好戦的な者
放たれた光弾は、所狭しと部屋を駆ける。そして光弾が壁に天井にと激突するので、あちこちから大きな物音が鳴り響き、部屋中を騒音で満たした。
俺たちは結界の中にいるから音がある程度遮断されて聞こえるが、直接その音を聞いている新人達からすれば、そこは地獄なのだろう。何人かの隊員候補達は、耳を塞ぎながら逃げ回っている。
尚、結界内も、子供達の声援で少し五月蝿い。まあ耳を塞ぐほどではないが。
塵も積もれば何とやらだな、と思いながら、俺は冷静にその訓練の様子を観察していた。
……いやー、片手塞ぐのは悪手だろ。
その様子を見て、素人ながらにそう思う。
実際に今外がどんなものかは知らんが、しかしそれでも、片手を塞ぐと言うのはいただけない。多少無理をしてでも、片手には守る価値がある。なぜなら────
『主が一息吹けば、世には嵐が吹き乱れた」
エレオスの口がその言葉を紡いだ瞬間、そこを中心とした突風が吹いた。
それは、風魔法とは違い殺傷能力を持たないただの風、ただそこを吹き付けるのみ。なれど、それは彼らの姿勢を崩すには十分強力であった。
「うわっ」
隊員の何人か────特に、直ぐに両手でバランスが保てない者はその姿勢を維持できず、たたらを踏んだ。
そして、今この状況において、それは致命的な隙であった。
『主の肉体は光の粒となり飛び散った』
先ほどと同じ詠唱を、エレオスは再び繰り返す。勿論、そこから放たれる結果も先ほど同様だ。
だが、今はその状況は同様ではない。当然、姿勢を崩したものはその攻撃を受け切れない。
「がっ?」
「ぐっ!」
二人、その攻撃にヒットする。
そしてその瞬間、攻撃が当たった場所から薄らとばつ印が浮かび上がってきた。
「おい、今当たったお前ら! 訓練おわったら後で再指導だ! そのへっぽこな実力後で叩き直してやる、覚悟しとけ!」
エレオスが叫ぶ。
どうやら、一番最初に脱落した人は、評価からさらに減点されてしまうらしい。しかも後で補修までつく徹底っぷり。
まあ、今回のミスは初歩的なものすぎて、全く擁護する気は起きない。あの様子じゃ間違いなく優しい授業にはならないだろうが、二人いることを唯一の救いとして、精々訓練に励んでほしい。
俺はトボトボと訓練室を去っていく二人の背中を横目に、今の罠を乗り越えたら彼らのことを見ていた。
うん、みんな強い。
たいした知識もないが、そう思う。
俺だって一応竜の試練は超えているし、魔法戦においては一般術師を遥かに超えていると自負している。その俺から見ても、彼らは弱くない。
体捌きがとも上手く、対人戦に特化した効率的な動きがとられている。また、その動き方も、なるべく味方の邪魔をしない様によく考えられたもだ。
「へー、皆んな、本当にすごい人たちなんだなぁ」
つい、感嘆が漏れる。
そりゃ普通に戦えば俺が勝つが、しかし通常戦闘において、彼らの実力は一級品だ。魔法に特化した俺とは違い、基礎力がある。
この肉体には運動神経やセンスはあっても、そう言うものは自力でやるしかないので、素直に彼らを尊敬する。間違いなく、その点で俺は彼らに劣っている。
うーん、もう少し俺も筋トレしようかな? グリムのイメージとは違うけど、大切なのは間違いないんだし。
などと、俺がこれからの鍛錬の方針を練っていると、ふと隣から声をかけられた。
「なあグリム、せっかくだし少し遊ばないか?」
声の主は、ユキだ。
「……もう飽きたの? 僕はすごく面白いと思うけどな、コレ」
まだ開始から五分程度だと言うのに、早速提案された遊びに、俺は少し呆れた様に、というか呆れて返答をする。もう少しおとなしくはできないのだろうか。
しかし、ゆきはその言葉を直ぐに否定した。
「ち、ちがうちがう! 面白いからこそ、どうせならもっと楽しく見たいと思ったんだよ!」
手と首を必死に横に振り、一生懸命否定しているが、全く言い訳になっていない。何にせよ、真面目に観るのが疲れたのは事実だ。
────しかし、別に断る理由もない。ユキとは懇意にしていると言うのもまた事実だし、ここは彼に付き合ってやるのも正解だろう。
「ふぅん……まあ、そう言うことにしとくよ。それで? 何をするの?」
「いや、だから本当にちがうって……まあいいや。えーと、今からやるのは、簡単なかけみたいなやつだよ、生き残りは誰だー、みたいな」
あれ? ユキにしてはそこそこ真面目な案が出てきた。そう、俺は少し驚いた。
ユキといえば、いつもクラスで突拍子もない企画案を出し、そして勢いで実行する様なやつだったと言うののに。今回も例に漏れずそうだと思ったら、普通にわかりやすい遊びだった。一体全体、コレはどうしたことだろうか。
「いいけど……どうしたの? なんか、君にしては普通すぎない?」
「え? それじゃダメなのか? だって、せっかくやるなら誰でもできる遊びがいいじゃんか」
……いや、誰だよコイツ。こんないい子だったっけ、ユキって。
決して悪いことではないけど、ここまで急に変わられると、何かあったのではと思いたくなる。いや、悪いことではないんだけれど!
