるだろうことがことを面倒にしているんだよなぁ。
物価が安く、人目につきにくく、土地の所有権が明確でないあそこは、いろいろ裏でやるのには適している。だから、そこに拠点があるのは合理的だ。
……ただ、それは捜す側からしたらたまったもんじゃない。
あそこはそのメリットに群がる人間が多く、大量の半分不法な物件が立ち並ぶ地域になってしまっているのだ。
似た様な家がぎっしり詰まっているあそこは、正直一つ一つに注視していくのが難しい。しかも外観もわかりにくいので、ある程度じっくり見ないと、目当ての家かどうかがわからないのである。
「くそー、どこもかしこも家だらけ………こりゃ、今日中には探索しきれないぞ。面倒くさいなぁ」
俺は口から自然と漏れ出る悪態を止めることもせず、淡々と捜索範囲を跳び回り続けた。
◇◇◇
はい、ということで見つけました。一週間かかりました。一周じゃ見つけられなくて、三周くらい王都を回りました。たまに朝日が出ても探してる日もありました。
とても、疲れました。
だが!! その作業も今日でおしまい! こいつらの制服盗んで、さっさと教会に侵入してやるぞ!!
俺は疲れ果てた心に火をつけて気合を入れ、その向かいの建物の屋根に身を隠した。丁度、数年前に俺が馬車郡を見張っていた時の様に。
今回の計画はこうだ。
まず、この建物から人(勿論宵闇関係者)が出てきたところから、計画は始まる。その人間は、まあ間違いなくここから自宅へと戻っていくのだろう。ここはあくまで職場で、大体の人間は自宅と表の顔の生活があるだろうから。
俺は、それを尾けていく。
そして、自宅に到着するまでストーキングをして、そいつが寝静まるのを待つのだ。ああ、中の様子の確認は魔力波を感じ取る魔法があるから、確認は容易である。
それから、家主が入睡して警備がザルになった家に俺は堂々と侵入、彼(あるいは彼女)の制服を盗んで、さっさとお別れ、という算段である。
うーん、相変わらず惚れ惚れする作戦だ。この手際の良さ……やはり一瞬とはいえ怪盗の真似事をしておいて良かったぜ。
そうして俺は、自分のことを自画自賛しながら屋根裏に身を潜めていた。
そして、その数十分後──────
「………お、いい感じの男が一人出てきたな」
見張りを続け、俺はやっと一人の男を認めることができた。
彼は筋骨隆々で、まさに武闘派! というような雰囲気を纏わせている男だ。身長はそこそこ高めで、顔は制服についているフードのせいでよく見えない。
気配はこの夜の闇に紛れる様に完全に消しており、その服装の割にどこにでもいそうな平々凡々な空気感を出している。おそらく、実力は結構高い方だろう。もしかしたら、戦闘員の一人だったりするのかもしれない。
ただ、その割に歩いている様子からは意気消沈の気が見受けられ、歩みが見た目から想像するよりもはるかに遅い。今回の失態の所為だろうか?
彼はこのまま一人で帰る様で、特に荷物などもなく、そのまま庶民が多く住む住宅街の方へと歩いていった。
「んー、サイズが少し大きすぎる気もするが……まあ、それくらい切ればいいだろ。あいつ服の管理とか杜撰そうだし、盗みやすそうだな」
俺は相手の観察結果から、彼を俺が服を盗むのにふさわしい、と評価決定をする。
それから、俺は彼の後ろの方に音もなく降り立つと、完全に気配を消し、そのままゆっくりと彼の跡をつけるのだった。
あれ? なんかこの人………




