王都進出祝勝会(?)
ついに四章突入です。ただ、まずは別視点から。
「………おお、来たか」
しわがれた声が部屋に響く。
すると、声を発した男と、その周りの人間が一斉に扉のほうへ視線を向けた。
そこには、全身をフードで覆った男が一人立っている。
彼の周りには、軽薄そうな、それでいてどこか常人とは違う雰囲気が漂っていた。
「はは、流石に全員に見られての入場は戸惑いますねぇ」
その男はそういうと、照れた様子で頭を掻き、礼をする。
その所作はその雰囲気に似合わず恭しい。だというのに、それは全く重さを感じさせない、薄っぺらな印象を受ける。
この二つの矛盾した雰囲気を共存させる奇妙な立ち振る舞いは、しかし他の人たちはもう見慣れているのか、特に反応されることもなかった。
「ほら、早く座らんか! そうでないと、この会を始められんではないか!」
先程の声とはまた違う、勇ましい声が発せられた。
声の主は筋骨隆々で、まさに武闘派と言った感じの見た目をしている。腕を組み、しきりに貧乏ゆすりを繰り返すその様からは、苛立っていることが感じ取れた。
どうも、今来た彼をずっと待たされていたことが不服の様だ。
「ったく、爺さんは義理堅すぎるぜ。遅れてきた、それも新参の為に開始時間を延期なんて、威厳もあったもんじゃねぇ!」
大柄な男がそう言って叫んだ。しかし、爺さんと呼ばれた彼は、そのことを特に気にする様子もなく、笑顔で彼を宥める。
「まぁまぁ、十年ぶりの新幹部なんじゃ。少し高待遇をしてやるくらいがちょうどいいわい」
だが、大柄はそのことに未だ納得できない様子で口を尖らせる。
「つってもよー、俺は腹が減ったんだ。なのにこんなヒョロガリに……」
「いや、私も一応人並みには鍛えてますよ!?」
「は? んなもん筋肉のうちに入んねーよ」
「いやいや、ゲバルトがおかしいんでしょう!?」
突如として割って入ってきたフードの男に、ただでさえ悪い機嫌が逆撫でされ、口喧嘩はさらに激しくなる。
それから数分間、必死に割って入ろうとする老父を無視して言い合いが続いた。
だが、それはまた突然に、終了する。
「あーーー!!!! もういい! とにかく食おう! 肉だよ肉!」
ゲバルトと呼ばれた男は急にそういうと、急に机に突っ伏して、言い合いを強制終了した。
「ほら、早く座れよ。おせぇぞ」
「……………………」
あまりに横暴なその振る舞いに、フードの男の顔が僅かに引き攣っている。だが、幸いにもそのことはフードによって隠され、誰にもバレることはなかった。
それから彼は促されるままに円卓の空いている席へと座ると、老父へと始める様に言う。
老父は少しほっとした様な表情を顔に浮かべ、それから気を取り直して言った。
「それでは、パットもきたので───宵闇の忠臣の、王都進出記念パーティーを始めようと思う!」
他に円卓に座る十人から、一斉に拍手が巻き起こった。
それに合わせて老父がえい、と指を一振りすると、どこからともなく皿が飛んでくる。
それらは全員の前に同時に降り立つと、その料理の芳しい香りを漂わせた。
それは、あたりの少し薄暗い照明も相まって、まるで高級料理かの様に見えてくる。(実際は唯の高級弁当。予算がなかった)
「いやぁ、長かったですねえ。サクリシアからここまで、幾つもの都市で支持者を増やすこと苦節数十年! ついに王のお膝元まで来ましたよ!」
「いや、お主はまだ5年しかウチにはおらんじゃろ!」
ははは、とみんなの笑い声が響く。
先ほどまで文句を言っていたゲバルトは、すっかり食事に夢中になって、先ほどから一言も言葉を張ってしていない。その食べっぷりは、宛ら犬である。
だが、他の者も談笑や食事に夢中になり、誰もそのことをつっこむことはない。
そこは、既に先ほどまでのギスギスとした空気は消え去り、和気藹々とした雰囲気が漂っていた。
それからしばらくの間、その状態が崩れることはなく───互いに日頃の疲れを癒す様に、その小さな屋敷で語らい合うのだった。
