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異世界クズ転生 〜原作のままに生きていく〜  作者: しゅー
第三章 それは、竜災に非ず
51/125

巫女の語る伝承、或いは真実 その3


 「それでは、行ってまいります」


 そう言って、今年の生贄(初代竜の巫女)は運ばれていきました。たった一人、カゴ(・・)に入れられて。

 その様子は、例年よりも実に物寂しいものだったそうです。

 皆、豪華絢爛な飾りも、勇壮な楽曲すらなく、ただ悲しい面持ちで彼女をお送りし、これから先の運命(さだめ)を、ただ胸の内に想像することしかできませんでした。


 そして、その(のち)運び手どもは全てを見渡す場所(竜のいる火山)においてその貢物を奉納し(置いていき)、そのままに帰っていきました。

 原初の契約者であった者は、その顔にうっすらと笑みを浮かべて、ただ見守ってきた人々(運び手達)を送りました。



 さて、これより先はもはや観察者のいない記録。

 この世のあらゆる人が、想像することしかできない部分となります。


 ──────そう、「人は」ですが。


 これより先、語り手は人より竜へと移ります。

 果たして、巫女は何をしたのか、何をしなかったのか。その全ては、最期の時、彼女の前に立っていた竜が後に語ったことなのです。

 ゆえに、これより先は言い伝えでございます。全てを見た竜から当時の巫女へ、当時の巫女から書物へ、そして、書物から当代の巫女たる(わたくし)へ。


 嘘か真か、全ては竜のみぞ知る………。


 ────────────

 ──────────

 ────────


 初めて、竜の住処に人が立ち入りました。

 それ以上先へ進めば竜に貢物と認識され、容易く飲み込まれてしまう為に、何者も、そこには近付きませんでした。

 そして、その日は貢物としてではあるものの、人の頃には遂に成しえなかったことを、巫女はやり遂げたのです。


 きっと恐ろしかったでしょう。怯えていたでしょう。

 しかし、贄たる彼女には、その感情を示す権利などありません。

 彼女はただ、自らの目的を果たすべく先へと歩き続けました。


 そして暫くその歩を進めていると、火口の手前、普段竜が眠り、そして生き物を見ると言われる、大きな窪みへと出ました。

 その日、捧げ物を待っていた竜は、漸く到着した()()に声をかけてやります。


 「まさか本当に人を寄越すとは、奴らめ、よほど困窮していると見える。のう、巫女よ?」


 先日の質問の真意に気がついていたはいましたが、しかしそれでも、まさか仲間をそのまま贄とするなど、人の心では耐えられまいと考えていた竜は、目の前に見えている捧げ物に驚いてしまいました。

 巫女は、その言葉に多少眉を動かしたものの、しかし感情を昂らせることなく返答しました。


 『もはや、こうするより他ありませんでした。私たちの生活を鑑みれば、限界などとうに超えている。なれば、ただでさえ余分な口を取る、老いた役立たずを一人、減らした方が幾分かマシでしたから』


 その声が、念話越しとはいえ全くどこまで行っても冷静で、そして正しいのを聞いて、竜はついつい笑い声を上げてしまいました。

 あの日契約をした彼女の精神が、あまりに変わっていなかった為です。


 強く、気高く、美しく、それでいて冷静で賢い。

 人にしておくには、あまりにも勿体無くありました。


 しかし、捧げ物は捧げ物ですから、それは食べてやらねば民が哀れというもの。

 それがたとえ、民にとっては食す方が残酷な選択であろうと、竜にとっては自らの契約(ルール)を曲げるほどのことではありませんでした。


 そうして、大人しくゐるその巫女を一のみにして、この物語はお終い。

 ──────そう、なるはずでした。


 竜がその口を大きく開いたその瞬間、ふと、巫女は声を上げました。

 「要求があります」と。


 贄が急に話し出したという状況を面白いと感じたので、すこし、竜は彼女の話を聞いてやろうと思いました。

 いや、もしかすれば、そこには不遜にも『提案』ではなく、『要求』という言葉を使った彼女への、若干の怒りもあったのかもしれません。


 「なんだ、申してみよ。言うておくが、命乞いは聴かんぞ」

 いずれにせよ、竜は再び口を閉じると、巫女に続きを促しました。


 巫女は、その言葉に薄く頷くと、竜に対してこう伝えたのです。今までのような念話(テレパシー)でなく、その自らの声で、はっきりと。


 「直接口を交わすこと、お詫びいたします。しかしどうかお聞きください。貴方がこの土地にいらしてからもう数十年経ちました。最早、貴方のいない世界を知るものは数少なく、そしてその一人である私も、今こうしてその生涯に幕を下ろそうとしている。そして、それは(ひとえ)に貴方のせいでございます」


