大騒ぎ的なフェスティバル
前回の続き
「はい、お疲れ様! ちっちゃいのに偉いねぇ〜!」
俺は石をおじさんから受け取ると、そのままレインへと手渡した。
石を喜んで見つめるレインを横目に、俺は幾枚かのお釣りを受け取る。
まあ、大人である俺がいるので当然といえば当然だが、初めてのお使いは無事に終了した。
それから、なるべくレインにやらせるように促して、レインの成長を観察しては見たが、もうすっかり大きくなっているようで、結構よくやれていた。
何回か言葉に詰まったり、金の計算ができていなかったりと問題点はあったが、小学一年生にしては上出来だろう。
ああ、レインのことがどこか誇らしい。これが、子をみまもる親の気持ちなのだろうか?
お釣りをさっさと財布にしまうと、俺はもう行こう、とレインの手を掴む。
この人混みだ、はぐれてはいけない。それに、これからのことに考えるとその方がいいだろう。
レインはその手を握り返すと、そのまま大通りのほうへ進み始める。
「それじゃあ、祭り楽しんでな〜」
背後から、石屋のおじさんの声が聞こえてくる。
レインは、それに手を振ふり返していた。
実に微笑ましい光景だ。
可愛い美少女と優しそうなおじさんの、日常の一幕。
見ていて心癒される。
だがしかし、この光景は、もはや、風前の灯である。
(………きたか!)
突如として、地面が揺れ始める。大きさは相当、地盤が硬いこの地域ではまずない揺れ。
そして、人々が驚く間も無く地面が割れ始めた。
揺れに地割れのダブルパンチ。その瞬間、ようやく住民は、これが災害であると気づく。
周りから湧き上がる悲鳴は、次第に大きくなって行った。
「逃げろー!!」
「たすけてーー!!!」
「落ち着け、馬鹿野郎!」
「ああ、店が壊れちゃうよぉ!!」
その災害は、どんどんと建物を倒し、壊し、人を襲う。
民は逃げ惑うが、ここは人が集まった狭い道。パニックになり四方八方に動こうとする人々は、互いが互いを押し合って、身動きが取れなくなっていた。
幸いにして、この祭りの日ゆえに建物の中に人は少なく、家の倒壊に巻き込まれた人は少なかったものの、代わりに降ってきた瓦礫などで怪我をするものが多い。
だが、こんなものはまだ序の口だ。
地震が少しずつおさまりつつあった頃、急に、空から大きな音がした。
それは、遠吠え。と言っても、獣の可愛らしいそれではない。
はるか高みから、人々を見守るはずの竜の遠吠え。
もちろん、人々は誰一人としてそんな声を聞いたことはない為、あるものは悪魔だと言い、あるものは雷鳴だと叫んだ。
または、ある程度の魔法知識、または魔法行使技術を持つものは、こう悟っただろう。
「今、明らかに魔素の量が少ない」と。
そう、竜は、逆鱗の暴走によって失った魔力を、四方八方から吸収することで補おうとしているのだ。ただ、そこに意識はないけれど。
その結果として急激に下がる魔素濃度が、こうして災害となって影響を与えているのだ。
そして、気づけば空から青色は消えている。
あれほど快晴だった空は、一瞬にして曇り空へと変わってしまったのだ。
今にも、雷や雨が降ってきそうである。
そして、そんな混乱の中、道の中で小さな影が二つ動いていた。
◇◇◇
うん、ライアンがお使いとか言い出したから、こうなるのは知ってたよ。
ほんと、ゲームのまんまだ。ちょっと親と子がはぐれる理由強引じゃね? とかいって当時に難癖をつけていたのを覚えている。
そのあとにいつ来るのかも知っていたから心の準備もしていたし、まあ災害自体に驚くことはないんだが………
あー、くそ、これやばいだろ!!
災害が起きたらパニックになるとは思ってたけど、まさか身動きが取れないほどだとは思ってなかった!
こんなの、ライアンの魔法がなきゃ圧死してたかもだぞ!
