節目にはやっぱり何かしたい
「なんかさー、最近涼しくなってきたよなー」
朝日で光った赤い髪が、その歩みと一緒に上下している。
「もう秋だからじゃない? うちのパパとママも、最近は私の卒業式の準備で忙しそうだし」
その赤髪の隣にある翠髪は、少し長い分より大きな動きでゆらゆらと揺れている。
「えぇ? 卒業って言っても、ただ中学園にうつるだけじゃん。フラウの父ちゃんと母ちゃん、なんでそんなことやってんだよ」
「もー、私が知るわけないでしょー。ユキが自分できいてよね」
「いや、それこそオレがきけるわけないだろ……」
二人の声色は小慣れたものであり、もう長い間続けてきたからこそできる阿吽の呼吸のようなものがある。互いにとても仲が良いのだろう。
おそらく今日だけではなく、今までも毎日こうして学校へと向かっているに違いない、ということが窺い知れる。
さて、ところでそんな夫婦のような信頼関係を持つ二人の間に、今絶賛不純物が混じっているんですが、これはどういうことなんですかね?
え? 不純物ってなんのことだって? そりゃ勿論──────
「おい、グリムからもこの無茶ぶり女になんか言ってやってくれよ〜」
「いや、別に言うこととかないよ? 僕」
そう、俺である。
俺の乾いた笑いは、そのライムグリーンの髪を軽くたなびかせるだけで、決してこの空間から逃れることを助けてはくれなかった。
うぅ……レインとかきてくれねぇかなぁ……無理かぁ。
◇◇◇
ことの始まり(或いは俺の終わり)は、つい数分前のこと。俺はなんてことのない今日という一日をありがたーく享受しながら、幸福を謳歌していた。簡単に言えば、何も特別なことはなく、普通に登校をしていた。
いつもなら、俺は誰かと登下校が被るなんてことはなく、集団下校という概念のないこの世界では、俺は常時、即ちここ6年近く、誰かと一緒に通学路を歩くなんてことは皆無だった。
しかし、そんな『当たり前』も、永遠に絶対であることはできない。所詮は帰納法から類推された結論に過ぎず、例外を一つ用意してやれば、そんなもの容易く崩れ去る。
そして、それはまさしく、今日であったのだ。
まあ、要するに──────普通にユキとフラウに遭遇したのである。
なぜ今日!? と思いもしたが、なんでも今日は去年死んだフラウの犬の命日で、朝早く起きて家族みんなでちょっとした法事擬きを執り行ったらしい。
そしてそこには、その犬と仲良くしていたユキも呼ばれたのだとか。
とそんなわけで、二人は今日はいつもよりも早く登校することができている、ということになる。
家族の犬を想ってそこまでするというのは、元の世界と今生どちらもペットを飼ったことのない俺にはあまり理解できないが、しかし立派なことであるのは確か。
この世界そんな文化あったんかい、と突っ込みたくなる気持ちをグッと堪えて、俺は二人の話を素直に褒めてあげた。
で、そのままさよなら〜、となればよかったのだが、まあ当然そうなるはずもなく。結果として、なぜか今こうして一緒に登校することになっているのだ。
まあこれに不満はないけど、なんというか、もう髪の色も変わり12歳にもなった子供たちと俺が一緒に歩いていると、俺の精神の中の犯罪者メーターがぐんぐん上がっていく感じがするんだよなぁ。通報される恐怖で死にそう。
ガチの子供とは許されるけど、半子供みたいな子とのツーショットって、社会的にアウトっぽい感じするよな……いや、今の俺もガワだけはそうなんだけども。
「んー、にしても、卒業の祝い事か〜。オレ、あんまり考えたことなかったなぁ」
ユキがその細やかな髪を振りながら、感嘆を漏らす。
