勝者は不在です!!!(断定)
ちょっとおふざけ多めの回。前回文字多かったからね。
あと、セリフに「」ついてないのがあるのはわざとです。連続してセリフがあるときは、グリムのみ「」がつきません。
はあ、目の前に広がる惨劇、ああ、なんと心の痛い結末。こんなに不平等な訓練が、今までこの世にあっただろうか! 誰にも予想できない非道な行動をとる試験官……実に惨い!
その余りの悲惨さに、この口から自然の言葉が漏れてしまう……
「……これじゃあ誰も勝てないよねぇ」
「え? いやだから、レインが──────」
ユキ。
「?」
誰も勝てなかった。いいね??????
「…………うん」
よし。
「いや、よくないよ」
ちっ、本人が来たか。
俺は声のした方へくるりとその体の向きを変え、そしてとびっきりの和やかな笑顔を浮かべる。
「どうしたの、レイン? 別にいいじゃないか、いってもただの遊びなんだ。ちょっとくらい結果が曖昧でも、許されるって物さ」
うん、実に素晴らしい説得だ。この超絶ほんわか笑顔に包まれれば、如何なるものであろうと間違いなく全てを受け入れて──────
「……でも、私が勝ったのは事実じゃないの?」
なん……だと…!? お、俺の超レベルの笑顔スキルが、通用しない?
くそっ、こっちは日々お前らを騙すために鏡の前で笑顔チェックを欠かしたことないってのに! 俺の10年近い努力じゃ、足りねぇっていうのか!!
「まあ、確かにレインの言う通りだよなぁ。別にそんな、うやむやにしなくちゃいけない状きょうでもないだろ」
あ! 折角丸め込んでたユキまで!
「で、でもさ! ほら、別に景品も罰ゲームもないんだから、逆にはっきりさせる必要もないってことじゃない? 別にメリットもないから!」
うん……うん! なんか自分で言ってるうちにそう思えてきたわ! そうそう、別にはっきりさせる意味もないだろ! おらどーしたなんか反論してみろよ、反論ないなら俺の勝ちだが????
「いや、景品あるけど」
なんでや!!!!!
「いやいやいや! お───僕聞いてないよ?」
流石にそんなことは認められない。俺は必死に声を上げる。
……あ、ユキこら、かたまんじゃねぇ。どこかに視線をずらしても無駄だぞ。
「えっと……実は、言いわすれてて……その、グリムにはどっちも無しってことでいいかって、話さないまま……」
「──────で、今に至る?」
「そーゆーことになる、かなー、みたいな?」
へー、ふーん、ほー、そっかそっか、なるほどねー………
「……………………………………」
「な、なんだよ。仕方ないだろ。ほんとにわすれてたんだよ!」
忘れてたで済んだら警察はいらないんだよ、ユキくん。
「う、ご、ごめんな」
……まあ、許してやろう。
しかしこれは困ったぞ、普通にレインはメリットがあると言う事実が判明した以上、もう流石に誤魔化せない。俺が敗北したと言うことにされてしまう。
そ、それだけはなんとか……こんな屈辱は初めてだ。
なにか、何か……は! そうだ、そもそもレインへの褒賞ってなんなんだ?
なんの手がかりになるのかは全くわからないけど、もしかしたら、ここに突破口があるかもしれない。いやきっとある!!!
「そういえば、レインはこの予想で何を賭けたの?」
「えっと、私?」
そうそう。
すると、レインは顎に手を当ててしばらく考えると、思い出した様にそれを口にした。
「私はユキくんと、負けた人が勝った人の宿題をやるっていう勝負をしてたんだ。私は成績がいいから、そうしてくれると助かるって」
ふーん……………あれ? いや、それおかしくね?
「あのさ、それだと、レインはほとんどいいことがない様に聞こえるんだけど………だって、ユキは勉強ができないからレインに頼んでるんだよね?」
「え? あ………えへへ、そうかも」
いや、照れわらっとる場合やないわ。騙されとるやんけ!
俺は今まで以上に厳しい目線でユキを睨むと、なるべく声を低くして話しかける。
「おい、ユキ」
「……ん? な、なんだよ?」
もちろん、レインの宿題やるよな?
「………へへへ」
何わろとんねん。
俺が呆れた様な目線でユキを見ると、流石に悪気が出てきたのか、恥ずかしそうに下を向いた。
まったく、こいつが宿題を他の奴に頼むのは今に始まったことじゃないが、しかし今回のは性質が悪い。
こんな賭けまで利用するとは……ちょっと一回、フラウと一緒に灸をを据えてやらねばならんかもしれんな。このままではダメ男になりかねん。
「えっと……いいよ、私の宿題だもん。私も手伝ってあげるよ」
「ほ、本当か!? ありがとう、恩に切るよ!」
「もう、またレインはそうやって人を甘やかす。それじゃ相手のためにもならないって、何度も言ってるだろ?」
俺が抗議の目でレインを睨むと、しかし彼女は特に反省した様子もなく返答する。
「でも、かわいそうだから。それに、私も自分の勉強がやりたいもの」
うわっ、良い子。しかも笑顔が天使級。
うーん、この慈愛、本当に人に利用されないか心配だわ……いや実際ゲームでは利用されたり失敗したりするんだけどね。
「ま、レインがいいならそれでいいか……」
「そうそう、そうだぞ!」
君が言うことじゃないよ?
「あ、はい」
◇◇◇
その後、結局もう二度と賭けの話題は上がることなく(ユキが反省したのか、もう出したがらなくなった)、俺たちはそのまま社会科見学に戻った。
そして、なんだかんだ全部うやむやにできて大満足気分のまま、俺たちはその社会科見学を終えることに成功したのである。うん、実に良い。余は満足じゃ。
「はーい、これで全見学課程は終了です。みんな、お疲れ様でした!」
エレオスが、にっこりと俺たちに笑いかける。その顔がはじまった時よりも微妙にツヤが良くなっているのは、きっと気のせいじゃない。
あと子供たちとの距離感が遠くなっているのも間違いなく気のせいじゃない。
「皆さん、今日の見学を通して、この神護会について少しは覚えてくれましたか? これからも、我々は日々市民の皆さんの安全のため邁進してまいりますから、是非、応援してくださいね!」
そういってエレオスが締めの挨拶をして、やっと解散か、と言う空気になった瞬間、ふと、思い出した、といって、エレオスが再び口を開く。
「そうそう、これを言うのを忘れてた。えー、今回は社会科見学ということで、本当に実用的な施設ばかりを巡りました。しかし、ご存知の通り教会の設備はそれだけではありません。もし興味のある方がいらっしゃいましたら、これから一ヶ月間、教会内施設の一般公開がされていますから、是非お立ち寄りください」
そう言って、エレオスはお辞儀をして、子供たちの前から去っていった。
……いや、いくらなんでも口調が変わりすぎだろ、どんだけ面倒臭がってるんだ。完全に仕事モードの口調だったぞ。しかも内容も宣伝だし。
そうして、微妙に悪い後味を残して、その社会科見学は終了になったのだった。
社会科見学が最後宣伝でちょっと冷めるのはあるあるだと思っている。
これは私だけなのだろうか?




