お祭り的なフェスティバル
王様と実行委員長が喋るだけのかったるい開催式典も終了し、そろそろ太陽も高く登り始めている。
俺たちは、いくつかの主要な店を回り終え、ついに祭りのメインコンテンツ、出店通りへとやってきた。
「わー! すごーい!!」
レインが、その目を輝かせる。右を向いて左を向いて………そこらじゅうに所狭しと並ぶ出店へ、忙しそうに視線を動かしていた。
そしてまた、かくいう俺も同じようにはしゃいでいる。お前は上京したての田舎者か、と言えるくらい挙動不審だ。
子供っぽいと思うかもしれないが、仕方がないだろう。
だって、そこらじゅうに、今まで見たこともないようなものから、ゲーム内にあった不思議アイテムがずらりと並んでいるのだ。
それといったら、まったく少年心が刺激されることこの上ない! どうしてもいろいろなものに目移りしてしまうのだ。
両親がそんな俺を見て温かい目をしているが、気にすることではない。
前世で世間からの冷たい目に慣れている俺に、最早精神攻撃は通じないのだ!
……………いや、やっぱ少しキツイっす……。
と、俺が若干の精神ダメージを負っている間も、祭りの騒ぎはその激しい勢いを保っていた。
あちらから活発な男の客引きの声が聞こえたかと思えば、負けじとこちらからも荒々しい声が聞こえてくる。
そして、店に来た客を逃すまいと必死に商品をアピールして、さらに値下げ交渉などを行うのだ。
それでなんとか満足して帰ってもらったら、また新しい客を求めて叫び始める。
まさしく商「戦」と呼ぶのに相応しい、店主たちの激しい攻防が繰り広げられているのだ。
なお、両親はそんな雰囲気などどこ吹く風で、あくまでもマイペースに街を歩き、買い物をしていた。
うーん、変な人たちだとは思うが、まあ浮世離れしてる人たちといえば、かなり浮世離れしてる人たちだからなぁ。
「ねぇ、ねえ」
俺がキョロキョロと目を回し歩いていると、急に、レインが俺の腕を引いてきた。
見ると、レインはとても綺麗な目をした顔で、俺を見ていた。
「わたし、あれほしい」
「……え? えーっと、どれのこと?」
「あの、キラキラしてる石がほしいの」
そう言ってレインは、少し遠くの方を指差して、固まってしまった。
ふーん、キラキラしてる石かぁ。
てことは、ちょっと遠くて見にくいけど、レインが欲しいのはあの店のだな。えー、店名は……「御石屋」か。
ふーん、誕生石だったり単純に綺麗な石もあるな。結構品揃えいい店じゃないか。
お祭りでやる内容かどうかについては疑問に思うが、お土産に使えるから、まあいいだろう。
それから、別に買ってもいいとは思うのだが、俺が即座に許可を出すのも変なので、まず一回とぼけてみる。
「石が欲しいの? どうして?」
とりあえず俺が男の子らしくそう返すと、レインは単純に「綺麗だから」と返してきた。
もうオシャレでもしたくなったのかと思って、内心微妙に動揺していたから、まだまだ子供らしい答えが帰ってきて少しホッとした。
「でも、僕に行っても買えないから、お父さんに聞いてみよっか」
「うん、わかった」
レインはそう言って頷くと、トテトテ、とした可愛いリズムで走り、ライアンの脚を掴む。
ライアンが不思議そうに下を見下ろすと、レインはすぐに交渉に入った。
「あれ、かってください!!」
レインは目を輝かせ鼻息荒くそういうと、ビシッと先ほどの店の方を指差した。
まあ、店が多すぎて、何を指したのかがいまいちわからなくなっているけど。
急なことだったので、ライアンは驚いているようだったが、しばらくするとすぐに調子を戻した。
すると、レインの言いたいことをなんとなく理解したのだろう。ライアンは屈んで彼女に目線を合わせる。どうやら彼女の話をちゃんと聞いてあげることにしたようだ。
