聡い少女レインの提案と前日譚
ページの間のそのまた間のおはなし
それは、サクリシアにたどり着いてから暫くして、街へ入るための大行列を待っている間のことだった。
正直言って、俺は、と言うかみんなも、完全に退屈していた。
すでに待ち続けて三十分は経っているというのにその列は全く終わりの気配を見せず、しかも周りは馬車ばかりで景色も全く変わらないとくれば、さすがの俺たちでも疲れてしまう。
おまけに、街に敷かれた守護結界のせいだか何だか知らないが、なんとここからでは街からの声どころかその城壁すらも視認できないのだ。
あまりにひどい仕打ちだ。いくら防衛のためとはいえ、せめて祭りの日くらい普通にしてくれたっていいだろうに。
まあそんなわけで、こんな暇をするなと言う方が難しい状況に、俺たちは置かれていたのである。
だからこそ、それは、まさに渡りに船のことであった。
「……………?」
あまりに暇すぎて俺が一人手遊びに熱中していると、ふと、周りに防音魔法が敷かれたのがわかった。いつも俺が靄を纏う時に使っているやつである。
俺は少しそれを探ってみた。すると、どうやら敵意があるわけではなさそうなことがわかった。何故ならば、その魔法は俺たち一家だけを囲むように敷かれており、さらに他に何の術式も編まれていないようだったからだ。
というか、どうせこれは父が仕掛けたやつだろう。こんなピンポイントに魔法を使うやつなど、外にいるわけがないのだから。
まあ残念ながら俺自身は演技のために反応できないので、そのことを無視することしかできない。
なので、また俺が一人手遊びに戻ろうとした、その時だった。
「はーい、全員ちゅうもーく」
パン、と父が手を叩いて、俺たち全員へと呼びかけた。
俺と母はその音で俄に我に帰ると、其々の暇潰しをやめて疑問を浮かべた目で彼を見つめた。
よく見ると、彼はいつの間にやら馬車の真ん中へ移動している。先ほどまでは一番端の席でうたた寝をしていたと言うのに、一体どうしたと言うのだろう。
「……突然どうしたの? お父さん」
俺が不思議に思って父に問い掛けると、彼は俺の方を一瞥して、そして後ろへと目を向けた。
俺たちも、それに釣られて後ろを見る。すると、そこには恥ずかしそうに立っているレインの姿があった。
「それはレインちゃんに説明してもらうよ。……できるね?」
父が優しくレインに問い掛ければ、レインは小さくこくりと頷いた。
ちょっと下を向いて自信なさげなのが庇護欲をそそる、可愛らしい点頭であった。
そして、レインは父に背中を押されて前へ出ると、ゆっくりと喋り出す。
少し辿々しい感じではあったが、まあその年齢にしてはしっかりとした喋り方だ。
「わたし、今日は、あ、きのうも、すごく楽しかったんです。でも、ライナスおじさんがいなかったら来れなかったかもしれなくて、それで、それで、みんなとおれいのおてがみをかきたいなって……」
あー、なるほどねー。ここに来られたのはライナスのおかげだから、お礼を言いたいってことか。それで、一緒に俺たちにも手伝ってほしい、と。
なるほど、さっきから妙にこそこそ父と話していたのは、その相談のためだったんだな。そして、この魔法はそのことをライナスへのサプライズにするため、と。
「へぇ、それは素敵! もちろん、私たちも協力するよ! ね、グリム?」
母がそう言って俺の方を見てくる。
質問の体をとっているが、もうやらせる気満々なのが丸わかりである。威圧感が怖い。
だが、別に俺はそんなことをしなくても反対などしない。
その理由は、俺がそこまで子供ではない、と言うこともあるが、まあ単純にレインの健気な姿勢に心を打たれたからである。………いや、ほんとだぞ?
俺が子供の時などは、そんなところまで気が回ることなどなく、自身の境遇を当然のものとしてただ享受しているだけだった。だと言うのに、レインときたら今日のことのお礼に手紙を書こうなんて言っている。
嗚呼、その精神の何と立派なことか、俺はレインを尊敬するぞ!
