新人訓練室にて
ゾロゾロと案内される子供達。中には、この建物の豪勢さに大きく声を漏らす子供もいる。それはあまり行儀がいいことではないが、しかし彼らの気持ちもわかる。だってこの施設、ある程度金持ちである我が家から見ても、兎に角豪華絢爛だ。
煌びやかな装飾はそこらじゅうに施され、細かいところの備品は最新の魔道具やデザインがあしらわれている。一つ一つの部屋の前にある看板は嫌に手の込んだ飾り文字だし、今横切った窓だって滅茶苦茶綺麗に磨かれている。
もう、とにかく金の力が見え隠れしているのだ。
一応、此処は教会である。つまりは、こう言う建設費用は基本的に寄付やお布施から成り立っているのだが、しかし『予算』は王都中から集まっている物ゆえに当然大量である。
つまり、市民だけでなく貴族などからの金もここに回るため、ここは軽く貴族施設レベルの大きさを誇っているのだ。
因みに、いつぞやのあの病院もやはり教会の施設であったらしい。あの時見た謎のキラキラエフェクトの的な物がこの宗教のシンボルなのを、さっき確認した。
ここらへん、現実の世界よりも改革が進んでいると思う。いくら作られた世界だからって、中世にしてはサービス良すぎるんじゃないか? 俺歴史の知識皆無だけど。
本当にこの国は絶対王政や貴族制を敷いているんだろうか? もうとっくに形骸化して近代化済みです、と言われても納得してしまうな。
まあなんにせよ、この超豪華な施設を周れると言うのは本当に貴重な機会なのだ。
こんな豪華な場所に来られるようになるには相当の富を築かねばならず、そもそも此処は教会本部附属で、聖職者にでもならないと訪れることもない。
二歳児検診同様、人生で一度きりのチャンスなのだ。
………多分、一番緊張してるのは先生である。
子供達と違い、彼らはこの見学の責任を持っている訳で、子供に何かしでかされれば人生お先真っ暗になる額の損害賠償請求が待っているだろうから。
南無阿弥陀仏〜、と(教会だけど)言っておく。頑張れ。
◇◇◇
案内が始まってから恐らく二時間は経ってから、最後の見学として、俺たちは訓練場に連れて行かれた。
「訓練場──────即ち警官育成部屋。まあ、端的に言えばに言えば新人研修室です。ココでは新人達が正式隊員になるべく、一生懸命トレーニングしているんですよ」
エレオスはそう言って俺たちを部屋の壁際を歩かせる。これから中央でトレーニングする彼らの邪魔ならないよう、あるいはその被害が子供に及ばないようにだ。
俺たちは、中央に綺麗に並べられた新人達同様、壁沿いにそって几帳面に並べられていく。地味にエレオスの案内が上手いのは、日頃の指導練の賜物だろうか。
それから俺たちが全員部屋に入り切るのを確認すると、エレオスはそそくさと扉を閉める。
多分、これからこの部屋はうるさくなりそうなので、迷惑にならない為だろう。
「さて。今日は皆さんにはここで一緒に訓練の様子を見てもらいます。日々街を見回っている神官がどんな訓練をしているのか、それを知ってもらって、我々をより信頼していただきたいのです」
そう言って、腕の見せ所ですね! と彼は笑う。
その顔は先ほど通りの優しい顔であり、とても人をぶっ倒したりはできそうにない。
────ないのだが、しかし後ろで控える隊員候補達の顔がすごく……こう……強張っている。なんか、無理して笑ってる感がすごい。
もしやこの教官、この顔は猫っ被りなのでは……?
ちょっと教会の裏事情が汲み取れたが、しかしそれは見学には関係ない。彼らが普段どれだけ痛ぶられていようと、エレオスは子供の前でそれをやることは無い。コレは確信できる。
なぜなら、先ほどからエレオスは何処か残念そうな顔で訓練の概要説明を行なっているからである。
あれは(本当はもっとやりたいのに……)と言う顔だ。間違いない、俺には判る。
「─────と、この様に、普段はその様に訓練をしているのです。……あー、本当はちゃんと子供達にも見せてあげたいのですが、少し時間がかかりすぎますから、そう言うトレーニングは今回はなしでお願いしますね?」
俺が上の空で警察の内情などを考察しているうちに、気づけば訓練の解説が終わっていた。まあ、対して興味深い内容でもないし、神術の訓練は今の所やる予定はないので聞かなくてもいいだろう。
それよりも、やっぱり興味があるのは『アレ』である。
そんな口だけじゃなくて、せっかく来たからには────
「そして今日見せるのは、一番の目玉訓練、神術実演訓練でーす!」
キャーーー!!!!!
よっ、待ってました!
いやー、やっぱり見たいよねー、神術。
神術は専門家しかできないし、しかも見る機会なんて普通の生活をしている分には、数十年に一度の教皇就任祭くらいのもの!
知り合いに神職がいれば別だけど、うちには居ないので俺はずっと教科書と本だけでしか見たことがなかったのだ!
勿論ゲームでは有るけど、生で見たいと思うのが人の性。
おお、あなたの術を娯楽とすること、どうかお許しください神よ……
「新術実演訓練は、やることは簡単です。私が方々に神術を放つので、それに最後まで当たらずに耐え切れた人の勝ち。スリル満点の競技ですから、皆さんも誰が勝つのかを予想しながら、隊員達を応援してあげてくださいね!」
エレオスは、その顔に満面の笑みを浮かべて俺たちに微笑みかけた。
その顔はまるで地母神が全てを包み込むかの如き後光が見えんばかりだったが、しかしその理由はひどく腐ったものであるのは容易に読み取れた。
……隊員達にちょっと同情する。コレはきっと一番に落ちたら、子供達に醜態を晒した、とか言われて訓練を追加されるやつだ。ありがちな感じの。
俺が心の中で合掌をしていると、気づけばエレオスが部屋の中心に立ち、他の隊員もその姿をよくよく観察している。既に、全員が臨戦体制に入っている。この軽く体育館3個分はありそうな広い広い部屋において、各自が得意な位置どりをして、バラバラに散らばっていた。
その時、俺たちのいるところだけに軽く結界を張られる。少し驚いたが、これは普通に魔術のものだ。多分、この部屋の備え付けだろう。
これで、全員が心置きなくゲームを楽しめると言う訳だ。
「それじゃあ始めましょうかー!」
エレオスの声が部屋中に響き渡る。
そしてその波紋は、同時に隊員達の間にも広がり、空気がピリついたのが判った。
子供達が固唾を飲んで見守る中、ぽそり、と、最初の言葉が今紡がれる。
「では、いきましょうか……
『────────主の肉体は光の粒となり飛び散った』
その瞬間、エレオスの体から一斉に光のレーザーが飛び出した。
神術の詠唱は、魔法と違って文章です。それらは主に経典に記されている物ですが、中には口伝されているものもあるそうです。
内容次第ですが、基本的には長い方がより強力な効果を放ちます。