 ここで、巫女は一度口を閉じました。

 竜にはそれが恐れ故か、言葉を練る故かはわかりませんでした。


 「今まで、貴方と良好な関係が築けたこと、それは感謝いたします。我々のような塵芥、貴方にとってはまさしく風の前の塵に同じであったでしょうに。ゆえに、これは失礼を承知で申し上げます。もう、この捧げ物の文化は……やめていただきたい」


 呼吸をひとつ。


 「今後もまた飢饉は来るでしょう。その時を生きる民に、同じことをさせるのはとても忍びない。私はそのことを、ずっと考えていたのです。だから竜よ、これは巫女としてでも、人としてでも、民としてでもなく、原初の契約者としての言葉です……捧げ物の強制の契約は、無かったことにできませんか?」


 ここまで言い終わると、巫女は再び沈黙しました。しかし、今度の沈黙は、強い決意のもと行われた、気高いものであることを感じることができました。


 竜はその沈黙で、巫女が話を終えたのだということを悟ります。

 そして当然、ここまで言われて黙っている竜ではありません。


 「我との契約、よしとしたのはお前ではなかったか、契約者よ。それを今更変更などと、それは無理というものだ。お前は、まさかこの我に『タダで私達を住まわせろ』と言うのか」


 そう捲し立てる竜の迫力は、それはそれは恐ろしいものでした。

 この世の全てが恐怖で足がすくみ、この世の全てがその圧で失神してしまうほどに、恐ろしいものでした。

 しかし、巫女はそんな竜を目の前にして、表情一つ崩さず理路整然と答えました。


 「もちろんタダとは申しません。だからこそ、私がここにいるのです。竜よ、私が犠牲になりましょう。私が、数千年に渡って魔力を貴方に捧げ続けましょう。これから先、私の子ら(集落)が貴方に捧げるであろう全てを、私が補いましょう。きっと私の力がなくなる頃には、貴方はもうこの世に飽いてしまいますよ」


 竜は、それをその通りだ、としてしまいました。

 いや、そう思わされてしまいました。

 なぜなら、そう言った巫女の表情は、竜ですら圧倒するほどに凛々しく、覚悟に満ち溢れた顔だったからです。


 「よいのか? もしかすれば、我はいつまでもこの世に飽きぬかもしれぬぞ」

 竜は問いました。


 「もしそうなら、再び私がこの世に生まれれば良いだけのこと」

 巫女は、そう答えました。


 そして、竜は契約を再び結びました。

 『貢物は、もしも可能ならばすること。ただし、しなかった場合に対する抗議権を竜は保有する』と、少し条文を変更して。


 ◇


 その身を変質させ、今にも魔力の塊と成り果てるたろうその時に、ふと、巫女は微笑みます。


 「我儘を聞いてくれてありがとう、我らが懐深き王。私のことは語り継ぐなり、笑うなり、これから好きにしてください。それから、きっと、この力を狙った誰かが今後現れるでしょうが、貴方ならば心配は無用でしょう。それも、貴方に任せます」


 竜はその言葉にふっと笑うと、その場に座り込みました。


 「折角だ、我が交信者よ。貴様の逝き様、最後まで楽しませてもらおう。我儘を聞いてやったのだから、それくらいはいいだろう?」


 巫女は、もう返事をしませんでした。




 巫女の体は光に包まれていきます。

 その光は徐々に、そして際限なく増していきました。


 その明るさは、山の方を眺めていた人々はまるで太陽のようであったと言い、間近で見ていた竜は、この世の全てを包む神の光のようであったと形容しました。


 現代に存在するあらゆる魔法を超えた、当時最強と謳われた巫女の伝説の秘術が、そこで発揮されていたのです。


 それが果たして何だったのか、それは何もわかりません。

 竜ですら、あのような力は見たことがなかったと言います。


 それは、今際の際まで修行を積み続けた巫女の力のなせる技だったのか、それとも、民のため命を捨てた巫女に感動した神が、力を与えた結果なのか。

 それは、ただ巫女のみが知る秘匿です。


 ただ、一つわかるのは──────









 今日も竜の背後には、美しく輝く球がある、と言うことだけでございます。



 最終幕「巫女の秘術」 完

 以下同文。


膨大な魔力は、今日も竜へと注がれる。

それは、ただ未来の民達のために。



ということで、謎に長い三部作、書いちゃいました。

もっと手短なはずだったんだけど……書いてて楽しいのなんのって^ ^;

正直くどいと思った方もいらっしゃると思います。申し訳ありません。

次回からはちゃんといつものに戻るんで、許してください。



あ、そうそう、今日で投稿開始から三ヶ月が経ちますね。

この記念日に、評価とブクマも是非してやってください……。

なんというか、気づけばもうそんなに、ですね。どうも更新も進行も遅い本作ですが、いまだに読んでくださる懐の広い皆様には感謝しかありません。

なんとも拙劣な本作ではありますが、これからも、グリマニアやレイン、そしてやっと登場しそうな攻略対象達の物語(ストーリー)を見守ってあげてください。


貴方の人生に彩りを加えられたなら幸いです。

それでは、また次回にお会い致しましょう。

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