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異世界クズ転生 〜原作のままに生きていく〜  作者: しゅー
第三章 それは、竜災に非ず
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イベント「超越者同士の対談」


 「ふぅ、今日は夜風が気持ちいいな」


 ある宿の屋根の上から、そんな声がした。見れば、黒い靄が、ポツンとそこに浮かんでいる。

 黒い空よりもさらに暗い、黒洞々とした闇が、そこにはあった。


 もしこの光景を見るものがいれば、きっと瞬く間にサクリシアの怪人として都市伝説になってしまうだろう。

 だが、祭を明日に控えるこの状況において、人々は英気を養うか、準備に勤しんでいる。悠長に上を見上げる者など、どこにもいなかった。

 実は彼は、特に考えなしにこうして立っているので、それは幸いであったかもしれない。


 「いやはや、月がこんなに明るいから、恐らく視界には困らんだろう。ここが東京みたいなネオン街じゃなくてよかったよ」


 ふと靄は上を見ると、そんなふうにつぶやいた。本来知るはずもない世界のことだ。

 しかし、それは今宵の出来事に直接は関係ない。語る必要もないだろう。


 靄は─────厳密に言えばその中の少年は─────ふっと微笑んだ。そして、ゆっくりとしゃがみ込む。

 少しの間その姿勢を保つと、靄は少しずつその形を崩していく。術者を取り巻く魔力が乱れているからだ。

 乱れた魔力の流れる方向は頭部。つまり、魔力の出どころはその真反対である足先だ。


 どんどんと足先に魔力が集められていく。

 一箇所に集中させるために高度に圧縮されたそれは、見る人が見れば恐ろしい兵器のようにも映ったかもしれない。


 だがまあ、今回は単純に魔力を圧縮しているだけで、特に恐ろしい術を使おうとしているわけではない。

 その使い方は、専門的には『結界系』と呼ばれている方法だ。魔素を何にも変換せず、ただ不可視の物体として放つもの。

 まあ、術者本人はまだ知らないことではあるが。


 だがそれを知るにせよ知らないにせよ、結果は変わらない。

 世界には因果があり、そして因はすでに決定している。ならば、そこにいかなる干渉があろうともう果が変わることはない。

 つまるところ──────


 「『跳躍(ジャンプ)』」


 魔力は弾け、靄ははるか天空へと跳躍する。


 ◇◇◇


 「ひゃっほー! 爽快爽快!」


 既に地は遠く、街の家々に灯る灯りは、それこそ星空のようである。

 そんな中、鳥をも射落とさんとする勢いで、一つの影が空を跳ねていた。


 「いやー、絶景かな絶景かな。あふれる大自然に灯る微かな人口の明かりだなんて、随分とロマンチックじゃないか。ふふふ、空まできた甲斐があったぜ」


 とても遠くまで来たので、もう靄は解除されている。

 そのため、顕になった小さな少年(本来)の姿で、少年、グリマニアは笑った。


 やったことは至極単純。

 いつぞや警官から逃げるのに使ったあの魔法を、限界まで魔力を圧縮してから使用したのだ。勿論、気圧対策に体を魔力で覆って。

 その結果、本来なら半日かかると言われるこの登山を、なんと一時間に短縮できるのである。


 ……短くなりすぎと思った方、正解だ。

 そう、あの山は本来そこまで大きい山ではない。それこそ、四時間もあれば山頂まで行くことはできるだろう。

 ただし、それは()()()()()()の話。


 あの山は竜が住まう。

 それ故に、周囲の魔素濃度はだいぶ濃くなってしまっている。つまり、魔物がとんでもなく多いのである。あの山に住む奴は普通の獣の方が少ないと言われるほどに。


 「おーおー、夜行性の魔物どもがウヨウヨいるぜ。いやぁ、あんなとこ絶対登りたくないね〜」


 蝙蝠に鳥、猫、猪、エトセトラエトセトラ……魔素を栄養源とする魔物たちは、今日も元気に魔素の奪い合いをしている。

 そんなわけで、ただでさえ凶暴といわれる魔物が、そんな状態で戦っているのだから、脆弱な人間などはゆっくり慎重に山を登らざるをえないのである。


 話が逸れたが、とにかくグリマニアは高速で山を登って行っていた。

 シャラシャラと、腰に下げた道具を鳴らしながら。


 ◇◇◇


 「……何者だ。名を名乗れ」


 竜は、背後の侵入者の足音に気づくとゆっくりと目を覚ました。

 それは、竜にとっては突然の来訪であったが、しかし先ずはその威厳を崩すことなく、相手への礼儀を求めた。


 『ククク。なぜ俺が教えねばならない? 大体、そういう時は相手から名乗るものだろう」


 しかし、侵入者は一切動揺せず返答してきた。それも、竜の質問にすら答えずに。

 竜はそれに少し苛立ったように顔を顰めると、のそりと身体を起こし、そして振り向くことなく言い放った。


 「フン、我の名を知らぬものがわざわざここに来るわけがない。そもそも、ここは我が住処である。なぜ我が礼儀を守らねばならん」

 『その程度のことで怒るなよ。……やれやれ、これでは、祭りの時期は威厳がなくなるという噂は本当だったとみえるな?』


 見下したような口調で放たれる煽り言葉に、竜の顔つきはさらに悪くなる。

 そして、大義な様子でその不遜なる侵入者の顔の方へと振り向いた。


 しかし、その目の前にいる侵入者の姿に竜は目を丸くしてしまう。


 「成る程。先程から妙に声が掠れていると思えば……御主、魔法使いか。そのような黒衣装に身を包んで、余程正体を明かしたくないのだな」


 そう竜が侵入者を考察すると、彼は肩をすくめる。


 『ああ、こっちの事情を汲み取ってくれたようで嬉しいよ。あー、確か、アポカリプスとか言ったかな?』

 「……そうだ。本名ではないがな。ここではそう通っている」


 侵入者は見えもしない笑みを浮かべると、先ずこう語りかけた。


 『正直言って半信半疑だったが、どうやらあの話は本当だったらしい。その金色の球─────本当に、とてつもない力だな』

 「ふん、お前、巫女の話を聞いてやってきたのか。力にあやかりにきたというなら、これは我のものである故、渡せぬぞ」


 そう言われると、侵入者の顔は(それに雰囲気も)急にキョトンとしたものになって、竜の方を見つめ始めた。

 それから少しした後、また突然に大笑いを始めた。


 『ハッハッハ! 傲慢な奴だな。だが安心しろ、俺はそれにあやかりにきたのではない。そんな惨めな真似、この俺がするものか』

 「では、何をしにきた、地を這う塵よ」


 その問いの後、彼は一瞬沈黙して──────


 『()()()()()()()()()()()()、クソトカゲ』


 その瞬間、先程まで彼が立っていたところを熱光線が突き抜けた。

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