レインが一通り自分の言いたいことを話し終えるまで、ライアンはしばらく黙ったままだった。
石が、とかお金が、とかレインがつっかえつっかえで話しているのを、一生懸命解釈して、話を遮ることなく聞き切った。
レインは話し上手ではないので結構冗長的だったが、そこを優しく待ってあげられる辺り、やはり彼は親に向いているのだろう。
「よし、わかった。あの石が欲しいなら、俺はぜんぜんお金は出す」
話を聞き終えたライアンがそういうと、みるみるうちにレインの顔に喜びの色が広がっていく。
うーん、かわいい。相変わらずずっと笑っていて欲しい顔してるわー。
特にあの瞳がいいよね、キラッキラの純真お目目がいい感じ。さすが乙女ゲー。
「だが、一つだけ条件がある。それがダメなら、石はダメだ」
そう言うとライアンは、人差し指を立ててその顔の前に突き出した。
レインは不思議そうに首を傾げたが、しかし石は欲しいので、深く考えず頷いた。……そう言う後先考えない行動、嫌いじゃないけど気をつけてね。
「もう二人とも六歳、なんなら七歳にもなろうってわけだし、丁度いい。お金は渡すから、大人抜きで、買い物をしてみろ」
………あ。
「うん、できるよ、それくらい。グリムくんもいるし。そうだよね?」
あ、ふーん。そういやもうお昼っすねぇ……。
あー、あー、ちょいと魔法の練習とかしとくかぁ?
「……おーい、グリムくん、どうかしたの? なにかあった?」
……はっ! ちょっと衝撃で意識が持ってかれていた!
えー、話は確か、初めてのお使いか?
よし、なるべくなんでもない風に装って……
「ご、ごめん。なんでもないよ。もちろん、一緒に頑張ればお使いくらい余裕だよね」
俺はなんとか誤魔化そうとしてニコッと笑顔を浮かべた。
が、もう誤魔化し方がひどい。よく漫画とかで、こう言うあからさまな誤魔化しをなんでやるのか、不思議に思っていたけど、土壇場になるとやっぱみんなこうなるんだなぁ。
「……? ふーん」
うわぁ、レインにちょっと印象付けちゃったなぁ。
まあ、どうせここはヒントイベントなんだから、ちょっとくらいはいいんだけどさ。
「よし、偉いな二人とも! それじゃあ、二人にはこれをあげよう」
そう言うと、ライアンはゴソゴソと腰の鞄を漁り始めた。
そして、朝かなんかの袋を取り出すと、それを俺の手に持たせる。
「グリム、お前は男だからこれを預ける。ここにはお金が入ってるし、使い方も自分で決めていい。くれぐれも盗まれるなよ。俺はお前を信じて渡してるんだからな!」
どうやら、これが軍資金のようだ。
重さはそこそこ。と言ってもほとんどが小銭なので、まあ多過ぎない額しか入っていないだろう。
だが、店の石を買うだけなら、十分である。
父親が信じてくれているのだ、大切に管理して、買い物に行こう。
「それじゃあ、大人はこの通りの先の広場で待ってるから。買い物が終わったら、そこにくればいい。わかったな?」
レインがしっかりと頷いたのを確認してから、おれも首肯する。
なんか、結構離れた位置で待つんだなぁ、などと考えたが、通りにいても通行の邪魔になるので仕方がないのかもしれない。
心配とかにはならないのかなぁ。こんなに人がたくさんいる中に幼子二人放り出すなんて。
まあ、今一瞬の間にめっちゃ俺らに防護魔法を付与してきたから、一応安全は確保しているようだ。
これが破られるようなことはほとんどないだろうし、それもあって、ライアンはこんなことをやることができるのだ。
あ、あと今の魔法さばきは普通に凄かったので、後で盗もうと思う。実父の技だし、別にいいよね!
そんなわけで、俺とレインは、石へと向かってスタスタと歩いて行った。
子供二人の初めてのお使い(片方精神年齢20超え)