というか、こいつとはよく遊ぶ仲だが、本当に顔がいい。その知り合いの多さにも納得させられる。なんでこいつが攻略対象じゃないんだ……? いや、あの二人基本的に絡みないけどさ。
「まぁ、ユキはあんまり考えなさそうだよね。そういうの、柄じゃなさそうだよ」
俺がそう言ってふわりとした笑い(いややっぱり暗黒微笑だわ)を顔に浮かべれば、ユキは少しムッとした様子で俺に文句を言ってきた。
「なんだよ、グリムは考えたことあるってのか?」
そのむすっとした表情があまりに可愛らしかったので、俺は続けて少し意地悪をしてやることにした。
俺はその顔を少し演技ったらしくすると、少し誇示するような口調に変える。
「ふふ、勿論だよ。やっぱり誰でも、節目には何かしら大きなイベントを望むものさ」
しかしユキはその言葉を聞いてジロリとコチラを睨み、そしてため息を吐いた。
「………なんだ、ただのウソかよ」
「あれ、バレた?」
あっははー、と俺が適当な笑い声をさも可笑しそうに出すと、ユキは呆れたように半目でこちらを見た。その顔が面白くて、俺はちょっとだけ素の笑顔を浮かべる。
……うん、もしかしたら俺って結構性格悪いのかもしれん。え、今更だって? そんなぁ……。
「ふふっ─────いでっ」
「もー、グリム。あんまりユキで遊ばないでよ! ユキはバカだから、なんでも信じ込んで大変なの!」
俺がしばらくユキの顔でニコニコしていると、フラウが突然頭にチョップをしてきた。別にスキンシップの範囲だし全然痛くはないけど、微妙に怒りがこもっているのが感じ取れる。
というか、普通に自分より高いところからの攻撃はビビる。今はフラウのが身長高いんだから、自重してほしい。
「あ、おい! 誰がバカだ!」
先程の助け舟なんだか追い討ちなんだかよくわからない発言に対してユキが遺憾の意を示しているが、普通に事実なのでこれは誰も助けない。
いや、頭は悪くないんだけど、直情的というか、純粋なんだよなぁ………。
「うーん、それにしても、卒業前かぁ。確かに何もないってのはさみしいかも。私達だけでもなんかやりたいなぁ」
フラウは後ろの騒いでいる奴をガン無視して、話を続けた。
俺も持ち前の演技力で華麗にスルーしその会話に乗る。
「まあ、何かはやりたいよね。……レインとか、誘ったら来てくれるかな?」
「あ、レインちゃんがいるなら、ルーナちゃんとか居てもいいよね! ほら、私たち四人の、成績上位者連合っていうのも良くない?」
「は!? おい、オレも入れろよ! オレも一緒に遊ぶ!」
「えー、らしいけど、どうする? グリム君」
「うーん、こんな五月蝿い人は雰囲気合わないかもなぁ。ほら、ルーナとか苦手そうだから」
「あ、私もそう思う。やっぱりここは四人で……」
「おいー!!!!」
通学路の街中に、ユキの大声が響く。おいおい近所迷惑だろ、やめろよー(棚上げ)
「お、お前らが怒らせてるんだろ!」
「えー、僕は間違ったことなんて言ってないけど?」
俺が薄く微笑みかければ、それが余計神経を逆撫でするのか、ユキはさらに大声で抗議した。
そのやりとりを見て、オレとフラウは互いに笑い合う。うーん、やっぱり正直な子は弄り甲斐がありますねぇ。
………………ていうか、フラウ学校とキャラ違くね? こんな活発だったっけ。
って、このマドンナ、まさかもう演じ分けまでやってんのか。さすが、伊達に友達作りに人生かけてませんわ。やり口がプロなんだよなぁ。
俺は、二人との交流で得られた新たな発見をを地味に喜び、(犯罪者メーターの上昇を感じながら)楽しく登校するのだった。
あまりにこの子達書くのが久しぶりすぎて、何度も二章を見返しました。
と言うことで、子供がたくさんの6年生編、苦しくなりそうですがどうぞよろしく。
よろしければ、高評価とブクマもしてってください……。




