嬰逆鱗 その3
ちょいと更新遅くなりました。なぜか、と言われたらちょっと答えらんないですけど。
そんなに不真面目な理由じゃないんで許してください。
布から放たれる光が少しずつ弱まっていく。
それはその魔法の行使が終了したことを意味し、それは付与系魔法の特徴でもあった。
「………ほう、実に面白い魔法だな。どういう仕組みだ? 人が分裂するとは」
竜はその光景に感嘆の息を漏らす。
そう、魔法「合わせ鏡」の効果は分裂。一つは二つに、二つは四つに増殖する。
これは複数を同時に使えないことが不便だが、それを除けば恐ろしく強い魔法である。
しかし、竜はそれを恐れることなくこう言い放った。
「確かに面白い……が、しかし貴様が2人に増えたとて何にもならんぞ。その程度では結局、この球には触れられぬ」
竜はそういうと、自身が立つその土山をドシン、と踏みつけた。
それは、強者ゆえの上から目線。
ちょっと腹が立つが、しかし本当なのもまた事実である。
──────だが、俺は笑みを崩さない。
『ハッ! 一体いつ俺が「これで終わりだ」なんていった!』
その言葉を聞くなり、急に竜の顔つきが変わる。
そしてチラと俺の隣を見やると、直ぐに戦闘体制をとり、再び先ほどのように体をかがめた。
どうやらやっと気づいたらしい。俺のバッグの大きさに。
俺がバッグをひっくり返すと、そこからこぼれたのは大量の布──────それも先ほどのものと同様の魔法陣が縫われた──────だ。
そう、この魔法は同時発動は不可能だ。……では、効果の維持自体を別の、例えば魔道具なんかにさせてみたらどうだろうか?
その答えは、発動させてみれば明らかになるだろう。
俺はさっと手を翳すと、全ての魔法陣に魔力を流しこう唱えた。
『合わせ鏡・二十』
すると、すぐさま布に縫われた魔法陣たちは光り輝き始め、そして一枚目同様に、俺の分身を映していく。
そして光が完全に消えた時、そこには二十人の俺が立っていた。
黒靄に包まれた二十個の人影、というものはなかなか唆るものがある。
まさしく悪役! といった感じなのでちょっとかっこいい。……………え、俺だけ? あ、そーですかー……。
『流石のドラゴンも、二十人から同じように攻撃されたら困るんじゃあないかと思うんだが、これでどうだ?』
二十人の俺─────といっても声が出せるのは俺だけだが─────が全く同じ動きをしながら、竜に話しかける。
傲慢に、上から見下すように、自分は優位なものであるとして。
しかし、肝心の竜は、この魔法の発動の時から表情は変わっていない。ずっと警戒した様子で、苛立たしそうにこちらを睨んでいる。
正直、相手がどれほど警戒しているのか、とかが分かりにくいので、なるべく素の感じでいてもらいたいが、どうやらそうもいかないらしい。
もう俺は、完全に試練の挑戦者としての実力がある、と判定されてしまったようだ。今もちょっと挑発してみたが、もう怒りを露わにすることも無くなってしまっている。
「…………もう御託はいい。さっさとかかって来い」
竜は真っ直ぐ俺を見据えると、今までにない冷淡さで声をかけてきた。
そこにはもう何の感情も浮かんでいない。すっかり事務的に、機械的な声色である。
『ふん、反応なしとはつまらんな。……まあいい。それじゃあ貴様のお望み通り、こちらも色々やらせてもらおうか』
とりあえずそのことについて適当に詰ってから、俺は攻撃準備に取り掛かる。
この魔法は、実は思ったよりも自由度が低い。基本的に名前通り「合わせ鏡」なので、俺と全く同じことしかできないのだ。
まあ虚像でないだけマシではあるのだが、しかしもう少し自立とかしてほしいものである。いやそれはそれでスワンプマンになりそうで怖いけれども。
そして、そのためにあの高速攻撃はできない。
同じ動きしかしない高速攻撃など、それこそ先ほど同様見切られたら一網打尽である。なんなら数が増えた分動きづらいまである。
そんなわけで、攻撃するなら普通に魔法で、ということになるわけだ。……こらそこ! 地味だなぁとか言うんじゃない!
とりあえず適当に作戦を決めたので、俺は早速魔法の発動を始める。
竜の方へ手をかざし、しっかりと魔素を吸収する。そして体内で魔素を変質させていく。
しっかりと、確実に頭の中でイメージをして…………よし、いける。
まず大きく息を吸い込んだらば、魔力と共に、放つ!
『喰らえ! 白銀の陽光!』
俺がそう言うと、かざした手の先から急に光の筋が出現した。
それは美しい煌めきを放ちながら、竜の方へと放たれていく。
そして、俺の分身である「彼ら」もまた同様に、その光を放った。
その光もまた、その先にいる竜へと向かっていく。
「────ッグオ!?」
最初の数発は何とか避けていた竜だったが、五、六発目の光には当たってしまう。
そして、光が当たったところを大きな爆発が襲った。
避けられた数発も地面に着弾すると、大きな土埃を上げて爆ぜる。
その土埃も次に着弾した光の爆風で再び巻き上げられ、どんどんとその煙は大きくなっていった。
さて、竜には何発か命中したようだが、しかし全く効いた様子はなく、ただ悠然とそこに立っている。
実は運良く逆鱗に当たってくれないかな、と期待してたのだが……うん、かすりもしてないね。結構ちゃんと狙ったんだけどなあ。
竜は体をほぐすように震わせると、再び俺に顔を向ける。
「成る程、光の矢か。実に美しいが、もしも当たれば、その美しき輝きからは考えられぬような威力がある。いやはやまったく、素晴らしく陳腐な魔法である」
竜曰く、この魔法は陳腐らしい。まあ結構昔からある魔法だから当然の評価だろう。
それよりも、取り敢えずまた話をしてくれたのは進展だ。
話をしてくれればくれるほど意識を誘導しやすいからな。集中されると、作戦が作戦として機能する前に普通に負ける。この調子で饒舌になってもらえればいいのだが。
ま、ひとまずはこれを続けるかなー。と言った感じで、俺は再び魔法を唱える。
『白銀の陽光』
その瞬間、俺の背後に数十の、いや、その二十倍の数の大量の光が現れた。
あまりの数の多さに、その煌めきは、まるで小さな点滅するライトが大量に舞っているかのように見える。
『どうしたドラゴン、顔が固まっているぞ? ──────さあ、第二ラウンドの始まりだ』
今、一斉にその矢が放たれた。
実は技名や人名はそんなに適当には決めてません。何か縁のある物のもじりであったり、言い換えであったりが殆どです。
正直、話考えてるよりも名前考えてる時が一番楽しいですね。