心を掠めた微かな疑問はあったが、しかし俺はそれを無視する。
よく考えれば、ユキももう中1になろうとしている。少しの協調心くらい、持ち始めたっていい頃合いだろう。
大人になったなぁ……うっうっ(感涙)
まあそんなわけで、俺はその疑問を押し殺してユキの話に賛成した。
「うん、ユキの言う通りだ。じゃあ、やろうか」
俺はその顔に柔和な笑みを浮かべ、ユキにそう返した。すると、その言葉を聞いて、ユキの顔は弾けた様に明るくなる。
「おし! じゃあ、オレも負けないぞ! 指定したやつがより長く残れば勝ち、だからな!」
ユキはそう言って軽くルールを説明して、先に選手選びに没頭してしまった。
……随分雑なルールだが、本当に大丈夫か? ちょっと不安だ。
まあ、良い。その中でも勝ってこそのゲーマー、多少制作者が有利だからと問い詰めるのは無粋というものである。長年のゲーマーとしてのプライドが、それを許さない。
まあ、最近はこうした活躍が減っていたからな。偶には、こういう賭け事に興じてみるのも悪くないだろう。
そう思って、俺は選手達の動きを観察し始める。
多種多様に動き、少しの連携や助け合いによって一瞬一瞬のうちに更新されていく戦場において、ただ一人の優秀者を選定する。その行為は、思ったより難しい。
誰もが助け合い、もつれあい、状況を動かしているので、その中のキーパーソンは逐一変わる。その中でたった一人の絶対的キーパーソンを見つけるのは至難だ。それこそ、どんぐりの背比べというのも間違いではない。
だが、俺はゲーマー、立ち回りの鬼である。
この条件設定は、既にMMOなどで何度も経験したことがある。
この程度、全く大きな問題にならない。最後まで生き残る立ち回りというのは、わかっているつもりだ。
その経験を活かし、俺は一人一人を観察する。
あいつは──────いや、ダメだ。少し周りを見過ぎてる。それじゃあ自分の身が疎かになる時が来る。
あいつは──────いや、コレもダメ。単独すぎる。いつか孤立して、撃破されるだろう。
あいつ───────ダメだ。動きはいいが、判断が遅い。それじゃあ単純な力押しで負けるだろう。
そうして、一人、また一人とその選択肢を狭めていく。
いくら優秀とはいえ、彼らはまだ新人だ。そこには必ず穴がある。だから、そこを見抜けばそれはあまり難しいことじゃない。
と、すれば、自ずとその答えは導かれている。
「よし、僕は決めた。あの、一番奥で人影に隠れている人にする」
彼は、先ほどからずっと隠れている。だが、決して臆病なわけではない。
攻撃が激しい時はなるべく遮蔽を使い、そして詠唱と詠唱のわずかな隙間で、なるべく次の死角になるところへと的確に走っている。
その動きの恙無さは、一般のレベルを大きく超えている。
「あー、あいつも確かに攻げきをさけるの上手いもんなー。あいつもありかも。だけど、オレはちがうのにする!」
そう言って、雪はビシッと『彼』を指差した。
「あのデッカいやつに決めた! あいつ、ゆったりしてる様に見えるけど、ちゃんと術を全部よけてるから、多分これからも長く戦えると思うからさ!」
ユキはそう言って俺にドヤ顔を見せてきた。
「どーだ、俺の考察もあってそうだろ?」と言いたげである。
まあ、実際間違ってはいない。ユキの言う通り、彼は単立ち回り以前にこのゲームが上手い。
一見のっそりしていて、その動きに騙されるが、その実動きに無駄がない。魔法もないのにアレができるのは素直にすごいと思えるほどだ。
何というか、王道で選ぶなら彼だろう。
だが、何と言うか、逆張りオタクの哀しい性か、俺には彼は選べなかった。
ゲーマーとして、実力を技で補うあの人に、俺は入れたくなってしまったのだ。
だからこそ、俺はユキの意見と真っ向から戦うことを選ぶ。
俺も、ユキ同様に傲慢な顔を浮かべると、その答えを嘲笑った。
「ふふ、まあ彼も強いけど……勝つのは僕だね。アレじゃ、いつか限界が来るでしょ」
だが、ユキはその言葉に負けず、応戦してくる。
「あー、決めつけは良くねぇぞ。いつか足元すくわれっかんな」
ばちばち、と両者の間で火花が散る。
こんな他愛もないゲームだが、しかしゲームはゲーム、勝つのは俺である。
ふん、ユキよ、俺を敵に回したこと、後悔するがいい!
そうして、俺とはユキとの戦いは火蓋を切られたのだった。
『怒りはその深層から浮き上がり、己の顔へと映し出した』
エレオスの呪文が響き、そして部屋から真っ赤な炎が上がった。
実は真面目に見てる奴の方が少ない。
こういうのって、結局子供はだべってたりするよね。




