嬰逆鱗 その4
光の矢が瞬き、そして竜へと降り注ぐ!
キャー! 超爽快! カッコイー!
と、見た目だけならなるところなのだが。
……うん、キツい。
いや、当たり前と言えば当たり前なのだが、この魔法めちゃくちゃ発動が大変なのである。
というのも、まずそもそも魔法の同時発動が面倒である。
この身を隠す魔法だけで既に二重なのに、それに数十も重ねて発動しているのだ。キツくないはずがない。
いくら発動したら終わりな分、常時発動より格段に楽な攻撃魔法とは言え、流石に頭使いすぎて死ねる。
一応今は本来の魔法より威力を落として、その分を神術式魔力固定変換と数で対応しているものの、早速ガタが来始めているのだ。
それに、単純に疲れる。
当たり前だが、俺は竜に対して常に魔法を打ち続けなければならない。
つまり、その分大量に運動をしなければならないのだ。
魔素の吸収、排出はそこまで疲れることではなく、体力はあまり必要ないのだが、叫んで撃ってまた吸収、のサイクルを繰り返せば、やはり消耗はしてしまう。
肉体は子供だというのにこんなことをしていたら、過労死ルート直行間違いなしだ。
しかもそれに狙い、角度、etc…と色々微調整が混じっているのだから本当に大変だ。
グリムの天才的頭脳や回転の速さをフルで活用しても、もうパンクしそうである。
それに、なんというか、これ絶対正規ルートじゃないよね感が半端ないのもまた精神的に疲れる原因になっている。
だってこんなに疲れる攻略絶対グリムやってないし。
もうなんか、もっと楽なルートあったんじゃないかなっていう後悔が俺を襲うわけよ。
効率重視のゲーマーにとって、この怠さ、もどかしさは結構負担になるのだ……。
と、弱音を言ってもしょうがない。もうここまで来たのだからやるしかないのだ。
そう思って、俺は自分を奮い立たせた。
そんなふうに俺が魔法を打ち続けていると、土煙の中からキラリと、光るものが見えた。
あの、一応試練の目的でもある光の球である。
完全に土山に覆われていた筈だが、この光の矢の爆発で掘り起こされたらしい。
まあ、取り敢えず喜ぶ演技はしとこうかな、なんて思っていると、それより先に竜が動いた。
「貴様! ついに球を掘ったな! これ以上球には近づけるわけにはいかん。我も本気でいかせてもらおうか!」
………え、もしかして第二形態とか言わないよね?
「さあ、試練に打ち勝ってみせよ挑戦者! 我が魔法、見せてやろう!」
あ、第二形態ですわこれ。
竜は、この試練が始まったときに見せたように翼を広げた。
そして、すっと目を瞑る。
それはまるで……って、これ前とおんなじだよ。
本来第二形態の力である魔法を、まさかの初手でやっていたとか言う竜の狡い所がまた明るみに出たが、まあ気にせず行こう。
ただ、どうやら今回竜が使った魔法は状況を変化させるようなものではなく、単純な攻撃魔法らしい。
その証拠として、特に地面の揺れも魔力の流れも感じない。
これは人間と竜種などの精霊連中との大きな違いなのだが、精霊は基本的に自らの体の魔素を魔法に使う。
つまり、体外から吸収する必要がないため、外に対して働きかけるような魔法でない限り、特に周りに魔力の動きがあったりしないのだ。
まあそんなわけで、今回は、ただ単純に攻撃魔法を使ってくるのだと予想はできるのだが──────
不味いな……。
それが、俺の感想だった。
そう思った理由はいくつかあるが、一番大きな理由は、間違いなく戦闘になる、ということだ。
いっている意味がわからないだろうか?
こんな戦場に来ておいて何を今更言っていると思うだろうか?
だが、これは俺の目下の大きな問題であり、今回俺の頭を最も悩ませたものなのだ。
俺は、間違いなく一般の善良市民である。
いや、善良、というところはどうか知らんが、少なくとも一般の人間であることには変わりない。
いくら俺がこんな世界の人間の、さらに選ばれし天才に憑依しているとはいっても、本質だけは、決して変化していないのである。
それは俺が俺でいられているということでもあるのだが、しかしまだ俺のままであるということでもある。
そう、結論を言えば、俺は戦闘においてズブの素人なのである。
痛いのは怖いし、死ぬのも御免だ。
怖いやつからは逃げたいと思うし、君子危に近づかず、がモットーだ。
そんな俺にとって、戦闘というものはとてつもない大きなハードルとなる。
というか、多分『グリマニア』もそうだったはずだ。
グリマニアは天才ゆえに、戦闘といった戦闘が少ない。
学園での戦いもある程度の規則に従ったものだったし、暗躍という形で動いていた都合上殺し合いなどもない。
今回のような騒動は、それこそ己の才でなんとかしてはいたものの、基本的には戦闘はしたことがないのである。
つまり、基本的に身体能力しか受け継いでいない俺にとって、戦いを何とかする、というのは本当に難しいことなのだ。
だからこそ、俺は今回策を練ってきたし、なるべく早期決着をつけようと努力してきた。
だが、今竜は明らかに戦闘状態。そして策もまだ完全ではない。
これから少しの間、俺はあの竜に対して時間稼ぎをしなくてはならないのだ。
いや、無理だろぉ……。
とは弱気な俺の言葉。
だが、やるしかないのである。そう、やらねば本当に全てが台無しである。
レインの将来、国の将来、世界の将来、全てが決まるといっても過言ではないのだ!
なにより、俺のプライドが、ゲーマー魂が叫んでいる!
“ここで投げたらもうゲーマーじゃねぇ”と!!!!
よって俺はやる。完遂してみせる!
体に多少の傷などついても構わん、元より俺には完勝など無理だったのだ!
『竜の本気など高が知れているが……まあいいだろう。ならば俺の魔法、受けてみるがいい。貴様の魔法など、いとも容易く打ち破って見せよう』
俺は、堂々と啖呵を切る。
怯える心に鞭打って、震える声を調えて。
それを聞き、竜も不敵に笑う。
それは自らの絶対の自信の表れか、それとも人間の喚き声への嘲笑か。
いずれにせよ、竜は挑戦を受け取った。
竜の翼は煌々と輝き始め、その光は、まるで翼が光となって消えてしまうのではないかとすら思わせるほどに強い。
その光に照らされ逆光となった竜の姿は、目の前の挑戦者のように黒く染まっている。
そして、翼の輝きが最大となり…………
『白銀の陽光!!!』
「我が息吹を喰らうが良い!」
二つの迸る閃光が、激突した。