◇◇◇
パーティーの開始から数時間がした頃のことだった。
もうすでに初めの頃の勢いはなく、皆ゆっくりとデザートを食べている、そんな時。一人の幹部がその口を開いた。
「ねぇ、そういえばさーぁ?」
「………ん? ろうした、アイプ」
返事をしたゲバルトも、そしてアイプと呼ばれた女も、どちらも随分と酔っ払っている。もう呂律も満足に回っておらず、顔もすっかりと蕩けていた。
しかし、辛うじて会話ができる程度の理性は残っている様で、二人はそのまま会話を続ける。
「ふつう、こうゆー会合の時って何時も爺はサプライズがあるけどぉー、今回ってないのー?」
「おお、爺さん、確かにひょうだな! 飯食っててわすりぇてたじぇ! なんかねぇのかよ?」
そこから、完全に酔っ払い二人によるダル絡みが始まり、延々とねぇねぇコールが続く。
二人ともテンションが酔っ払いなので、全く自制できていない。
「ちょ、ちょっと、お二人共! ヴァイサート卿に無礼ですよ!」
その行動に焦ったパットは必死に止めに入るが、しかし二人は全く止めようとしない。力が足りないのだ。それでもなんとかして止めようと周りに助けを求めるが、しかし酒が入っていないのはもう彼のみで、全員頼りになりそうになかった。
「ああ、もう! だからお酒っていうものは!」
自分が着ているフードを皺くちゃにしてまで、なんとか止めようとするパットだが、しかし結局は跳ね除けられて終わってしまう。
「もう良い、パット。お主がそこまで苦心することはあるまいよ」
ヴァイサートはその様子を見かねた様にパットを制止する。
それでも尚止めようとするパットに彼はため息をつく。そして、その顔色を少し真剣なものにすると────
「むん!」
パァン!!
一瞬炸裂音かと思うほどに迫力のある音がなりひびいた。ただ机を叩いただけだというのに。
明らかに非力そうな彼だが、魔法の力でここまで強力な力を手に入れているのだ。
「かかっ、そこまで気になるなら、すこーしだけ、次の計画を聞かせてやっても良いぞ?」
その瞬間、おおっ、と会場にどよめきが漏れる。
なんだかんだ、やはり全員サプライズを楽しみにしていたのである。
なお、パットだけは彼の片腕にある空のワイングラスを見て、心底呆れた目線を送っていた。
「よいか、今度の計画はな───とんでもない規模のものになるぞ!!」
「うおーー!!!!」
「きゃーー!!!」
酔っ払いどもの大歓声がそこらじゅうに響く。
そろそろ深夜もいいところだというのに、随分と騒がしい。いくら防音結界が張られているとはいえ、機密保持もへったくれもない有様である。
「おいおい、一体何すんだよー!」
「そうよそうよ、教えなさーい!!」
ゲバルトとアイプが卿に煽り言葉を送る。
だが、彼は涼しい顔でその言葉を聞き流し、鼻歌まで歌っている。
「んー、そうじゃのー、今度は鍵となるのは教会が……おっと、これ以上は言えんなー?」
ヴァイサートはそんなふうに機嫌良さげに思わせぶりなことを言っては、その度に幹部たちを湧かせ、愉悦に浸っていた。
完全に遊ばれているが、しかし酔っ払いどもはそんなことはどうでもいいという様に盛り上がっている。
彼らにとって大切なのは、矢張り享楽なのだ。元から、本気で聞き出そうとしているものなどここにはいない。ただ、少しふざけているだけである。
皆、今日という一日を精一杯楽しんでいるのだ。
だが、ただ一人、その中に虎視眈々と本気で耳を傾けている者がいることに、彼らは気づかなかったのである。
てことで、ある闇組織の一幕でした。
読んでみて、え、こんな雰囲気なの? と思った方もいると思います。
ですが、冷静に考えればわかるのですが、彼らは闇組織とは言えあくまで革命派閥。言うなれば単なる政党の一つであり、そもそもそれが違法になっているこの世界がおかしいのです。(まあ、国家転覆はふつうに今も重罪だと思いますけど)