とまあそんなわけなので、俺たちはみんな揃ってレインの提案に乗っかったのだった。
◇◇◇
「うん、これでいいんじゃないかな! レインちゃんのお手紙は、もう完成でいいと思うよ!」
隣から、母の声が聞こえてきた。どうやら、ようやくレインの書いたやつが完成したようだ。
もう既に、書き始めてから二時間も立っていた。俺は一時間前には書き終えているので、レインはその倍かかったと言うことになる。
子供だから仕方ないのだが、それにしたって長い。一体どんだけの想いを綴ったんだよ。まあ紙は魔法でいくらでも出せるし消せるから、別にいいけどさ!
しかし、横から添削や助言をおこなっていた両親は終始笑顔だったため、結構全員楽しめたようである。……それなら、まあいっか!
なお、そんなに時間を使っても、行列は一向に進むことはなく、未だ守護結界の内部にすら入れていない。
おかしい、城壁の一キロ先まで伸びてるって話だったんだけど………まだ一キロ圏外ってことっすか? ハハッ。
ぶっちゃけ、ライナスはよくこれを一人で待っていられるなと思う。
誰とも話さず何もいじらず、ただ座って三四時間とか、ただの拷問だろうに。
まあもしかしたらなんか別の仕事とか、または玩具かなんか持ってきてるのかもしれないが、それでも耐えきれない長さである。俺なら間違いなく発狂しているぞ……。
なんていうふうに俺が思っていると、ふと、後ろからポンと手を置かれた感覚がした。
俺が振り返ると、そこにはレインの姿が。
「……っ………………」
レインの急なガチ恋距離に一瞬フィバー仕掛けた心を、瞬時に理性で押さえつける。
それから、俺は平然としてレインに話しかけた。
「どうしたのレイン? 手紙ならお父さんに渡したけど?」
しかし、レインは俺の返答に首を振ると、すっと俺の前にある物を提示してくる。
それは、クレヨンだ。よく街中で売られているようなやつ。
「………え? えっと、何が──────」
「いっしょにかこ?」
「……………フゥん?」
おっふ、まずい。急な可愛さに声が裏返った。上目遣いは反則だよ反則……。もう少し自重しろこの小悪魔め!(八つ当たり)
と、まあそんなことは置いといて、どうやら俺と一緒にお絵描きをしたいらしい。何を描きたいのかは知らないけど。
………ま、なんでもいっか! レインと遊べるならなんでもオッケーだぜ!!!
てな訳で、俺たちは手紙に続いてお絵描きに勤しむこととなった。
両親はそれを微笑ましげに見つめて、また二人の会話に戻っていく。
俺たち二人は、親友水入らずでせっせと絵を描くのだった。
尚、俺は絶望的に画力がないので、お絵描きに関しては全く演技をする必要がなかった。
くそう、これが彼らに初めて見せる素とか最悪だよ………。
あれ? よく考えたらライナス帰るからこれ渡す時間ないじゃん。
…………まあ、報酬と一緒に馬車に吊るしとけばいっか。
手紙が突然消えることになるけど、竜災のせいで無くなったってなればバレないだろ。多分。
レインの手紙を読んだ反応↓
グリム(これからも、ってのは、やっぱ態となんかなぁ……こわっ)
ということで、前回の手紙についてでした。
レインがメインの回でしたけど、グリム視点です。まあレイン視点はどうしても作るのが難s…………現代語訳通さなきゃなので、ダルいんですよね!
本当に裏話の裏話なので、メッチャ適当に書いてますし、話の盛り上がりも何もありません。まあ日常回ってやつですね。三章はこういうの少なかったので偶にはいいと思います。
それと、手紙の内容のことですが、もちろんこれは意識的にやってます。といっても、ライナスが演技ってことに気がついたというより、どこかよそよそしいことに気付いたんですけど。
流石のレインでも、事情を詳しく聞くこともなく、全て仕組まれていた、なんて結論は考えつきません。逆にいえばしっかり調べれば勘づかれるってことですけど。
まあとにかく、ライナスにもっとみんなと仲良くしてほしい、と彼女なりに考えた結果がこの行動です。でもお礼を言いたいって言うのも本心です。えらい。
因みにグリムはめっちゃこのことを怖がったし、警戒度はすごく上がった。