俺は、自分が原因な癖に、ぐちぐちと街の様子について文句を言っていた。
なんて奴だという話だが、ここら辺はゲームからは読み取れないので、どうしても初見になってしまう。だから文句が出るのは仕方がないのだ。
しかし、文句ばかりを言っていても仕方がない。
この魔法だって、こう極端に魔素が減った状況ではいつまで持つかわからないのだ。
ライアンの魔法は馬鹿みたいに変換効率がいいことは知っているが、念の為、早めにここから抜けねばなるまい。
俺は大人たちの歩みに押しつぶされそうになりながら辺りを見回す。
すると、足の隙間を通ってなんとか抜けられそうな路地を見つけた。
「レイン、あそこ!」
俺はそこに指を指してレインの顔を一瞥すると、掴んでいた手を持って走り出した。
「きゃっ!」
急に腕を引かれたので少しレインが痛そうに声を上げる。
だが、ゲームの通りの反応だし、何よりゆっくりすることはできないので、俺は構わず歩みを進めた。
「痛くても我慢して! 大丈夫、僕がついてる!」
俺はレインを励ましながら、どんどんと脚の隙間を縫って進んでいく。
なるべく焦らず、レインが手を離さないように。だが、それでもできるだけ早いスピードで。
正直、レインもなかなかしっかりしているし、あんまり助ける必要ないんじゃね? と思わないでもないが、それでも、ゲームとか関係なく、こんな所を子供一人で歩かせることはできないだろう。
だから、しっかりとその手を握って、俺は駆けていく。
そして──────
「や、やった!」
ついに、その路地へと辿り着いた。
ここは、大分狭い路地だからもう大人は入れない。というか、路地というよりも家の隙間と言った方がいいかもしれない。それほどに、狭い通路だった。
俺は、とりあえずここが安全で、家も倒れることがなさそうなことを確認すると、レインの方を振り向く。
それから、なるべく安心させるように、優しい声色と笑顔で言った。
「ハァ、ハァ、もう大丈夫だよ、レイン──────」
「あっちだ!!! 早く!!!」
ふと、遠くから声が響いた。そしてその瞬間、俺の体は凍りつく。
こ、この声は…………!!!
俺は、急いでその声の方向、つまりは背後へと振り向いた。
そこにいるであろう『二人』を、その視界に収めるために。
振り向くと、そこにはここへと走り込んでくる子供が二人。どちらもフードを目ぶかにかぶっており、その顔はよく見えない。
片方がもう片方の腕を掴んで、急いだ様子で走っている。
そして、中に突っ込むように中へと入り込んできた。
二人は勢い余った様子で地面に倒れ込み、ザザザザザ、という音を立てながら、俺たちの足元へと滑り込んだ。
「だ、大丈夫?」
レインが心配そうに声をかける。
すると、腕をひいていた方の子はその声に気づくとパッと顔を上げた。
その瞬間、顔のフードがハラリと落ちて、その顔が露わになる。
「ああ、先客がいたんだね。ごめん、僕らもここに、入れてもらっていいかな?」
美しい金髪に、王族特有の深い青の瞳が、そこにのぞいていた。
(や、やば………………)
レインとルーナにすっかり慣れ、最近サボり気味だったオタクメーターの急激な上昇を感じる。
今、俺には、大量のてぇてぇの波動が流れ込んでいた。
そう、彼こそは、このゲームの基本ルートにして、公式最推しキャラ。
我が王国の王太子にして、長男にして、王位継承権第一位、バルテクス=オート=レクスピリアその人であった。
ついに登場王子様。
一番のイケメンにして、あまりに公式から推されすぎたせいで微妙に人気が低い人。
制作班「もっと好きになってほしかっただけ。反省も後悔もしていない」
オタク「公式がここまで必死だとさ、なんかこう……冷めちゃうよね〜」
具体的にいうと、他キャラの攻略失敗すると必ずこいつとのエンドを迎えるし、こいつとのイベントは全ルートで必ず一回はある。
しかも肝心の攻略は、イベント数が格段に多いために簡単すぎて、むしろ失敗する方が難しい。ぼく夏のRTAレベルまで行かないと攻略できてしまう。




